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2015/09/16

おつかれさま。 -at the right time-

現代パロ。社会人設定。「おつかれさまシリーズ」。ゆなり様への捧げもの。


「遅くなっちゃったなぁ……」
 ――11月の末。
 千鶴が残業を終えて、勤めている会社のビルを出ると、真っ暗な夜空から冷たい霧雨が降っていた。
 晴れ間だった筈の空を、灰色の雲がゆっくりと覆い始めたのは日暮れ前の事だ。
 それがどんどん厚みを増し、太陽の光が沈んでから急に雨が降り出した。
 今、雨足は弱まったものの……まだ完全には止んではいない。
 薄桃色の唇から零れるため息が、柔らかな白に染まる。
(冷たいっ……!)
 雨で冷え切った木枯らしが、小リスのような顔に遠慮なくぶつかってくる。
 千鶴は両肩を縮めて眉をハの字に下げると、薄いベージュのコートの袖を少しだけ捲り上げて自分の手首を見た。
 ピンク色に染められた革ベルトの腕時計は、午後21時05分を差している。
 冷たい雨を運んでくる木枯らしを避ける為に、ローヒールのかかとを軽く鳴らして入口から少し離れた屋根のある場所へ移動する。
(ここなら、雨も風も当たらないかな)
 バッグの中から折り畳み式の白い傘を出すついでに、千鶴は持ち手に付けているハンドバッグ型の携帯ケースをサッと手に取った。
 細い指ですいすいと携帯を操作して、メールの受信ファイルを開いていく。
 たった一人の名前だけがずらりと羅列しているリストから、午後三時頃に届けられていたメールのタイトルを……そっと選択した。


『今日は、珍しく早く終わりそうだ。どこかで待ち合わせして、一緒に飯でも食うか?』


 用件のみを伝えるぶっきらぼうな文面から、メールなどのメッセージで余計な話を付け加えたり、長文を書こうとするようなタイプではない事が分かる。  だが、受取人である千鶴にだけは、それがちゃんと愛情のこもった内容が伝わっている。
 無機質な文面が表示されている画面を見つめながら、千鶴はふにゃりと頬を緩ませた。
 ふと、視界の隅に腕時計の文字盤が見えた。
 午後21時11分。
 正しい今の時刻を目で確認した千鶴は、またしょんぼりと肩を落とした。
(二週間ぶりだったのになぁ……)
「……もう、無理だよね」
 ため息交じりに呟いて、千鶴が携帯をバッグに仕舞いこんだ時だった。

「何が、無理だってんだ?」

 艶のある低めの声が、千鶴の背中にぽん、と軽くぶつかってきた。
(えっ……?)
 耳に飛び込んできた、ずっとずっと直に聞きたかった声。
 千鶴がゆっくり後ろへ振り返ると、ビルの横にある屋根がついた一角――喫煙者用の小さなスペースだ――には、吸いかけの煙草を右手の人差し指と中指に挟んで微笑む、黒いコート姿の土方が立っていた。
「とっ……歳三さんっ!?」
「漸く、仕事が終わったようだな」
 二週間ぶりに会えた恋人が、今そこにいる。
 だが何故、土方がここにいるのか。
 嬉しい気持ちと素直な疑問が、千鶴の頭の中でぐるぐると回っていて、上手く言葉が繋げられない。
 千鶴が真っ赤な顔で「あの、えっと」と口籠っていると、土方は楽しそうに「くくっ」と笑って、喫煙スペースに置かれている共有の灰皿の上に煙草を揉み消した。
「メールで送っただろうが。待ち合わせするか?……ってな」
「あ、いえ、それは、そうなんですけど……」
 二人が待ち合わせをした時間は、とっくに過ぎていた。
 数時間前、千鶴のいる部署で突発的に起きてしまったトラブル。
 その処理は、皆で取り掛からねば終わりそうにもなく、残念な気持ちでいっぱいになりながらも「ごめんなさい、今日は残業で遅くなってしまいそうです」と土方に断りのメールを送ったのは二時間前。
 送信した後すぐに、土方からも了承の返事は貰っている。
(それなのに、どうして――)
「何でここにいるのか……って事か」
「は、はい。メールも送りましたし、あの後はご連絡しなかったから、いつ終わるか分からなかったですよね。あのっ、いつから待って……きゃっ!」
 おろおろしながら聞いてくる千鶴を、土方はぐいっと引き寄せた。
 華奢な身体がぐらりと揺れて、寒さで赤くなった柔らかな頬が、土方のスーツの胸ポケットにぽすんっと当たる。
「……会いたかったから」
「!」
「それだけじゃ、待っていた理由になんねぇか?」
 艶のある低い声が、少しだけ上擦っているように聞こえる。
 千鶴の身体を抱きしめる腕に、ぎゅっと力が込められた。
「なり、ま、す……」
「俺もお前も、仕事には一切手を抜けねぇ性質だ。お前が大変な時、俺が迎えに来るのは当然だろうが。それともお前は……会いたくなかったのか?」
「そんな訳、ないですっ……!」
「……それでいい。千鶴、お疲れさん」
 涙声になりながらコートの裾を握って寄り添ってくる千鶴に、ほっと安堵したような吐息と共に、土方の手がポンポンと千鶴の頭を優しく撫でる。
「さて……そろそろ帰るか。腹、減っただろ」
「はい。でも……歳三さん?」
「何だ」
「有り合わせのものでもよろしければ、私が作りますよ?」
 遠慮深い千鶴が口にした何気ない言葉に、土方の身体がぴたり、と身体を強張らせた。
 菫色の瞳を左右に揺らしながら、土方は呟くような声で「……お前の家で、か?」と千鶴に問いかける。
「はい。あ……でも、大した物は作れませんけど。それでも、よろし――」
「お前の家だな。よし、さっさと行くぞ」
「えっ?あ、あの、歳三さんっ……!そ、そんなに引っ張らなくても、ちゃんと歩けますからっ……!」
 冬場の冷たい霧雨は、いつのまにか止んでいた。
 ゆったりとした柔らかな水分は、だんだんと空気に溶けて優しい霧へと変わってきている。
 二週間ぶりに会った恋人同士は、寒さも忘れて力強く手を握り合いながら……あたたかい空気が染まる部屋へと、やや急ぎ足で向かっていった。


-了-


――― あとがき ―――
オンでもオフでもお世話になっている、弓鳴一音さんへの捧げものです。社会人の恋人同士でお互い一人暮らしなら、なかなか予定が合わないなんて事はざらにあるだろうな、と。
千鶴ちゃんは真面目なタイプですし、土方さんは仕事人間なので、尚更お仕事に専念していそうですしね。
そうなったら、すれ違いも多いだろうから、こういう風にサプライズな待ち伏せもアリなんじゃないかなーと思ったわけです。
リアルでやると、すれ違って相手が既に帰っちゃっていた時の絶望感と、タイミングが合わずに相手から「こっちの都合も考えろ」と怒られる可能性もあるので、ちょっと注意した方が良いですwww


 タイトルの「おつかれさま。」ですが、土方さんは千鶴ちゃんにいっぱい言われているので「たまには言ってやれw」ってことで、まんまのタイトルにしましたw
サブタイトルの「at the right time」は、「ちょうどいいところにきた」という意味だそうです。すれ違いかけていた二人が、タイミング良く合わせて幸せに待ち合せられた」という意味を込めています。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : おかえりなさい

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
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Twitter: @to7mikaya_3na10
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