--/--/--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2015/09/03

紫紺の空、群青のため息-It's too late now.-

現代パロ。斎千沖。一さん視点。沖千斎「茜色の頬、橙色の指先」の別√話。


―――爪先がかじかむ、二月の末。

「失礼しました」

 俺は、引き戸になっている職員室のドアをガラリと開けると、くるりと身体を後ろに向き直してから中にいらっしゃる先生方に挨拶をした。

「気を付けて帰るんですよ、斎藤君」
「遅くまで、ご苦労さん。また明日な」

 眼鏡をかけ直しながら微笑む山南先生と、腕組みしていた右腕を崩してひらひらと手を振る原田先生に、俺は「はい」と頷いてから退室した。
 職員室に入った時、廊下は夕焼けに照らされてオレンジの光と濃い灰色の影で美しいコントラストを描いていた。
 今は、夕日で彩られる眩い橙色は殆ど残ってはおらず、影を更に濃くした藍色がひたひたと足を忍ばせるかのように徐々に闇夜に迫っている。
 コートの袖の裾を捲り上げて腕時計を見ると、最後に時間を確認した時刻から既に三十分が過ぎていた。
 俺が職員室に行ったのは、いつも風紀委員の作業で使わせてもらっている理科実験室の鍵を返すためだ。
 一休みをしていた原田先生と山南先生に声をかけられた俺は、山南先生に「いつも風紀委員の仕事を頑張っている褒美ですよ」と温かい日本茶を御馳走になって、和やかに世間話に花を咲かせて気が付けば、とっくに日が暮れていた。

(少々長居をし過ぎたな)
(先生方の邪魔をしてしまったかもしれん……)

 少しだけ後悔の念を頭に浮かべながら、俺が真っ直ぐ昇降口へと向かった―――その時だった。

「寒くない?千鶴」

 二階フロアへと続く階段を降りてくる足音と共に、優しく問いかける声が聞こえた。

(!)

 いつもニヤニヤと人を食ったような笑みを零しながら、性質の悪い悪戯をしかける奴から出てきたものとはとても思えない、気づかわしげな声。
 奴――沖田総司がこれほどまでに優しい声で話をする相手は、小さい頃から「尊敬している」と自ら公言している近藤学園長以外では、たった一人。
 【彼女】しかいない。

「はい、大丈夫です。総司先輩」

(……!)

 可愛らしく返事をするその高い声に、胸の奥が、じくり……と、鈍く痛んだ。
 彼女の名は、雪村千鶴。
 この薄桜学園の中で、唯一在校している女子生徒。
 二人が、今月の半ばあたりから付き合い始めた事は――もう周知の事実だ。
 そして……俺――斎藤一が、彼女の事を諦めきれぬまま、密かに横恋慕している事は……おそらく誰も知らない。





「ねぇねぇ、千鶴。帰りにさ、あのコーヒーショップに寄ろうよ。僕、ゼブラマキアートが飲みたくなっちゃった」
「ふふっ、いいですよ。ゼブラマキアート、総司先輩の最近のお気に入りメニューですね」

 弾むような楽しそうな恋人同士の会話に、思わず耳を澄ませる。
 ちくちくと痛む胸のあたりにぐっと右手の拳をあてながら、俺は靴箱棚の影に隠れてそっと息をひそめた。
 別に、隠れる必要などない。
 二人の関係が変わっても、俺が総司と同輩であり部活の仲間であり、剣の道を歩むライバルである事は変わらぬ事だったし、彼女が先輩として慕ってくれる事も俺が後輩として面倒を見る事も何ら変わりようのない事だ。
 それでも今は……どうしても、恋人同士特有の甘やかな空気を纏わせて仲良く会話をする二人の前に、堂々と姿を現す気にはなれなかった。

「うん。ちょっとハマっちゃったかも。千鶴は?いつものココアカプチーノ?」
「そうですね……あ、そうだ。ロイヤルイングリッシュブレックファーストティーラテにします」
「何それ、美味しそうなんだけど」
「ティーラテの茶葉をイングリッシュブレックファーストにして、シロップをホワイトモカにするんですよ。この前お千ちゃんがオーダーしていて、一口飲ませてもらったらすごく美味しかったんです。今度は、自分で注文してみたいなって思ってて」
「そうなんだ。じゃあ、後で少し味見させて?僕のも少し飲ませてあげる」
「はい!」

 二人は、俺には全くわからない呪文のような言葉を幾つも幾つも口にして楽しそうにこの後の約束をしている。
 くすくすと楽しそうに笑う声が、ずしり、と重く背中にのしかかった。
 互いに交している声のトーンがパッと明るく華やいでいて、物陰に隠れている自分と二人の世界は、全く別次元のように思えた。

(何をやっているんだ、俺は……)

 馬鹿らしい――心底そう思ったが、それでもこの物陰から一歩踏み出す勇気が出なかった。
 トントンと、別々のリズムで二人の靴を履き替える音が聞こえて、幾つもの靴箱棚を挟んだその先で総司の「じゃ、行こうか」と千鶴を促す声が聞こえる。

「はい、先ぱ……っ!」

 総司の言葉に返事をしようとした千鶴の声が、途中で途切れたような気がした。

(何だ……?)

 物音一つ、聞こえない。
 俺のいる靴箱棚から、更に幾つもの靴箱棚を挟んだ五メートル程先にいる筈の二人は、じっと黙ったままでいるようだ。
 不審に思った俺が、そっと顔を出そうとした時。

「は、ぁ」
「…ふ」

 甘く零れる吐息のような、艶めかしい声がぽろり、と、零れた。
 やっと自然な呼吸が出来た―――そんな、ため息が俺の耳を黒く汚した。

(……!!)

 はっきりと、その場を見た訳じゃない。
 だが、二人が何をしていたか位は……鈍い俺にも、察しがついた。
 ぎりぎりと、胸の奥が痛む。
 奴を妬む黒い感情がぐわっと湧き上がって、俺はよろけそうになる身体を必死で耐えて留まった。

「そ、総司先輩っ!こんなところ、人に見られたらっ……!」
「うわ、千鶴の顔、真っ赤!ほんと、可愛いよね」
「…っもう!知りません!」
「あはは、ごめん。ごめんってば」

 けらけらと上機嫌で笑う総司の声と、上擦ったような千鶴の声がだんだんと遠のいて、玄関入口のドアのバタン!と閉まる重たい音が響いた。

(行った……か)

 一歩。
 また一歩。
 ゆっくりとした足取りで物陰から出ていくと、ガラス張りで出来た玄関口の先――正門の方へと続く煉瓦造りの道を、手を繋いで仲睦まじく歩く二人の後ろ姿が見えた。

(この光景にも……慣れなければ、な)

 小さくなっていく二人の影が、夕暮れの暗闇のせいで、まるで一つに重なるように遠のいていく。
 俺は、二人の背中が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしたままぼんやりと眺めていた。



 二人が付き合い始めたのは、去年のクリスマスイブがきっかけだそうだ。
 千鶴の買い物に付き添う約束をした総司が、当日その場で彼女に告白したらしい。
 奴の女性関係は中学の頃から酷く荒れたものだったため、平助からその事実を聞いた時俺は「何の冗談だ」と眉を顰めた。
 気まぐれを起こすにも程がある―――俺が文句を言おうと思ったのも束の間、奴は自分の想いが真剣なものだと証明するために、自分自身を変えていった。
 他の女性達との関係をきっちりと断ち切り、幾度となく彼女に熱烈なアプローチをかけ、年が明けて新学期が始まってからは毎朝彼女の家へ「一緒に登校しよう」と迎えに来たそうだ。
 遅刻魔で、マイペースで、おそらく学校一気まぐれな奴が、毎日……だ。
 それまでの総司の素行を知っている人間は勿論、一心に奴からのアプローチを受けている彼女にも奴の真剣さは徐々に伝わっていき、その結果……今の状況となった。

『斎藤先輩』

 はにかむ彼女の笑顔が頭に思い浮かんで、俺は眉根をぐっと寄せた。

(気付くのが遅すぎた……というのは、言い訳だな)

 綺麗な黒髪を横に結わえて。
 白い頬を微かに赤く染めて。
 可愛らしく笑いかけてくる彼女を視界にとらえては、胸の奥がぽかぽかと暖かくなる事を不思議に思いながらも、俺はだらしなく頬を緩ませていた。
 それが恋心だと自分自身で気が付いた時……既に彼女は、奴の隣で笑っていた。

「総司先輩!」

 俺には絶対に見せない、くしゃりと破顔する彼女の声が、頭の奥でこだましたような気がした。
 甘さを含んだあの可愛らしい声で、俺の名を呼んで貰いたかった。
 もっと早く、自分の気持ちに気が付けば良かったのか?
 総司が動いた時に、恥も外聞もなく「俺もお前が好きだ」と走り出せば良かったのか?
 ――分からない。
 たとえその答えが正しかったところで、全てが遅すぎる。
 奴の隣で笑っている彼女の顔は、それはそれは幸せそうで。
 俺が入り込めるような隙間など全くないという事は、誰が見ても明らかだった。

(女々しいにも程がある……な)

 はあ、と。
 何度となく吐き出したところで、何も変わりはしない事は分かっていた。
 喉元で息が詰まるような、酷い息苦しさ。
 胸の奥に、真空の穴でも空いているかのような酷い虚無感で、今にも倒れそうだと思った。
 右頬をピシャリとはたくような、冷たい突風が吹き荒ぶ。
 俺は北風で乱れた髪を軽く整えると、首に巻いているマフラーをくるりと巻き直した。
 見上げると、空は紫紺に染まりつつある。

(いい加減―――諦めねば、な)

 そう決心して吐いたため息は、凍えた空気の白から夜空の群青へと、緩やかに溶けていった。



-了-

――― あとがき ―――
このお話は、沖千斎「茜色の頬、橙色の指先」の別√のお話です。
「一さんに片思いをする千鶴ちゃんを諦めずに、沖田さんが逆転ホームランするお話」です。
斎藤さんが悩んでいた通り「自分も走り出せば…?」という可能性ですが、斎藤さんが勝利する可能性はかなり高かったと思います。
どちらかを選ぶという時、千鶴ちゃんはすごく悩んだと思いますけどね。

でも斎藤さんは勝負には出ず、勇気を出さずに足を進めませんでした。
沖田さんは、自分の勝敗の可能性は低くても、それでも足を止めませんでした。

私は、悩んでもあがいても頑張る子が大好きなので、沖田さんに軍配を上げました。
沖田さんの前で、幸せに笑っている千鶴ちゃんの描写を入れたのは「努力をした沖田さん、努力が出来なかった斎藤さん」との対比として入れています。

最後に「諦めないとなぁ」と斎藤さんが思うところで終了していますが、人の気持ちはそんなに自由にコロコロと変わる事は出来ないので、結論をつけるのはやめておきました。
自分の気持ちに区切りをつけるのか、今更遅すぎても構わないって走り出すのか、このまま諦めずに胸の内でこっそり思っているのか。
それは読み手さんの自由に想像して頂いてもよいかな、と!w
沖田さんの片想い話のタイトルが”赤”だったので、一さんの片想いのタイトルは”青”にしました。
サブタイトル「-It's too late now.」は、「遅すぎた」という意訳です。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 企画

<< 仄かなる火-I never say anything- 必殺!花盗人の仕置き人!! >>

コメント

コメントの投稿

URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 

 BLOG TOP 

プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
Pixiv: 4211441


※現在、WEB拍手は3作品です。
龍鈴(薄桜鬼)/原千(薄桜鬼)/
薬研&光忠(刀剣乱舞)

カテゴリー

シリーズ(完結済)

薄桜鬼。2話~の作品。完結済。
◆ジレンマシリーズ
沖田編 1234
斎藤編 123456
平助編 1234
原田編 123
土方編 123456

◆対決シリーズ
沖田VS平助 沖田編平助編
原田VS土方 原田編土方編

◆片思い対決(色)
沖田VS斎藤 沖田編斎藤編

◆SSV(バレンタイン)
沖田編
斎藤編後日談
平助編後日談後日談2
原田編
土方編
山崎編(移行中)

◆雨上がりの行方(沖千斎)
沖田編斎藤編

◆翻弄しないでくれる?(沖千)
本編番外編

◆幸福を得た獣(土千)
本編番外編

◆果てなき心(原千)
前編後編

◆笑顔に会いたい(平千)
前編後編

◆祈り結く声(平千)
前編後編

◆目覚めた想い(平千)
1234

メールフォーム


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。