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2015/09/02

其は幸福に似て-Linked by fate-

幕末設定。土千。企画。「幸福を得た獣」の番外編。


 いつのまにか…雪は解け、木々が新芽の蕾をつけ始める頃。
近藤さんの部屋からてめぇの部屋へ戻ろうと俺が廊下を歩いていると、巡察から返ってきた隊服姿の新八と原田に後ろから声をかけられた。
「おぅ。二人共、ご苦労だったな。何か変わりはあったか?」
「いや、特に大した事はなかったぜ。町中での揉め事もなかったしよ。変わった事といやぁ…そうだな、「竹屋」の主人に声をかけられた位だな。」
俺が原田に「竹屋?」と聞き返すと、原田の隣にいた新八から「ひでぇなぁ、土方さん!」とでかい声で呆れたように笑われた。
「ちっと前、土方さんが店から借りた傘を、オレ達に頼んできた事があったじゃねえか。「色町へ行くなら、ついでにこいつを返して来てくれ」ってよ。「竹屋」は、その揚屋だよ。土方さん、そこの芸妓を袖にしちまっただろ?店のオヤジが「ここんところ、土方はんはお忙しいようどすなぁ、すっかりウチんとこもお見限りやし」って、残念そうに言ってたぜ?」
「新八…京なまりでオヤジの真似してんじゃねぇよ、気色悪ぃ。まぁ…何だ。最近土方さん、色町にも足を運んでねぇだろ?オレ達も、芸妓の姐ちゃん達からよく聞かれるんだぜ?「誰か良い女とデキちまったんじゃねぇか」ってな。」
新八の頭をどついてから、原田は揶揄うような口調で笑いながらそう言った。口の端は笑っているが、探るような目つきで俺の出方を待っている…何かを悟っているみてぇな表情だった。

 俺が色町へ足が向かなくなった事に、特に大した理由なんかなかった。
ここんところずっと仕事が立て込んでいたし、特に鬱屈した何かがあった訳でもねぇ。色町へ出て、気晴らしをしたい―――そんな気分にならなかっただけの話だ。
 …と正直に言ったところで、こいつ等は真から納得なんかしやがらねぇだろう。
さて、どうするか…と、俺が言い訳の言葉を考えあぐねていると、廊下の向かい側から源さんと千鶴が歩いてくるのが見えた。
「源さん、千鶴。何だ…どうかしたのか?」
「あ、お話中にすみません。本日の夜、近藤さんと土方さんはお出かけすると、斎藤さんから先程伺いました。夕餉のご用意は、いかがなさいますか?」
「夕餉の当番は、私と雪村君なんだ。今日は、お偉いさんとの会合なんだろう?一応、聞いておこうかと思ってね。」
源さんは月代の頭を撫で付けると、千鶴と嬉しそうに微笑み合う。まるで仲の良い父娘みてぇな光景だ。
原田の横で、新八は「おぉ、じゃあ今夜の飯は絶対美味いな!!」と両手で握り拳を作っている。今夜も、いつも通りあのやかましい飯の争奪戦が起こるんだろう。騒々しいこった。
「俺達の夕餉なら、用意はしなくていい。帰りは、おそらく門限を過ぎた頃になっちまうからな。」
俺が逡巡する事もなく、きっぱりと言い放った時だった。
「そうですか、分かりました。それでは、お握りだけ作っておきますね。」
「いっ…!?」
「お、おい…千鶴?」
「雪村君?」
俺の言葉を聞いた筈なのに、千鶴はにこやかに微笑みながらそう返事をしてきた。

 …今、こいつは何て言いやがった?

千鶴は、にこにこと普段通りの可愛らしい顔で俺に笑いかけてきやがる。他の三人は、驚愕の顔をしたまま、無言で千鶴を見ていた。
「…聞こえなかったのか。俺は、「飯はいらねぇ」って言ったんだぞ。」
「お握りは、夕餉ではありません。お夜食です。」
「はぁ?夜食?」
「はい。土方さん、お帰りの後はそのままお仕事されるんですよね?それなら、たぶんお腹空いちゃいますよ。満腹過ぎると、頭の巡りが鈍くなるのは事実です。でも、空腹過ぎるのも良くないんですよ。苛々しやすくなって、集中出来なくなりますから。医師である父から、よく聞かされました。「大事な時だって分かっている時程、お腹に何か入れておくべきなんだ」って。お帰りになられたら、大事なお仕事をされるんですよね?」
千鶴は一息でそう言い終えると、にっこりと笑った。
 こいつは、寝食も忘れて俺が仕事に没頭する事を知っている。
普通に言ったら俺が突っぱねるって分かってて、わざと「医師の娘」として、「大事な仕事をするなら…」と意見しやがった。「人前でこういう言い方をしたら、無下にしないだろう」とふんでの行動に違いねぇ。
 ったく…俺の扱い方が上手くなりやがって……。
原田や新八はおろか源さんまでもが、俺と千鶴を交互に見ては、楽しそうににやにやと笑っている。「鬼副長」と呼ばれて平隊士から恐れられているこの俺が、こんながきみてぇな女に言いくるめられちまうなんて…な。
「あぁ、分かった分かった!夜食でも何でもいいから、俺の部屋に置いとけ!言っとくがな、てめぇはちゃんと寝てろよ!?わざわざ俺が帰ってくるのを待っているなんてこたぁ、しなくて良いからな!…もし、俺が帰る時にまだ起きててみろ。ただじゃおかねぇから、覚悟しとけ!ついでに、後で俺の部屋まで茶を持って来い!美味い茶を淹れるのは、お前の大事な仕事だからな。分かったら、とっとと用意して来い。」
千鶴は大きな瞳をもっと大きく見開かせると、満面の笑顔で「はい!」と嬉しそうに返事をして、源さんと一緒に勝手場の方向へと歩いていった。俺はやれやれ、と肩で大きく溜め息をつくと、まだにやにや笑っている原田と新八に「じゃあな」と声をかけて踵を返した。
「…ありゃあ、色町になんか行かなくなる訳だぜ。」
「ああ、だな。」
部屋へと向かう俺の背中に、呆れたような嬉しそうな口調でこそこそ話す二人の声が聞こえたが、俺は聞こえないふりをした。


「土方さん、お茶です。あ…こちらの書状は、奥の机の上に片付けても構いませんか?」
「あぁ。悪いな。後で使うかもしれねぇが、今はそっちへ置いといてくれ。」
「はい。それでは、墨のご用意もしますね。」
「すまねぇな。頼む。」
「いいえ、この位しか出来ませんから。」
千鶴はふわりと微笑むと、仕事に没頭し始めた。
 見た目は、町中で見る同じ年頃の女とそれ程…いや、ちっと幼く見えるかもしれねぇ。背格好も、「女」というよりは「少女」といった風体だ。
まだ完全に成長しきっちゃいねぇ…たとえるなら、まだ熟し切れてねぇ青さの残る固い果物ような女。それに比べて俺は、こいつがまだよちよち歩きの頃に元服を済ませたような年嵩の男だ。一回り以上も年の離れた二人が並んで歩けば、外の奴から見れば異質なものに見えちまうだろう。
 それなのに、どうしてこんなにも…心が落ち着くような、穏やかな気持ちになるんだ?
…分からない。気がついたら、こんな空気が作られていた。
こいつは俺の傍らで、いつもこんな風に笑って―――。
「土方さん?どうかされましたか?」
「…いや、何でもねぇ。」
俺は、いつのまにか千鶴の事をじっと見ていたらしい。俺からの視線を感じた千鶴に問われて、俺は曖昧に交わしながら、また文机に広げた書状へと視線を落とした。

 この安らぐ気持ちが、どんな名なのかなんて知らねぇ。知りたくもねぇ。

 ただ今は…このひどく幸福に似た穏やかな空気の中、このまま二人で過ごしていたいと思った。


-了-

――― あとがき ―――
このたびは「其は幸福に似て- Linked by fate -」を読んでくださって、ありがとうございました。
このお話は、「幸福を得た獣-Linked by fate-」の番外編のお話です。

最初「幸福を得た獣」に収録する予定でしたが、お話の流れがぐだぐだになる可能性を考慮して、削ったものでした。
とはいえ、このエピソードもとても気に入っていたので、「よし、番外編でいこう」と分ける事となりましたw

タイトルの「其は幸福に似て」ですが、「幸せ」というものから遠く離れた場所にいる二人が、「幸せのように感じるいつもの日常」という意味を込めました。
サブタイトルの「Linked by fate」は、「運命的な繋がり」という意味です。日本でいう「縁」の事をいうんだとか。
千鶴ちゃんと隊士達の出会いはそれこそ「不思議な縁」であり、土方さんとは特に色々な物が本当に違う二人なので、このサブタイトルにしました。
一度は離れ離れになりましたが、また再び巡りあえて幸せになれた二人なので、「縁」をテーマにしてみましたw

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 企画

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プロフィール

となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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