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2015/09/02

ジレンマ土方編・陸-There aren't any good words-

幕末設定。土千。 恋仲になる前の捏造設定。共通テーマ「ジレンマシリーズ」


封じ込めてきた気持ちを、てめぇ自身の意思で、他人に明かす時が来るとは…な。
 正面には、冷ややかな笑顔から一転して真面目な顔つきをした千姫と、不安げな表情のままの君菊が俺を見つめている。
 俺はゆっくりと深呼吸をすると、静かに口を開いた。

「俺は―――」

 千姫と君菊からの視線が、より一層強くなったような気がした、その時だった。
 部屋の外の廊下でばたばたと誰かの走る足音が聞こえたかと思うと、俺達がいる部屋の前でぴたりと止まる。
 何だ?
 視線だけを戸に向けた瞬間、勢い良く障子戸が開け放たれた。
 そこには、捕らわれの身となっている筈の、芸者姿の千鶴が立っていた。

 千鶴!?
 俺は驚きのあまり、声も出せなかった。
 豪奢な着物を着て髪を結い上げている芸者姿の千鶴は、強張った顔をしているせいか、仁王立ちしているように見えた。
 俺が思わず息を飲んで見上げていると、千鶴は息を荒げたままずんずんと部屋に入り、俺に近づいてくる。

「ちづ―――」

 俺が、声をかけようとした瞬間。
 千鶴は俺の傍に座ると、着物越しではあるが俺の身体のあちこちをぱたぱたと触ってきやがった。
 …いや、ちょっと…待てっ!
「おい、止せっ!」

 俺の顔にかかる髪を横へ流そうとする手を強引に取ると、千鶴は驚いたような顔で俺の顔を見つめた後、涙を滲ませながらふわりと笑った。

「良かった…ご無事だったんですね。下の騒ぎで、お怪我でもされていないかと……。」
「あぁ!?」

 何を言ってやがるんだ、こいつは?
 そもそも俺が、あんな騒ぎで下手を打つような奴だとでも思ってやがるのか。

「…そりゃ、俺の台詞だ。おい千鶴、お前大丈夫なのか?あの糞坊主はどうした!?まさか、お前がやっつけた訳でもねぇだろ。」
「あ…はい。土方さんが出ていかれた後、福蓮様に無理やり連れていかれたんですけど…そのお部屋で注文したお酒を福蓮様にお出しした途端、眠ってしまわれて……。偶然それを見た女将さんが、たまたま空いていた別のお部屋に匿ってくれたんです。」

 いつも通りの千鶴の態度に、俺はがっくりと肩を落としてため息をついた。
 おい…それは、偶然じゃねぇだろ。
 大方、千鶴が攫われる瞬間を角屋の誰かが見て、酒に一服盛ったんだろう。
 あの糞坊主は、元から浴びるように酒を飲んでいたからな。
 薬の効き目も早かったんだろう。
 …―――という事は、だ。
 俺は正面に向き直ると、厳しい視線で目の前にいた千姫を睨みつけた。
 千姫はさっきとはうって変わった、にこやかな笑顔で俺と千鶴を眺めている。
 君菊は多少良心が咎めるのか、困ったような複雑な表情を浮かべていた。

「…千姫さんよ。どういう事か、説明してもらおうじゃねぇか。」
「ご説明も何も、特にございませんけど?貴方が助け出す前に、角屋の女将さんの機転で千鶴ちゃんが助け出されていたという事です。大事にならなくて、良かったじゃないですか。」
「ふざけんじゃねぇ。角屋の女将が機転を利かせたって事はな、あんたが一枚噛んでなきゃありえねぇって言ってるんだよ。そうなると、さっきまでの話は嘘…って事になるよなぁ?」

 俺と千姫の間に流れる不穏な空気に、話が見えない千鶴は俺達の顔を交互に見ながらおろおろしている。

「…君菊。千鶴ちゃんの着替えを、手伝ってあげて頂戴。」

 君菊は「はい」と返事をすると、不安そうな顔をしている千鶴を連れて部屋を出て行った。



 部屋には、重苦しい沈黙が流れていた。
 千姫はふうっと深いため息をついたかと思うと、さっきと同じ冷たい視線で俺を睨みつけてきた。

「…確かに、この部屋を訪ねる前に、千鶴ちゃんが助け出されたという話は聞きました。それで、あなた方も彼女の心配をしているだろうと思い部屋を訪ねたら、貴方が最初に「話がある」と話し始めたんです。あの話の後で、私が素直に本当の事を言う気になれるとお思いですか?大事な同胞を、あなた方に預ける事すら不本意なのに…「新選組が襲撃された」という話を耳にする度に、私達がどれほど彼女の身を案じているか…!貴方が先ほど感じていたような思いを、私達が感じていないとでも思ってらっしゃるのですか。」

 千姫の冷たい瞳の奥に、無力故の悔しさと憤りを見たような気がして、俺は言葉を詰まらせた。
 俺があいつの心配をするように、こいつ等だってあいつの心配をするのは当然だろう。

「私達がどれほど心配していても…私達では、駄目なんです。彼女が、心から共に在りたいと思っている場所は…新選組なのですから。私としては、認めたくはありませんけれど。」

 千姫は、悔しさの混じった悲しげな声でそう言うと、小さく肩を落とした。
 確かにこりゃあ、不公平…かもしれねぇな。
 俺は微かに視線を横に這わせると、「これは俺の個人的な話だから、聞き流してくれて構わねぇ」と、呟くように言った。
 千姫の怪訝そうな顔が目の端に映ったが、俺は気にせずに口を開いた。

「…俺は、女の趣味には少々煩くてな。ただの女には、興味が沸かねぇんだ。見た目は礼儀正しくて淑やかそうだが、中身は俺をも凌ぐ程の頑固者を好しとしている。真っ直ぐで、潔くて。てめぇの事よりも他人の事を重んじて、ついつい損をしちまうような…人情深い、お人好しだ。こんな面倒な女……俺は、今まで一人しか会った事がねぇ。俺は…そういう女を、てめぇの身で守りたいと思っている。」
「土方さ―――」
「さて。そろそろ着替えも終わった筈だ。屯所へ帰らせてもらう。…あいつも一緒に、だ。」

 千姫が言いかけた言葉を俺は無理に遮ると、すっと立ち上がった。

「…彼女を、どうぞよろしくお願い致します。」

 千姫は、納得したようにいつもの気品に溢れた笑顔で微笑むと、そう言って美しい所作で俺にお辞儀をした。




 島原から、屯所へと戻る帰り道。
 俺の後ろをついてくる千鶴は、明らかに落ち込んでいた。
 どうやら、「大した役にも立てなかった」とてめぇの無力加減を責めているようだった。
 糞坊主からの証文は既に手に入っている訳だから、千鶴は特に失敗をしちゃいないんだが。

「…千鶴。お前が変装して仕事をするのは、もうこれっきりだ。今後は、伊東さんに頼まれても断れ。いいな。」
「はい…」

 小さく聞こえた返事の後で、千鶴のすすり泣く声が微かに聞こえてくる。
 俺は軽いため息をつくと、くるりと後ろを振り向いた。

「!」

 千鶴は驚いた顔で俺を見ると、「すみません」とごしごしと涙を拭った。
 泣き顔を見せるのは、見っとも無いと思ったのだろう。
 涙を無理やりに引っ込めて、凛とした瞳で俺の顔を見上げてくる。

「勘違いするんじゃねぇ。俺はな、「身の丈に合わねぇ仕事はするな」って言ってるんだ。…明日の昼過ぎに、また大広間で幹部全員参加の合議がある。全員分の茶を淹れて、お前が持って来い。お前の茶の味に、皆慣れちまってるからな。頭の痛い話をしている時に、平隊士共の不味い茶なんか飲んでられるか。いいな。これは、お前だから出来る仕事だ。」
「……はい!」

 千鶴は、花が一斉に綻ぶように華やかな笑顔を向けて頷いた。


 こいつがこんな風に笑う姿を、俺はいつまで見ていられるんだろうか。

 俺としては、こいつが不幸にならねぇ道を歩んでもらいてぇだけなんだが…な。

 こいつの手を取らねぇと決めたが……結局はこいつの笑った顔が見てぇと思っちまうあたり、もう手遅れなのかもしれねぇな―――。

 遅咲きの梅の香りを含んだ夜の風が、慰めるように俺の頬をするりと撫でていった。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、「主人公が、千鶴ちゃんとの関係でオロオロ、苛々、ハラハラする」という本編と違う捏造話です…が。
土方編だけは、他のキャラとは設定が変わっておりまして、いわゆる「恋仲設定」ではありません。
彼のキャラを考慮して、あえて「恋仲にはならないと考えている」という設定にしました。

「島原潜入捜査」を聞いた伊東さんが、千鶴に仕事を頼みたいと依頼しますが、伊東さんは頭の切れる人物なので、試衛館派の幹部達に可愛がられている千鶴をつついて彼等の弱味などを見つけられないか―――と企んでいる、という設定にしています(ちゃんと表現出来ませんでしたが;)。

色ボケ坊主に口説かれている芸者姿の千鶴を黙って見ていなくてはいけないとか、芸者と客の刃傷沙汰を目の当たりして、自分と千鶴との関係に思い悩んだりとか、千鶴が坊主に誘拐されたりとか、伊東さんに往復ビンタを食らわしたりとか(たぶんやつあたりも含む)、お千ちゃんから辛辣に言われりとか、散々ですね;;;
最後に、ラスボスお千ちゃんから非常に厳しく正論を言い放っていただき、土方さんが白状(?)する訳ですが。
結局二人は恋仲へとは発展せず、これからの事を考えてやはり不安に思う土方さんでしめました。

サブタイトルの「There aren't any good words」は、「上手い言葉が見つからない」「言葉に出来ない」という意訳です。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : ジレンマ・土方編

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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