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2015/09/02

ジレンマ土方編・肆-There aren't any good words-

幕末設定。土千。 恋仲になる前の捏造設定。共通テーマ「ジレンマシリーズ」


千鶴がいねぇ―――あの河豚坊主もだ。
 どこだ!?
 どこへ行った!?
 部屋はしん、と静まりかえっていた。
 息を押し殺しながら中へ入ると、床の間の近くで誰かが倒れているのが見えた。

「…伊東さんっ!?」

伊東さんは、大八車で潰された蛙のように、大の字の姿でうつ伏せに倒れていた。
 どうやら気を失っているらしい。

「おい、伊東さんっ!おいっ!!」

 伊東さんを仰向けにして揺すって声をかけてみたが、反応はまったくねぇ。
 ―――仕方ねぇな。
 俺は伊東さんの胸倉を掴むと、意識が飛んじまっている伊東さんの両頬を何度も張り倒した。
 平手が二往復半したところで、伊東さんは呻き声をあげながら漸く目を覚ました。

「痛…ちょっと貴方、何て事をっ……」
「んなこたぁどうでもいい!!何があったんだ!?千鶴と、あの糞坊主はどうしたっ!?」

 胸倉を掴んだまま喚くように問いただすと、伊東さんは青ざめたまま小さな声で話し始めた。



 俺がいなくなってすぐ、あの河豚坊主は「千鶴と二人きりになりたい」と抜かしやがったらしい。
 伊東さんが「次の座敷がある」とやんわりと断ると、河豚坊主は残念そうに笑ったそうだ。
 暫くして階下で騒動の音が消えた頃、不意を突かれた伊東さんは後ろから頭を殴りつけられたらしい。
 十中八九、あの河豚坊主の仕業だろう。


 「土方さん」


 俺に向かって、遠慮がちに声をかけて笑う千鶴が脳裏に浮かんだ。
 くそっ…俺がついていながら、何て様だ……!!
 千鶴……!!
「土方さん。これから、どうなさいますの?」

 伊東さんの声で、俺ははっと我に返った。
 ―――落ち着け。
 俺は新選組副長、土方歳三だ。
 ここへは、仕事で来たんだろうが!!
「…伊東さん。あの坊主から、資金融資の約束を交わした証文はとれたのか?」
「えっ?ええ、ここに…。」

 伊東さんが懐から出した書状を確認すると、文面に問題はねぇようだ。
 これで、あの糞坊主の寺から金をふんだくる事が出来る。

「伊東さん。この書状を持って、先に屯所へ帰っててくれ。会合が終わりそうな頃、斜向かいにある店で待機しておくよう、斎藤に命じてある。あんたの護衛役を努めるには、十分だろう。」
「……では、土方さんは、雪村君を助けに行かれるおつもりですのね?」

 値踏みをするような射抜くような瞳で、伊東さんは確信を持った口調で問いかけてきた。
 漸く本調子を取り戻したらしい。
 否定も肯定もせず、伊東さんの顔からふいっと視線を外すと、伊東さんは呆れたようにため息をついた。

「随分、あの小姓さんにご執心ですのね。まぁ確かに、女子と見紛うばかりに愛らしいですけれど。副長である貴方が、直々に救出ねぇ……?」
「…伊東さん、勘ぐらねぇでくれ。今回あいつは、男なのに「似合うから」ってだけで無理矢理女の格好をさせられて、糞坊主に秋波を注がれ続けてたんだぞ。おまけに上役である俺とあんたが下手をうっちまったせいで、貞操の危機に陥ってる。それをあんたは、気の毒だと思わねぇのか?」
「それは…」

 伊東さんは言い淀むと、上目遣いでちらちらと俺の顔を覗き込む。
 おい…どうしてこの質問で、妙に恥らったような顔であんたに見つめられねぇといけねぇんだ。
 考えたくもねぇ想像がちらりと頭を過ぎったが、そんな事をしている余裕はねぇ。
 俺は咳払いを一つすると、口を開いた。

「…とにかく。部下がそんな目に遭っちまうのは、はっきり言って寝覚めが悪いからな。伊東さんは書状を持って、屯所へ戻っててくれ。」

 伊東さんはこくりと頷くと、何故か妙に上機嫌な足取りで部屋を出て行った。
 それとは入れ違いに、今回の作戦に協力してくれた千鶴の友人・八瀬の千姫と、従者の君菊が開いている戸の脇から顔を出した。

「失礼します。土方さん、会合はお済みになられましたか?そろそろお座敷のお時間が―――」
「悪いが二人共、そこに座ってもらえねぇか。…話がある。」

 俺の神妙な声音に、二人はただ事ではない事を悟ったらしい。
 無言のまま、優雅な所作で俺の前にふわりと正座した。



 俺は、千鶴が坊主に攫われたことを二人に告げた。
 二人は微動だにしなかったが、無言のまま投げかけてくる俺への強い視線は、静かな怒りに満ちていた。

「この店に多少顔がきくあんた達なら、あの糞坊主がどこに部屋をとったか分かる筈だ。千鶴が攫われちまったのは、俺の責任だ。一刻も早く千鶴を助ける為にも、頼む…教えてくれ。」


 「私、皆さんのお役に立てるよう頑張りますから!大丈夫です!」


 千姫からの言葉を待っていると、皆の反対を押し切って笑う千鶴が、脳裏に浮かんだ。
 頼むから、無事でいてくれ。
 千鶴……!!
 誠心誠意を込めて、二人へ頭を下げた俺に降りかかってきた千姫の言葉は…あまりにも、意外なものだった。

「…申し訳ございませんが、お断りします。」
「姫様っ!?」

 およそ千鶴の友人とは思えない言葉に、俺はがばっと頭を上げる。
 困惑した表情の君菊を無視して、千姫は無言のまま、厳しい視線で俺を睨み付けていた。
 その瞳は、今までそれなりの敬意をはらってくれていたものとは全く違う、明らかに俺に対して敵意を込めた冷徹な瞳だった。


-伍話へ続く-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : ジレンマ・土方編

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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