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2015/09/02

ジレンマ土方編・参-There aren't any good words-

幕末設定。土千。 恋仲になる前の捏造設定。共通テーマ「ジレンマシリーズ」。


階下へ下りると、騒ぎの元となっている廊下の突き当たりにある部屋の前では、黒山の人だかりが出来ていた。
 店にいる奴らは、興味深そうに部屋から聞こえる物音に耳を澄ませるか、野次馬に混ざるかのどちらかだった。
 女を助けようという気概のある奴は、この中には誰一人としていねぇらしい。
 京の奴等の事なかれ主義にはほとほと呆れるところだが、情報収集する事を思えば丁度良いかもしれねぇ。
 廊下にいる野次馬連中に混じって耳を澄ませると、どこからともなく下手人らしき男の噂話をする声が聞こえてきた。


 事の仔細は、よくある話だった。
 今まで仕事一辺倒だった堅物男が芸妓の色香に惑い、貢ぎに貢いだ果てに奉公先の金に手をつけ、それが発覚して首になっちまった憂さを、その芸妓にぶつけて騒ぎになった―――というものだった。
 色町で起きる刃傷沙汰では、耳にたこが出来る程ありがちなその内容に、俺は思わずため息をついた。
 だが日常的によくある事とはいえ、京の治安を守るのが俺達新選組の役目だ。
 あの姿の千鶴をあの部屋に残したまま、伊東さんと河豚坊主の二人を野放しにしておく訳にもいかねぇ。
 …さっさと落着させて、部屋に戻らねぇとな。
 俺が野次馬の奴らをかき分けながら部屋の入り口まで足を進めていくと、部屋の入り口の前だけがぽっかりと間を空けていた。
 さすがの野次馬達も、てめぇに被害が及ぶのはごめん被りたい…という事だろう。

「悪いな、ちょっと退いてくれ。」

 俺が空いている箇所へ足を踏み入れた瞬間、周りの奴等が驚愕の顔で何かを言おうとしてくる。
 そいつらも含め、周りの野次馬共に「邪魔するんじゃねぇ」という意味を込めた睨みをきかせると、奴等は簡単に怯んで黙り込んだ。



 部屋の中は、散々たる有り様だった。
 膳や食器、座布団などが乱雑に倒れ、盛り付けられていた料理や酒は、豪快にぶちまけられて畳を汚しちまっている。
 荒れ放題の部屋の中央には憔悴しきった様相の男が、恋焦がれていた筈の女を羽交い絞めにしながら、何かぶつぶつと独り言を呟いていた。
 女の身体を締めている腕とは反対の手には、抜き身の匕首(あいくち)が力強く握られている。
 女を刺すつもりか…それとも、心中でもするつもりか?
「さ…佐吉はん…堪忍、しとくれやす…」

 弱々しい女の命乞いにぴくりと反応したかと思うと、男は泣き叫ぶかのような狂った声で高らかに笑った。
 ちっ……正気をなくしかけてるみてぇだな。
 さて、どうするか―――と思案していると、男は焦点の合わない瞳で女を見つめながら口を開いた。

「芳佳…お前が悪いんだ。」
「うち、が……?」

 涙で化粧を崩した女が震えた声で聞き返すと、男は満足げに笑って頷く。

「オレはな、貧乏な実家から三好屋へ奉公に来て十数年…血を吐くような思いをして頑張って、やっと店を持たせてもらえるかも…ってところまでこぎつけたんだ。新しい店を開くっていう時に、こんな目に遭っちまって……お前なんかに、出会わなけりゃ良かったんだよ!!」

 男はそう叫ぶと、女の身体を勢い良く突き飛ばした。
 恐怖に支配された女は、受身を取る事も出来ずに力なく畳の上に倒れこむ。
 男は滂沱の涙を溢れさせながら、匕首をゆっくりと利き手らしき左手に持ち替えた。

「お前が…オレに笑いかけてこなかったら。お前が、オレを篭絡しなかったら!お前が…っ、首になったオレを袖にしたりしなかったら……!!皆、皆…っ、お前が悪いんだぁっ!!」

 男は倒れこんでいる女を跨いで、そのまま匕首を振り下ろそうとした。



「…いい加減にしとけ。」



 俺はそう言って瞬時に男の後ろに回り込むと、素早く男の片足をひっかけた。
 足元を崩された男が後ろのめりに体勢を崩した瞬間、俺は匕首を持っている男の手首を力一杯握り締めながら、男の胸倉を掴んでそのまま勢い良く男を畳へ押し倒す。

「ぐっ、うっ…!」

 ばたんと倒れこむ音と共に、男は後頭部と背中を強く打ちつけたらしい。
 苦しそうに低い声で呻きながら、匕首を握り締めていた指からするりと力が抜けていく。
 拘束がなくなった匕首はそのまま畳の上にぼとん、と鈍い音を立てながら落ちて、その場にごろりと転がった。


 その後。
 俺は、店の男連中に呆然としている佐吉を引き渡し、迎えに来た相模屋の女将の元へ人質だった芳佳を連れていき、騒動は漸く落着した。
 元いた部屋へ戻る為、俺は階段を上っていく。
 一段一段をゆっくりと上りながら、佐吉の叫び声にも似た悲痛な物言いが脳裏に浮かんだ。


 「お前なんかに、出会わなけりゃ良かったんだよ!!」


 あの男も、女への恋情に溺れずに今まで通り真っ当に仕事をしていれば、あんな末路にはならなかったかもしれねぇ。
 てめぇが選び取った道への結果を、全て女の所為にするのは正直どうかと思うが、てめぇの望んだ筈の道がいつのまにやら様変わりにしちまった事への後悔や絶望感については、何とも物悲しい思いがした。
 俺も、千鶴と出会った事を後悔しちまうような時が来るんだろうか―――いや、俺がもし後悔するとしたら…「千鶴の手を取らなかった事」かもしれねぇ。
 だが、「共に歩く事」を…「想いを繋げる事」をしねぇと、俺は決めた。
 誰に言われた訳でもなく、てめぇ自身の意思で選んで決めた事だ。
 そうだ―――決して、後悔なんかしたりしねぇ。
 俺は、迷いをなくすかのように頭を軽く振ると、強い足取りで階段を上がり、宴会を開いていた部屋へと戻った。

「済まねぇ、遅くなっちまった。騒動は、無事に落着し――――」

 すらっと勢い良く部屋の戸を開けると。
 部屋の中はがらんとしていて、千鶴の姿はどこにも見当たらなかった。


-肆話へ続く-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : ジレンマ・土方編

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となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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