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2015/09/02

ジレンマ土方編・弐-There aren't any good words-

幕末設定。土千。 恋仲になる前の捏造設定。共通テーマ「ジレンマシリーズ」


―――あぁ、苛々する。
 目の前に置かれている、豪勢な食事が並ぶ高そうな膳も。
 部屋の襖越しに流れてくる、誰かの奏でる軽やかな三味線の音も。
 それに混じって聞こえてくる楽しそうな男の笑い声や、甘えるような女のはしゃぐ声も。
 何もかもが気に入らねぇ。
 だが今、俺が最も気に入らねぇのは―――。



「名前は、ちづ…やったな?あんたはん、ほんま可愛らしぃなぁ。座敷に上がるんも、まだ二度目なんやて?ほんま、清らかで初々しいのんが、またえぇなぁ。」

 でっぷりとした身体つきをした中年の生臭坊主は、河豚のような下膨れた顔をでれっとさせて、隣で酌をする芸者―――変装している芸者姿の千鶴に、満足気な顔で笑いかけた。

「は、はい。あの、ありがとうございます……。」

 赤い豪奢な着物で身を包み、髪を結い上げて綺麗に化粧を施した千鶴は、困ったように小首を傾げて河豚野郎に礼を言った。
 髪にさしている簪が微かに揺れて、しゃらん…と耳障りな音を立てる。

「…土方さん、如何なされましたの?お顔の色が優れませんけれど。眉間も、先程からずっと皺が寄ってらっしゃいますわ。」
「…悪いな、伊東さん。これは地顔だ。」

 俺が苦虫を噛み潰したような顔でぎろりと睨むと、隣にいた伊東さんは「あら、それは失礼致しましたわ」と楽しそうに笑って、杯の中身を優雅に飲み干した。



 ここは、島原にある揚屋、角屋の座敷だ。
 俺は伊東さんと共に、蓮月寺の門主であるこの河豚坊主…もとい福蓮と、新選組への資金融資の密約を交わす為、こうして接待をしている。
 数日前。
 幹部連中が参加する合議で、伊東さんが「蓮月寺の門主と、極秘裏に宴席へ招く約束を取り付けた」と報告してきやがった。
 蓮月寺は広大な寺で門人も多く、武士から公家、庶民…と幅広い層の信者を持つ金持ち寺だ。
 伊東さんがどういう手段をとったのかは分からねぇが、上手く取り込む事が出来れば、資金以外でも色々と役に立つ奴等なのは間違いねぇ。
 相手は俗世を捨てた筈の坊主共だが、はっきり言って中身は生臭坊主だろう。
 酒宴の招待にほいほいと快諾したのが、その証拠だ。
 そうなりゃ、酒のみならず女も必要になる。
 だが、佐幕派も勤皇派も跋扈する島原の街だ…この密会がどこで漏れるかしれねぇ。
 いくら口の堅い花街の妓共といえど、それなりの情が通い合った相手には、多少口が滑る事がある…なんて事は、よく聞く話だ。
 その不安をなくすべく、以前島原で潜入捜査をした千鶴を使おう―――というのが、伊東さんの案だった。

「仕事に手慣れとらんのも、またえぇなぁ。わしはそこらへんにおるような手練の女子はんよりも、あんたはんみたいな、初々しい子ぉの方が好みやよってな。」

 河豚坊主は、脂ぎった肉饅頭のような手で千鶴の小さな白い手をとると、滑らかな千鶴の手の甲にもう片方の手を何度も滑らせる。
 肉饅頭の手を全力で払いのけてやりたくなったが、俺はその思いを無理やり飲み込むように、手の内で弄んでいた杯をぐいっと呷った。
 …今日の酒も、美味くねぇ。

「あらあら。福蓮様、そんなにちづがお気に召されましたの?お座敷に上がるのがまだ二度目なのに、もうお馴染みさんが出来るなんて。凄いわねぇ、ちづ?」

 伊東さんはさも嬉しそうに、他人事のような口調で河豚坊主への後押しをしやがった。
 この馬鹿野郎…何を考えてやがるんだ!?
 てめぇは知らねぇだろうがな、千鶴はれっきとした女なんだよ。
 それに、てめぇの中では「千鶴は女装している男」の筈だろうが。それを、こんな糞坊主にあてがってどうするつもりだ?
 伊東さんの行動に不審なものを感じたが、だからといって俺が坊主の邪魔をする事は出来ねぇ。
 俺は、深いため息をつきながら綺麗に並べられている膳の中身を箸でつついた。
 どれだけ豪勢な飯だろうと、こんな状況での食事が美味い筈もねぇ。
 まともな味もせず、咽元の通りの悪い食事だった。

「あの、福蓮さま。どうぞ…。」

 千鶴が困ったような笑顔を浮かべながらも酌をすると、河豚坊主は更に機嫌良く酒を飲み干していく。
 元々酒が強いのか、ただ単に機嫌が良くて調子に乗っているだけなのか、坊主は浴びるように酒を飲んでいた。

「そや、ちづ。あんたはんが一日でも早ぅ郭の生活に慣れるよう、わしが毎日ここへ通ったるわ。馴染みの客が出来たら、そんだけあんたはんにも箔がつくやろ。どや、えぇ話やろ?ん?」
「え…あ、あの……。」
「馴染みになったら、その後は…分かるやろ?」

 酒に酔った赤ら顔の河豚は、千鶴の小さな肩を抱き寄せて、にじり寄りながら千鶴へと顔を近づけていく。
 この糞坊主……!!
 堪忍袋の緒が切れかけた俺が、声を上げようとした時。


「きゃ―――――っ!!」


 絹を裂くような、女の悲鳴が聞こえた。
 何っ!?
 俺と伊東さんは、瞬時にてめぇの刀を手に立ち上がった。
 そっと耳を澄ませる。
 男の怒号と、女の悲鳴。
 店の者の止める声。
 どたばたと暴れる物音。
 階下で揉め事が起きているのは、間違いねぇようだ。

「土方さん。福蓮様とちづは、私がお守り致しますわ。あなたは、下の様子を見てきて頂けないかしら?」

 血相を変えながらも刀を携えた伊東さんは、意を決した武士の顔をしていた。
 河豚坊主は、伊東さんの後ろを陣取って、隠しきれていない身体を目一杯縮めながら、かたかたと震えていやがる。
 …男として、それはどうなんだ。

「…分かった。伊東さん、ここは頼む。」

 ふと千鶴を見ると、不安げな泣きそうな顔で俺を見ている。
 違う―――あれは、俺の身を案じて心配している顔だ。

「…すぐに戻る。」

 俺は伊東さんの肩越しに千鶴に笑いかけると、少しでも早く荒事を収める為に部屋を出た。


-参話へ続く-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : ジレンマ・土方編

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となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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