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2015/09/01

果てなき心・後編- I'll stay with you -

原田√後。原千。大陸で二人暮らしを始めた頃のお話。シリアス。



 ―――父は…羅刹を兵隊にした、強い国を作りたがっていましたから。

千鶴の言葉をきっかけに、部屋の中は重たい空気に包まれていた。
家の外で吹いている強風が、窓と戸をがたがたと不安げに揺らしている。オレは何も言わずに、湯のみを持って止まっていた手を寄せて、中の茶をごくりと飲んだ。千鶴はオレの動作を目の端で捕らえながらも、両手に持っている湯のみをぎゅっと握りながら、静かに口を開いた。
「…父の野望は、強い国を作る事でした。それが国の為だったのか、鬼の為だったのか、自分の為だったのか……本心は、私にも分かりません。」
「…あぁ。」
「父の言う強い国というのは…羅刹の国です。あんな風に血に狂っている羅刹と、羅刹の前ではただの餌になりかねない人間が共存していられる姿なんて…私には想像が出来ません。」
千鶴の悲痛な言葉に、オレは頷く事しか出来なかった。実際、あの男が作り出した羅刹と人間の関係は、捕食と餌の関係だろう。傷ついた羅刹でさえ、餌の対象だったからな。
オレは、あの時の共食いをする羅刹の姿を思い出して、胸が悪くなった。
「そんな野望を持っていた父が、私を人間の元に嫁がせようなんて…思う筈がありません。きっと…私を嫁がせないようにしていたのは、鬼の一族の中の誰かに、私…を……」
俯いていた千鶴の顔から、ぽとりと涙が一粒零れ落ちた。千鶴はそのまま小さな肩を振るわせて、言い終わる事もなく声も出さずに泣いた。
「…千鶴。」
オレは千鶴に近づくと、後ろから静かに抱き締めた。小さくびくりと驚かせたが、抵抗する事もなくオレの右腕にことりと頭を預けてくる。千鶴が握っていた湯飲みをそっと取り上げて、離れたところに置いてから左手で小さな頭をそっと撫でた。千鶴は何も言わずに、オレの右腕に目元を埋めたまま、声を立てずに涙を零した。
千鶴にとっては唯一人だった肉親の、あの男の死。それこそ、時間なんか関係ねぇ位の苦しみかもしれねぇと思った。そのたった一人の家族を殺したのは、紛れもなく―――このオレだ。
オレ自身は、あの男を殺す事に後悔なんかしちゃいねぇ。男が、一旦「こうだ」と覚悟を決めた事に対して後悔なんかするもんじゃねぇと思うし、ああする以外の最良の方法なんかなかったと、今でも確信をもって言える。
それでも…オレがした事で、千鶴を傷つけて泣かせているのかと思うと、胸が痛かった。

「…ごめんなさい。左之助さんにとっても辛い事を、思い出させてしまいました。」
涙を袂で拭きながら、千鶴は兎のような赤い目で柔らかに微笑んだ。馬鹿野郎…無理をしているのが、見え見えなんだよ。
オレが「いや、大丈夫だからよ」と言ってぽんぽんと千鶴の頭を撫でてやると、千鶴は申し訳なさそうな顔でまた控えめに笑った。お前には、そんな顔…似合わねぇよ。
オレは、腕の中にすっぽりと入り込んでいた千鶴をぎゅっと強く抱き寄せた。首元に頬を寄せると、花のような香りがして、白いふんわりとした柔らかい肌の感触がした。
「左之助さ…!」
「…これは、オレの想像だから、本当かどうかは分かんねぇけどな。」
狼狽たえている千鶴を無視して、オレは話を始めた。千鶴は恥ずかしそうに身を捩るをやめて、オレの話を聞く態勢に入る。元々生真面目な性質だからな…まずは、オレの話を聞こうと思ったに違いなかった。
「これは、ただの勘でしかねぇんだが…オレは、風間や不知火を見て、どこか悲しそうな…寂しそうな感じがしてたんだ。」
「寂しい…?」
「…あぁ。確かに人間の事を嫌っていたのは、事実なんだろうよ。でも思ったんだ…おそらくあいつらは、人間を信じては利用され、裏切られ…の、連続だったんじゃねぇかってな。」
千鶴は黙ったまま、こくりと強く頷いた。こいつは、他人の気持ちや感情の揺らぎに妙に聡いところがある。オレがあいつらに感じた事を、同じように感じ取っていたのかもしれなかった。
「オレから見ても、確かに鬼の力ってやつぁ強大なもんだと思う。薩摩も長州も、強い鬼の力に憧れたんだろうよ。あいつらを利用して、強い力を手に入れて…そして、あいつらが自分達を裏切る事を恐れた。あいつらが心変わりする前に、自分達に刃を向けてくる可能性を恐れて……裏切った。」
「ひどい……!」
「人間なんて、弱い生き物だからな。てめぇの欲ばかりを気にして保身を図る奴等なんて、それこそごまんといる。お前の父親も、風間達以上に人間と深く触れ合ってきた分……人間のそういう汚ねぇ部分を、数え切れねぇ位目にしてきたんだろうよ。そして…変若水をきっかけに、心が弱い方へ傾いちまったんだ。」
「…」
オレからは後ろ姿しか見えていない千鶴は、何も言わずにオレの話を黙って聞いていた。
 風間の、「失望し切っている」と言わんばかりの視線。「人間なんか嫌いだ」と言いつつも、人間の親友を愚弄されて激昂していた不知火。あの二人の態度を間のあたりにして、人間を蔑むにはそれなりの理由があったんじゃねぇかと、そう思わずにはいられなかった。
「あの人の「羅刹の国を作る」っていう話も、お前の家…雪村家を再興するのが前提の話だった。鋼道さんは、お前の幸せを考えてなかった訳じゃねぇ。血が繋がっていなかったとはいえ、ずっとお前の親父さんだったんだからな。ただ…きっと、苦しかったんだろうよ。ずっと……な。」
「…っ…父、さ…ま…!」
千鶴は、自分を抱き締めているオレの両腕にそっと手を添えると、それまで堪えていた泣き声を小さくあげ始めた。ぽろぽろと零れ落ちてくる涙は、オレの手に当たって伝い落ちていく。か細く聞こえる千鶴の嗚咽を、あの男が死んで以来、オレは全く聞いていなかった事に気づいた。

「千鶴。」
泣きじゃくる千鶴の小さな頭を撫でながら、オレは静かに口を開いた。
「お前を利用しようとしていた男は、オレが殺した。お前は、優しかった親父さんだけを思い出してやればいい。お前にとっては、大事な家族だったんだからな。」
「でも」
千鶴は、涙に濡れた顔を上げた。大きな瞳はさっきよりも涙で赤くなっていた。
「私は…左之助さんの妻です。二人で、一人です。貴方が背負ってくれた罪は…私の罪だった筈です。自分だけを…悪者に、しないで下さい。あの時ずっと見ていた私も、同罪です。見殺しに……したんですから。」
決意を秘めた瞳は、凛としていて。涙で濡らした頬には、艶やかな髪が張り付いて、ぐしゃぐしゃだった。それなのに、オレをじっと見据えたその顔は……綺麗だった。
「そうだな…オレもお前も、一人じゃねぇ。ずっと、一緒だ。」
「はい。」
くしゃりと頭を撫でると、千鶴はほっとしたような、安心したような笑顔でオレに頷いた。

オレが、傍にいる。
ずっと、お前の傍にいるから。
この想いに果てなんてないように、決してお前の傍を離れたりしないから―――。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、「千鶴は、江戸にいた頃から嫁の貰い手があったんじゃない?」という疑問がきっかけでした。
江戸と京は、男女の比率が違ったらしく(江戸は男性が多く、京は逆に女性が多かったそうです)。
そんな状況で嫁に行っていないとすれば、「親父が強固に断っていた」位しか思いつかなくて;
理由付けを考えに考えた結果、あんな中途半端なシリアス路線になってしまいました;

鋼道さんは、攻略ルートによって少し触れ幅のあるキャラですが、千鶴の躾の良さを考えると彼女の境遇をそれなりに考えて育てていたんじゃないかなと思ったんです。
千鶴の父への慕い方を考えても、冷徹な事はあまりなかったかもしれないなと。愛情深く育ててもらっていなかったら、千鶴がわざわざ江戸から京への長旅をしてまで父を探しにこなかったんじゃないかな、と思いまして。
そう考えると、「鋼道氏の中にも色々な葛藤があったのかな」と思って、私の想像を左之さんに代弁して頂きました。

タイトルの「果てなき心」は、思いの強さも深さも「果てがない位に二人で想い合う」という願いを込めました。
サブタイトルの「I'll stay with you」は、「私が傍にいる」という意味です。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 果てなき心

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重篤レベルで嵌り中。
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Twitter: @to7mikaya_3na10
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