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2015/09/01

果てなき心・前編- I'll stay with you -

原田√後。原千。大陸で二人暮らしを始めた頃のお話。シリアス。


 凍える空気もだんだんと緩やかになってきた、春の初め。
慣れない大陸での生活もどうにか落ち着ける事が出来て、やっと戸惑いがなくなってきた。
二人揃って初めて踏む、外国の地。これから住み慣れていかなきゃいけねぇ場所とはいえ、右も左も分からねぇ状況下じゃ、女一人で出歩かせるなんて出来る訳がねぇ。住まいを決めてちゃんとした生活が出来るまで、オレ達は片時も離れる事がなかった。

「ただいま。今帰ったぜ。」
仕事から帰って戸を開けると、部屋の奥から小さな人影がゆらりと動いて近づいてきた。
「左之助さん、お帰りなさい。」
明るい緑色の着物を着た美しい女が、にこりと笑って出迎えてくれた。女の名は、原田千鶴。妻、女房、嫁、かみさん…まぁ言い方は色々あるが、オレにとって唯一人の女だ。
「お仕事お疲れ様でした。春先とはいえ、日暮れは寒かったでしょう?夕餉の用意をしますから、その間にお風呂に入って身体を温めたらいかがですか?」
「あぁ…じゃあ、そうするかな。飯の後は勿論、酒な?」
「…少しだけですよ?」
千鶴は小さく笑って親指と人差し指で「少しだけ」という仕草をすると、オレの着替えを出す為に奥に消えた。オレはオレで、仕事の疲れを取るために真っ直ぐ風呂場へ移動した。


「左之助さん、お味はいかがでしたか?」
「あぁ美味かったよ、ご馳走さん。住む国が変わっても、千鶴の料理の腕は変わらねぇな。」
夕餉の味を気にした千鶴に笑顔で返すと、千鶴は頬を染めてはにかんだ。
屯所で過ごしていた頃に比べて姿形は随分大人びたが、こういう反応は何年経っても変わらねぇ。そこが、こいつの良いところなんだろう。
「色々あったけど…オレは、こんなところにまでついて来てくれたお前に、本当に感謝してるんだぜ?こっちの言葉も、やっと何を言ってるかぐれぇは分かるようにはなってきたけど、ちゃんとした細かい意思の疎通は、まだまだだろうしな。…正直、辛い事も多かっただろ?二人きりで暮らすようになったし、これでちったぁオレを頼ってくれたりすんのかなって期待もしてたんだが…お前は泣き言一つ言わずに、こうやって世話してくれる。…オレは、本当に果報者だよな。」
「そ、そんな!私なんか……。」
千鶴は、顔を真っ赤にしながら首を振った。後ろに結んだ綺麗な黒髪が、ぱさぱさと揺れる。触れてみたいと思ったが、今はまだ我慢しておこうと思った。
「謙遜するなよ。お前なら、江戸にいた頃から引く手数多だったろ?」
手にしていた茶を飲みながら揶揄うように言うと、照れ臭そうに顔を赤らめていた千鶴の顔に、急に影が差し始めた。
「私には直接伝わってこなかったので…きちんとは分かりません。分かっていたのは、父は……私を誰かと結婚させるつもりはなかったみたいです。」
「…何でだ?」
胡坐を掻いていた足を組み返しながらオレが聞くと、千鶴は視線を泳がせながら、ぽつぽつと話し始めた。

「江戸に住んでいた頃の事です。近所に、おサヨちゃんという名の、私より二つ年上の女の子がいたんです。私もよく遊んでもらっていたんですけど、おサヨちゃんが結婚する事になって。お輿入れの時、見物に来ていた近所の方が「次は千鶴ちゃんの番だな」って、父を冷やかしたんです。その時父が、「千鶴を嫁に行かせる気はない」と、急に不機嫌に…。」
瞳を伏せながら苦笑する千鶴の顔は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「…娘を持つ父親ってぇのは、大抵そんなもんだって聞くけどな。あの人の事だから、それなりの理由があったんじゃねぇかと思うが…理由を、聞かなかったのか?」
「勿論、聞きました。近所の方は「可愛い一人娘だからな」と、父の態度を笑って流して下さったのですが…私は、どうしても気になって。」
真剣な顔で強く頷いた千鶴に、オレもこくりと頷いた。
江戸にいた頃と言えば、千鶴の年が十四か十五位の筈だ。仲が良かった娘盛りの女の輿入れを見て、結婚について、それなりの憧れや興味を持たねぇ筈がねぇ。それを父親が強固に否定したら、理由を聞きたくなるのも道理ってもんだ。
「私が「何故ですか」と聞くと、「もし早々に赤子が出来たらどうする?」と。「まだ身体が成長し切れていない時期での出産は、母子共に命の危険が伴うから」と……。」
そう言葉をついた後、千鶴は何か思いつめたような顔をしながら茶を一口飲んで、深く溜め息をついた。
父との事を思い出として語るのは、千鶴にはまだ早すぎたと思った。江戸から京へ、男装してまで捜しに来るほど恋しかった父と、あんな形で別れる事になっちまったんだから―――。

「…蘭方医らしい、あの人が言いそうな意見だな。」
千鶴の父である鋼道さんの最期の顔が頭の片隅に浮かんだが、千鶴には悟られないように、オレは極めて普通の顔を作ってそう言った。実際ついて出た言葉も、オレの正直な感想だった。
「はい…私もその時は、医師としての真っ当な意見だと思っていました。実際に、産後の肥立ちが悪くて寝たきりのまま亡くなる方も、少なくはありませんでしたし。うちの診療所でも、よく……。」
江戸の家で千鶴は、医師である父の手伝いをよくしていたらしい。患者の生き死ににも、少なからず関わってきたに違いねぇ。自分の事よりも他人の事を気にするこいつが、患者を看取る時どんなに辛く感じていたのかは、想像に難くなかった。
「なるほどな。親父さんがしっかりしてくれてたから、オレは千鶴を嫁に貰う事が出来たって訳だな。」
納得しかけたオレに、千鶴は顔を俯かせたまま、ゆっくりと頭を振って否定した。
「おそらく……違うと思います。」
千鶴の瞳の奥が、更に暗い光を帯びた。長い睫が微かに震えている。泣く事を必死に堪えているようだった。
「…違う?」
オレが聞き返した言葉に、千鶴の小さな頭が上下に動いた。相変わらず顔は俯かせちまったままだ。
「父は…羅刹を兵隊にした、強い国を作りたがっていましたから。」
その言葉に、茶を飲もうとしたオレの手が…ぴたりと空で止まった。

-後編へ続く-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 果てなき心

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となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
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Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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