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2015/09/01

他をあたってくれ。-Ask someone else… -

現代パロ。原千。千鶴ちゃんの事になると、冷静になれない左之さんのお話。


誰かが、地獄の窯でも開けちまったのか―――そんな悪態をつきたくなる位、「灼熱」という言葉が似合う…真夏の昼過ぎ。
 八月も半ばも過ぎて、そろそろ「残暑」って言葉をチラチラと目にする頃だっていうのに……外の空気は、「暑さが残る」どころか「これからが本番だろ?」とでも言っているみてぇに、酷く蒸していた。


「やべぇな…遅刻しちまう。」

 オレは流れる汗もそのままに、車を停めた駅の裏手にある駐車場から、待ち合わせ場所である駅前へと全速力で走った。
 駅前にある、タクシー乗り場とバスターミナルが併設された大きな広場は、大勢の人でごった返している。
 人、人、人。
 どいつもこいつも、「夏休み特有の開放的な空気を楽しんでいる」っつう顔で、緩やかな動きで歩いている。
(クソッ…さっさと歩いてくんねぇか、姉ちゃん)
 携帯の画面を凝視しながら、まるで牛みてぇにゆっくりゆっくり歩く女の横を、オレはサッカー選手のように風を切って走り抜けた。
 丸い花壇の中央にある、てっぺんに時計が設置された白いポール。
 まるで、駆けっこで一番先を走っていたガキが「ゴール」を決めるみてぇにポールに手をついて足を止めると、オレはきょろきょろと辺りを見回した。
 待ち合わせ場所として使っているそこに、オレの待ち合わせ相手はいなかった。
 いつもなら、待ち合わせ時間よりも少し早く着いてオレを待っているなんだが、あいつに似た背格好すら見かけねぇ。
(…電車が遅れちまってんのか?)
 少し上がっている息を整えて、生唾を飲み込んで乾いた喉を無理矢理潤しながら左手にはめている腕時計を見ると、丁度待ち合わせの時間だった。
(時間…だな)
 白く眩い太陽の光が降り注ぐ中、オレは注意深く辺りを観察する。
 すると、改札の左側にあるショッピングセンターの入口の前で、ちょっとした人だかりが出来ていた。

「ん?」

(ありゃ、何だ…?)
 何となく胸騒ぎを覚えて、オレが小走りで人だかりへと向かうと。



「お婆さん、しっかりしてください!大丈夫ですか!?」



 着ている白いワンピースが汚れるのも、全く気にも留めてねぇって様子で。
 苦しそうに屈みこんでいる婆さんに、心配そうな顔で呼びかけている女―――雪村千鶴。オレの待ち合わせ相手がいた。
 千鶴よりも細くて小柄な婆さんは、声も出せずに口をぱくぱくと動かしては、真っ青な顔で苦しそうに胸の辺りを押さえている。

「おい…千鶴!?」
「あ、左之助さんっ!すみません、救急車呼んでもらっていいですか!?」
「あぁ!?」

(一体どういう事だ!?)
 オレが状況を飲み込めないまま素っ頓狂な声を上げていると、婆さんは禄に返事も出来ねぇままペタリと膝をつき、ぐらりと体勢を崩してそのまま千鶴の膝の上へと倒れこんだ。

「きゃっ…しっかりして下さい!お婆さん、お婆さん!」

 千鶴の泣き声にも似た声にオレはハッと我に返ると、手持ちの携帯ですぐに救急車を呼んだ。



十数分後。
 婆さんを乗せた救急車に同乗したオレ達は、近くの救急医療センターの中にいた。


「もう大丈夫ですよ。今日は急に暑くなったから、お婆ちゃんの身体にはちょっと辛かったみたいね。」

 奥の診察室から出てきた、看護士の姉ちゃんからにこやかな笑顔で婆さんの容態を聞かされ、千鶴は強張らせていた両肩をやっとするりと下ろした。

「良かった…!」
「あぁ、良かったな。」

 涙を滲ませながらホッとした顔で笑う千鶴に、オレはにこりと笑って小さい頭をそっと撫でた。
 こくりと小さな頭が動いて、さっきまで青ざめていた顔がみるみるうちに血色が良くなっていく。
(ったく…てめぇの事でもなけりゃ、身内の事でもねぇってのに、こいつは……)

「お婆ちゃん、今点滴を打って眠ってますからね。点滴が終わって目が覚めたら、一緒に帰っていただいても大丈夫ですよ。お婆ちゃんの保険証は、今お持ちですか?初診ですから、色々と手続きをして頂く事になりますからね。」

 二十代後半から、三十代前半位だろうか―――きびきびとした口調で話す看護士の姉ちゃんは、完全に千鶴を婆さんの身内と勘違いしているようだった。
 まぁ、あんだけ必死な顔で婆さんに声をかけながら、救急車に乗って病院にまで付き添ってきたら、そう思っちまっても不思議じゃねぇよな。

「あっ…い、いえ……あの、私…お婆さんの身内ではないんです。街中で、お婆さんが苦しそうにしていたのを、たまたま通りかかっただけで……。」
「えっ!?そうなの!?」

 千鶴は恥ずかしそうに赤くなりながら、所在なさげに視線を泳がせて「紛らわしくて、すみません」と謝っている。
(いや、まぁ…お前の所為って訳でもねぇけどな)
 姉ちゃんは「偉いわねぇ…凄い」と、まるで珍獣でも見るみてぇな目つきでしげしげと千鶴の顔を見ている。
 驚嘆の視線を浴びせられて、千鶴は顔を真っ赤にしながら何も言えずにただ俯くだけだ。

「あー…看護士さん。すまねぇが、婆さんの身内に連絡をとってもらっても良いか?見ず知らずのオレ達が直接電話したら、身内の人に不審がられちまうかもしれねぇからよ。」
「そうですね。では、こちらの方ご家族の方へ、ご連絡しておきます。」
「ああ、よろしくな。それから、婆さんの身内の奴が来るまで、オレ達がここで婆さんの様子を見てるからよ。あんたは、他の仕事に回ってくれて構わないぜ。」
「えっ?」
「私と左之助さんで、一緒にお婆さんの事を見てますよ。点滴が終わりそうになったら、診察ベッドの近くにあるブザーで知らせたら良いんですよね?それ位でしたら、私達にも出来ますから。お忙しいようですし…何かありましたら、すぐにナースコールしますので。もし、ご迷惑でなければ……。」

 看護士の姉ちゃんは顔を歪ませて暫く逡巡していたようだが、仕事の忙しさに負けたらしい。
 オレ達にぺこりとお辞儀をして「じゃあ、すみませんけど…お願いします」と言って、小走りに去っていった。

「…左之助さん、良いんですか?点滴って、結構時間がかかっちゃいますけど……。」
「良いも何も、もう十分首を突っ込んじまってるじゃねぇか。看護士の姉ちゃんにも、あぁ言っちまったしな。気にすんな。」

 おずおずと問いかけてくる千鶴にオレは小さく笑うと、ぽんぽんと頭を撫でて自分の胸元へと頭を寄せてやった。
 千鶴はほっとしたのか、ゆるゆると肩を落として身体を預けてくる。

「そんな事より、婆さんが大した事なくて…良かったな。」
「はい…!」

 千鶴は、まるでてめぇが婆さんの身内でもあるかのように安堵した笑顔で、オレに笑いかけた。



革張りの長椅子に座りながら、二人で取り留めのねぇ会話をして一時間半ほど過ぎた頃。
 オレが、売店で二人分の遅い昼飯と茶を買って戻ると、婆さんが休んでいる病室の前で蠢く二つの人影を見つけた。
(ん……?)

「!」

 目の前の光景を視認したオレは、てめぇの機嫌が一気に氷点下へと下がっていくのを感じた。
 早歩きで、その二つの影に近寄って行く。
 逸る気持ちが、オレの歩幅をいつもよりもずっと大股に、そして歩くスピードもずっと速いものにさせていた。


「本当に、ありがとうございました!お名前は確か、雪村…?」
「あ…えっと、千鶴…です。」
「千鶴さん、ですか。本当にありがとうございました、千鶴さん!」

 年は、三十代半ば過ぎ…ってところだろうか。
 平助位の小柄な背丈をした小太りのサラリーマンの男が、オレの千鶴の両手を包み込むように握り締めながら、至近距離にまで顔を近づけて何度も礼を言っている。
(察するに…あの婆さんの身内、か)

「いやあ、素晴らしいです!見ず知らずのお年寄りを助けて、救急車に乗り込んで看病までしてくれるなんて!なかなか出来る事じゃないですよ!」

(…当たり前だろ、オレの千鶴だからな)

「あ、いえ…そんな事」
「いやいや、謙遜される事はないですよ!大抵は素通りしていくか、もし行動したとしても、救急車を呼ぶ位です!千鶴さんは、とても優しいんですね!」

(…当たり前だろ)
(オレの千鶴は、そこら辺にいる女とは比べ物にならねぇ位、「良い女」なんだからな)
 男の言葉には全面的に同意するが、この胸糞悪い光景を眺めているのもそろそろ限界だった。

「いえ…あの」
「それでですね!是非、ボクに今日のお礼を―――」

 男は、今にも長椅子へと押し倒しかねねぇ位に千鶴を追い詰めながら、あろうことかオレの目の前で口説き文句を吐こうとしやがった。
(いい加減にしやがれ!)
 オレは、目の前にいる身の程知らずの馬鹿の背後に立つと。



「…千鶴。待たせちまったか?」


出来るだけ低めの声で、千鶴に呼びかけた。

「…えっ?」
「あ…左之助さん!」

 男は、見上げるようにしてオレの顔を見たまま、かちり、とその場に固まった。
 千鶴は男が反射的に手を放したその隙に、奴と長椅子の間という狭い場所からするりと抜け出すと、ほっと安堵した顔でオレの傍へ駆け寄ってきた。
 男は状況が飲み込めていないらしく、ぽかんと口を開けて呆然としている。

「左之助さん。お婆さんの身内の、片岡さんです。片岡さん、原田さんです。私がお婆さんを見ている間に、救急車を呼んで下さった方ですよ。」
「ど…どうも……。」

 片岡って野郎は、「この男は彼女の何なんだ?」と言わんばかりの怪訝な顔で小さく会釈をした。
 どう考えても、身内を助けてくれた恩人への態度には見えねぇ。
 強いて言うなら、「合コンで目をつけていた女を、違う男に連れ去られそうになっていて、面白くねぇ」―――そんな面をしていた。

「あの…片岡さん。お婆さんのご様子を、見に行かれたらどうですか?私達は、そろそろ失礼しますので。点滴ももうすぐ終わると思いますので、ご家族でゆっくりなさって下さい。」
「ええ!?いやあ、病院に来て処置してもらった筈ですから、きっと大丈夫ですよ。ただの熱中症ですしね!…それより、千鶴さん。あの…その、原田さんという方とは……?」

 千鶴からの気遣いを完全に無視して、男はオレの顔を胡散臭げに上目で睨め付けてきた。
 さも「こっちの方が重要だ」という顔をしてやがる。
(ったく…婆さんの容体よりも、てめぇが気に入った女の身辺の方が大事なのかよ)
 この暑さの所為で、小さいガキや年寄りが熱中症とかそういう類で倒れちまう事は、世間でもよくある事だ。
 年寄りの身体にはかなりの負担だし、状況によっては下手すりゃ死ぬ事だってある。
 身内が、生死にかかわっちまうかもしれねぇ事で、病院から呼び出しを受けてここへ来たってのによ。
 てめぇの身内を他所に、偶然会った美人と話す事の方が大事だってのか……んな道理があってたまるかよ。
 オレの苛立ちは、頂点に差し掛かってきていた。

「あ、あの…左之助さんは、私の―――」

 白い顔を赤く染めて、恥ずかしそうに言い淀む千鶴の華奢な肩を、オレはぐいっと自分の身体へと引き寄せた。



「オレか?オレは、こいつの男だ。」



「!?」
「あ、あの、左之助さ…」

 怪訝な顔をしている男の目の前で、オレはこれ見よがしとばかりに、千鶴の頬にチュッとリップ音を立ててキスをした。

「こいつが良い女だって事はオレも十分知っているし、自分の女がモテるってのも悪い気はしねぇが…まっ、悪いが、他を当たってくれ。」
「―――」
「―――」

 オレの言動に顔を赤くした人物と顔を青くした人物が、氷のようにその場に固まっている。
(よし…虫除け対策は、十分にやっとかねぇとな)

「さてと、オレ達はそろそろ行くか。片岡さん…だったか?婆さんを大事にしてやれよ。じゃあな。」

 赤い顔のまま固まっている千鶴の肩を引いて、オレは上機嫌で病院を後にした。





 その後。
 時間が多少ずれたデートのやり直しをしながら、真っ赤な顔で千鶴に散々文句を言われちまった。
 別に間違っちゃいねぇ事だから、大した事じゃねぇとオレは思うんだが…恥ずかしがり屋の千鶴には、ちょっと刺激が強かったらしい。
 結局千鶴の機嫌がいつも通りに戻ったのは、夕方をとうに過ぎたあたりだった。


 …仕方ねぇじゃねぇか。
 これでもなぁ、婆さんの事があったから、オレにとって最低限の自重をしたつもりなんだぜ?
 悪い虫がブンブンと鬱陶しく飛び回る前に、早々に潰しておいた方がずっと平和だと、オレは思うんだがな。
 実際、「他」をあたってもらう以外…ねぇだろ?
 オレの女はこいつだけだし、こいつの男は―――オレだけなんだからな。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、いつもわりと飄々としている左之さんが、千鶴ちゃんに関してだけはペースを崩されてしまう、というお話です。

昨今の異常気象によって、目の前で苦しそうなお婆ちゃんを見てしまったら、千鶴ちゃんは素通りできないだろうなーと。
そんな千鶴ちゃんを、左之さんは「お人よしだけど、これはこいつのいいところだからな」って、付き合ってくれるんじゃないかなーと思って、病院まで付き添ってくれる…というお話にしました。

お婆ちゃんの家族はあえて、左之さんとは真逆な雰囲気を持つ男性…という設定にさせて頂きました。
心の中で「おばあちゃんごめんなさい;」と思いつつw;
自分の目の前で、「お礼」にかこつけて千鶴ちゃんとの接点を保とうとしている奴がいたら、左之さんは容赦しないだろうなぁと思って、軽くですが虫除けをさせてみましたwww
唇にちゅーをしなかったのは、さすがにお婆ちゃんに対して失礼だろう、と左之さんが空気を読んだからですw

タイトルの「他をあたってくれ」ですが、「俺の女に手を出すな」だとコテコテすぎてちょっと気に入らなかったので、お話の中でもゆるーく排除したので、タイトルもゆるーく排除した台詞にしましたw
サブタイトルの「Ask someone else…」は、直訳は「他の誰かに聞いてくれ」というそうですが、まぁ左之さん流にいうとこんな感じかな?と思って、「他をあたってくれ」という意訳をこめてつけました。
いかがでしたでしょうか?これからも、頑張ります!

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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薬研&光忠(刀剣乱舞)

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