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2015/09/01

ジレンマ原田編・参- I didn't mean that!-

幕末設定。原千。 恋仲捏造設定。共通テーマ「ジレンマシリーズ」。


店の内外を問わず、そこかしこで三味線の音や歌声、男や女の笑い声が聞こえる。
 闇夜の中で明るく煌めいている島原の街並は、確実に外界から遮断された空気を醸し出していた。
 醒めたら掻き消えちまう浮世の夢みてぇに思えるのは、この町の特性なんだろう。
 オレは新八や隊士達といた部屋から抜け出して、廊下にある格子窓に凭れ掛かって外を眺めていた。
 遠くで、太鼓櫓で刻限を知らせる音が聞こえる。
 暮れ六つ半(夜の18時位)か…明日が非番だからって、ちょっと長居しちまったな。
 酒の酔いと時間が過ぎたおかげで、何とか伊東さんへの怒りも覚めてきた。
 とりあえず、問題のあの噂をどうにかする方法を考えねぇといけねぇ。さぁどうするか…と、考えていた時だった。

「左之助様。こないなところで、何してはるんどす?」

 鶴が鳴くような、高めの郭言葉。
 衣擦れの音と、簪が揺れる音。
 視線を上げると、オレ達の部屋にいた芸者の一人が立っていた。

「えっと、あんたは…」

 確か、新八が入れ込んでた芸者の―――。

「へぇ、小萩どす。さっきまで一緒の部屋におったのに…いけずなお人やなぁ。」

 小萩と名乗った女は妖艶に笑うと、ゆっくりとした足取りでオレの横にふわりと座った。
 オレに身体を預けるように寄り掛かり、見せ付けるように傾けるうなじが白粉で眩しい。
 するりとオレの肩に乗って来る細い手は、指先だけに力を込めて何かの意思表示を見せていた。

「…部屋に戻らなくて良いのか?新八が待ちかねてんだろ。オレは、ちっとここで涼んで酔いを醒ましてるからよ、気にしなくて良いぜ。」

 こういう時の勘は、大抵外れねぇ。
 オレは女の白い手を取ると、相手の膝の上に乗せてやった。
 女に恥をかかせるのもあれだから、遠回しに断ったつもりなんだが。
 女はめげずに白く細い両手でオレの手を取ると、きゅっと軽く握ってにこりと笑った。

「永倉はんなら、部屋で酔い潰れてますえ。…左之助様。ほんまは、ウチ―――」
「小萩。」

 落ち着いた品のある口調で、女を呼ぶ声が聞こえた。
 声がした方を見ると、口の端だけで笑みを浮かべる小柄な女が立っていた。
 千鶴の友人の嬢ちゃん…確か、名前はお千といった筈だ。
 あぁ…ここは、島原潜入の捜査で使った角屋だからな。
 この嬢ちゃんがいても、おかしくねぇか。

「せ、千ひ…」

 女は嬢ちゃんの姿を見た途端、さぁっと顔を青くさせた。
 赤く紅をひいた唇が、ぶるぶると震えている。
 嬢ちゃんは両手に盆を持ったまま足音を立てる事もなく近づいてくると、女を見下ろしてくすりと笑った。

「良い子だから、仕事に戻りなさい。…ね?」

 首を傾げて冷たく笑う嬢ちゃんに、女は何も言えずにこくこくと頷くと、新八のいる部屋へ慌てて戻っていく。
 着物の裾をばさばさと乱すその後ろ姿は、さっきまでの品の良さは欠片も見えなかった。

「…嬢ちゃん―――いや、お千…だったよな。すまねぇな。」
「いえ。あの子は、君菊が受け持っている子の妹分なので。下の者を叱るのは、上の務めですから。」

 場を収める事に慣れているのか、お千は気にした様子もなくオレに微笑んだ。
 君菊の下の妹分が、お千の下の者?
 何やら謎めいたものを感じるが、助けてもらった事には変わらねぇ。
 何より千鶴の友人だ。
 とりあえず、あからさまに探りを入れるのはやめとくか。

「原田さん…でしたよね。ご一緒しても、よろしいですか?」

 お千は、徳利とお猪口が乗った盆を軽く上げ下げして、無邪気な笑顔で笑った。
 オレが「ああ」と笑って頷くと、お千は人一人分の距離をきちんと開けて、優雅に正座する。
 秋波を一切見せない、あくまでも知り合いとしての弁えた所作だった。
 しかしこの島原の揚屋の中で、男女が二人きりで酒を酌み交わしているのにそんな空気が微塵もないのも、何やら不思議なもんだ。
 オレは小さく笑うと、お千から注いでもらった酒を飲み干した。

「原田さん。最近島原の界隈で出回っている噂は、ご存知ですか?」
「…ご存知も何も、最近の悩みの種だな。ありえねぇ話だから、すぐなくなるだろうと思って放っといたんだけどよ。正直、こんなひでぇ目にあうとは思わなかったぜ。」

 オレは軽く溜め息をつくと、お猪口を空にした。
 それを見計らって、お千はそっと酒を注ぐ。

「まぁ…噂好きな人は、いっぱいいますから。千鶴ちゃんは、知っているんですか?」
「他の隊士の奴等が楽しそうに噂してるみてぇだから、知ってるんじゃねぇか?出来る事なら、あいつにだけは誤解を解いておきてぇんだけどな。…とはいっても、オレも頭が回る方じゃねぇから、良い案もとんと思いつかねぇしよ。どうしたらいいもんかって、悩んでるところだ。」

 オレは、自嘲気味な言葉を紡いでから呷るようにお猪口を空にした。
 お千はオレのお猪口に酒を注ぎながら、何かを考えるように床に視線を這わせる。
 暫くしてすっと顔を上げたかと思うと、「今の噂を消す方法なら、一つありますよ」とにこりと笑った。





 翌日の早朝。
 二日酔いと失恋の痛手で起き上がれない新八を放って、オレは身支度を整える為に井戸へ向かった。
 井戸の前は、起きたばかりの隊士達で溢れ返っていた。
 何かの話題で賑やかに話しているところを見ると、また例の噂話かもしれないと邪推しちまう。
 ちっ…もう少し早く起きて支度すりゃ良かった。
 昨日の昼間、隊士達に余所余所しくされた事が脳裏に蘇って、げんなりしながらも井戸へ歩いていくと。

「あっ!原田組長!おはようございます!」
「組長、おはようございます!水、お使いになられますよね!お待ち下さい、自分が汲み上げますからっ!」
「お前達、組長がお使いになるんだから、そこを退けっ!ささ、どうぞ!」

 隊士達は爽やかな笑顔でオレを出迎えると、迎えられたばかりの新妻みてぇに甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
 何なんだ、この違いは?
「あ…あぁ。ありがとよ。」

 隊士達の態度に戸惑いながらも、顔を洗って房楊枝で歯を磨く。
 うがいをしていると、隊士の一人がそわそわした態度でこそこそと話しかけてきた。

「組長。昨日、島原で聞きましたよ~。」
「は?」

 話しかけてきた隊士を見ると、昨日一緒に飲みに行った中で見た顔があった。
 新八と一緒に、馬鹿騒ぎをしていた奴等の中にいたような気がする。

「またまた!とぼけるのはなしですよ、組長!」
「組長、水臭いじゃないですか!」
「そうですよ!少し位、自分達にも相談して下さい!お話でしたら、いくらでも聞きますから!」

 オレが手拭で顔を拭きながら「何の話だ」と聞くと、隊士達は楽しそうに顔を見合わせながら頷く。
 はっきり言って気持ち悪ぃんだが。

「いやだなぁ!女の話ですよ、女の!」
「組長が、島原の物凄い美人の芸者と一夜だけの恋に落ちたって!今、島原はその噂で持ちきりですよ!!」
「はぁ!?」

 一体、何の話だそりゃあ!?
 呆気にとられているオレを他所に、隊士達は大盛り上がりをしながら話を続けていく。
 オレは完全に置いてぼりだ。

「しかも!敵娼(あいかた)の美人は、島原に初めて揚がったにも関わらずその晩すぐに身請けされちまって、他の男の物になっちまったなんて!」
「さすがの組長にも、叶わない恋があったんですね!!」
「その女が良い女過ぎて忘れられないから、雪村を使って冗談を言わないとやってられない位、辛かったんですよね!?」
「その苦しい気持ち!俺、よーーーっく分かります!!」

 隊士達は肩を抱き合いながら、勝手に感動して男泣きに咽び泣いている。
 ……何なんだよその、女が喜びそうな、芝居小屋の演目にありそうなお涙頂戴話は。
 それに、千鶴を使って冗談って、何の話……。



  「今の噂を消す方法なら、一つありますよ」



 ―――あの女の仕業か!
 よくよく考えて見れば、昨日今日で隊士達に噂が広がるのは、出来過ぎだ。
 お千が島原の女達を使って、違う噂を流したに違いねぇ。
 ついでに、屯所内で男装生活をしている千鶴の身を案じて、「原田組長と雪村少年との道ならぬ恋仲(衆道)」という展開にもいかねぇように配慮して、わざわざ冗談に仕立て上げたって訳か。
 …見事な手腕だ。

「おぉ、雪村。もう朝餉が出来たのか?」

 隊士の話し声に気付いて、オレははっと顔を上げた。
 千鶴は、気まずそうに目を泳がせている。

「あ、あの…原田さん。朝餉が整いましたので、お呼びかけを……。し、失礼しましたっ!」

 千鶴はぺこりと頭を下げると、たたっとその場を走り去った。
 今の、絶対誤解しやがったな。

「ちょっと待て!ちづっ……雪村っ!」

 オレは自分の持ち物もそのままに、慌てて千鶴を追いかけていった。
 歩幅も速度も、男のオレとは段違いだ。
 あっという間に追いついて、オレは千鶴の手を掴んだ。

「…離してください!平助君を起こしてこないといけないので……。」

 顔を赤らめて、千鶴は顔を背けて離れようとする。
 大きな瞳に、微かに涙が滲んでいるように見えた。

「子供じゃねぇんだから、てめぇで起きてくるだろ。それより…何で逃げた。」
「逃げてなんか…。」
「嘘つけ。泣いた顔して言っても、説得力ねぇんだよ。」
「なっ、泣いてなんかっ……!」

 千鶴がオレの言葉で更に顔を赤らめた途端、大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちてきた。
 あぁ…しまった。
 逆に泣かせちまった。

「あー…悪ぃ。そんなつもりで言ったんじゃねぇんだ。一から説明してやるから、ちゃんと聞いてくれるか?お前には、きちんと話しておきてぇんだ。…誤解されたくねぇんだよ。」

 身体を屈ませると、オレは千鶴の涙を指でぐいっと拭ってやった。
 こいつに泣き顔は似合わねぇ。
 千鶴は、涙で濡れた瞳で数回瞬きしてオレを見つめると、こくんと頷いて「はい」と小さく笑った。

「…よし。」

 オレは安心して一息つくと、千鶴の頭をくしゃっと撫でた。
 髪型を崩された千鶴はちょっと顔を顰めると、上目遣いでオレを睨んでくる。
 小動物みてぇな顔しやがって…怖くも何ともねぇよ。
 オレはくすりと笑うと、千鶴の小さな手をとって歩き出した。
 誤解なんかさせたくねぇのは本音だ。
 オレは、こいつにだけは、嘘をつきたくねぇ。

 いつか、こんな風に手をとって、安堵した顔で笑い合って歩ける日がくればいい。
 いつまでも、こいつがオレの傍らにいられるように―――。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、「主人公が千鶴ちゃんとの関係でオロオロ、苛々、ハラハラする」という本編と違う捏造話です。

原田編は、「左之さんにどうやって『ジレンマ』を味合わせるか」が、一番の悩みどころでした。
大抵のことなら受け流してしまいそうな彼が、終始うろたえたネタといえば!
「随想禄」の事件想二・原田編のオチで出てきた、衆道疑惑の噂!これしかないでしょう!!w

「あの噂を聞いた隊士達は、怯えてそうだなぁ」と思い、隊士達に避けられてぐったりしている左之さんにしました。
左之さんの噂も「女性にモテ過ぎて飽きちゃった」という、本人が聞いたら呆れる&怒りそうなものに変更w

「平隊士が噂を知っているなら、幹部達は勿論知っている筈…」というわけで、伊東さん達に出張ってもらうことになりました。
つるんでいる仲間ならともかく、伊東さんに弄られたら左之さんも大爆発するんじゃないかと思いましてw
伊東さんに弄られたままなのはさすがに気の毒なので、マフィアのドンのようなお千ちゃんに別の噂で衆道疑惑を吹っ飛ばしてもらいました(他の噂は残りましたがw)

サブタイトルの「I didn't mean that!」は、「そんなつもりで言ったんじゃない」という意味です。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : ジレンマ・原田編

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
Pixiv: 4211441


※現在、WEB拍手は3作品です。
龍鈴(薄桜鬼)/原千(薄桜鬼)/
薬研&光忠(刀剣乱舞)

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薄桜鬼。2話~の作品。完結済。
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沖田VS平助 沖田編平助編
原田VS土方 原田編土方編

◆片思い対決(色)
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沖田編
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平助編後日談後日談2
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本編番外編

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