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2015/09/01

目醒めた想い・参 - I told the trifling lie -

幕末設定。平千。入隊志願者を探す為に江戸へ出張中、覚醒する平助君。



  『あいつが狙ってるのは、千鶴』

正一から飛び出してきた言葉が頭の中でぐるぐる回って、オレはその場に固まったまま、ぴくりとも動く事が出来なかった。
 確かに、あいつだって年頃の女の子なんだから、そういう話があってもおかしくないのかもしれない。
今のご時世、早けりゃ十三、四才位で嫁にいっちまう奴だっているし、親同士が決めた許嫁がいて、がきの頃から既に嫁ぎ先が決まっちまってる奴もいる。
そう考えれば、千鶴だって可能性がない訳じゃねーんだろうけど……。
 ずっと前、オレが江戸に住んでた頃、町中で偶然花嫁行列を見かけた事があった。
駕籠に乗った白無垢姿の花嫁さんは、幸せそうな空気を醸し出してた。嫁になるって事は、千鶴があんな風に誰かの物になる為に、遠くへ行っちまうって事だ。
 嫁って、あいつが……?
オレは温くなった茶を飲みながら、そっと千鶴の事を頭に思い浮かべた。

 まー…小っこくて細いけど、顔は結構可愛い…よな。でっかい目でくるくる表情が変わって、よく笑っててさ。
作ってくれる料理だって美味いし、繕い物だって綺麗に縫ってくれるし。そうそう、あいつ綺麗好きだから、掃除も全然手を抜かずに、丁寧にやってくれるよな。
よく気のつく奴だから、何だかんだいって皆も頼りにしてるし。土方さんだって、色々言う割には仕事を手伝って貰ったりしてるしさ。
真面目な質だから、だらけたりさぼったりなんかしねーし。毎日本当によく働くよなって、見てていつも……ん?
 ……ちょっと待った。
こうしてよくよく考えてみたら、今のあいつって……そういう縁があったら、すぐにでも嫁にいけるんじゃねーか?
オレは口の中に流し込んだ茶を、ゆっくりとした動作でごくり、と飲んだ。
 『千鶴は、良い嫁さんになるな』
屯所で左之さんが、千鶴にそう言ってよく褒めてたような気がする。それを千鶴は、嬉しそうに頬を染めてはにかんでたような……。
予想外の現実が急に浮かんできて、オレはざわりと悪寒がするのを感じた。背中に走る嫌な空気を拭い去るように、もぞもぞと胡坐を組み直す。何となく、そのままでいるのは居心地が悪いような気がした。
 そもそもあいつが京に来たのは、行方不明になった親父さんを探す為だ。その親父さんが見つかれば、あいつはたぶん…江戸の家へ帰る事になると思う。
千鶴が変若水の秘密を知っちまってる事は確かに問題視されるだろーけど、そもそも親父さんである鋼道さんは、幕府の密命を受けて変若水の研究をしてる人だ。
いくら仕事上の秘密でも、娘の身に危険が及ばねーよう間に入ってくるのは間違いねーだろうし。そうなったら、オレ達があいつを監視をする必要なんてなくなる。あいつが、屯所にいる必要も…なくなっちまうんだ。
 正一の話から察するに、今表にいる奴はえらくしつこい性質らしい。千鶴が戻ってきた事が分かった途端、「千鶴を嫁にくれ」って、家に押しかけて来るかもしんねーよな。
そこでもし…鋼道さんが、そいつに良い返事をしちまったら―――。
 オレの頭の中で、女物の着物を着た千鶴が、嬉しそうな顔でさっき見かけた奴に寄り添う姿が思い浮かぶ。何でかわかんねーけど、何となく…嫌な気持ちになった。
もやもやとした、黒い煙みてーなはっきりしねー何かが、オレの身体の奥でずしりと石みてーに重たく腰を下ろしてる。
更に、小さい火傷のようなちりちりした胸の痛みまでもが出始めて、オレはふぅ、と深いため息をついた。それでも、重たい何かが消える事も…胸の痛みが止む事もなかった。
 …何でオレ、こんなに苛々してんだ?
あいつの親父さんが見つかるのは良い事の筈で、それが千鶴の一番の願いだって、ちゃんと知ってるのに。
鋼道さんが見つかったら千鶴と離れるって事は、前から分かってた事なのに……。
オレが、何か苦いものでも味わってるみたいにむすっと顔を顰めてると、戸口の方から物音がした。
はっと我に返って、オレが俯かせてた顔を上げると、呆れたような疲れたような顔をした妙さんが、小さくため息をつきながら戸板をぴしゃりと閉めた。表の奴との話は、やっと済んだようだった。


「妙さん…大丈夫か?」
えらく疲れた顔をした妙さんにそっと声をかけると、妙さんは囲炉裏を挟んでオレの向かい側に膝を折りながら、「大丈夫です。それより、お待たせしてしまってすみません」と、オレに詫びてきた。
 気が付くと、オレの斜め向かいに座ってた正一は、饅頭を食べて腹が一杯になった所為か、こっくりこっくりと頭を揺らして居眠りをし始めてる。生意気な口をきいてても、まだがきだからな。もしかしたら、いつもは昼寝をする時間なのかもしれないと思った。
「もう、この子ったら…藤堂さん、すみません。息子を寝かせてきたら、お茶を入れ直しますから。もう少しだけ、お待ち下さい。」
「あ…うん。分かった。」
妙さんは正一を揺り起こすと、そっと抱き上げて一旦奥の部屋へと姿を消した。
 暫くして奥の部屋から戻ってきた妙さんから、新しい茶が入った湯のみを受け取ると、オレは意を決して「ちょっと、聞いても良いかな?」と話しかけた。
「はい?あ…お熱いのでお気を付け下さいませ。こちらのお饅頭も、どうぞ召し上がり下さい。」
「うん、ありがと。…あのさ。さっき、正一から聞いたんだけど…さ……。」
オレの気まずそうな口調に察しがついたらしく、妙さんは一瞬だけきょとんとしてから小さく苦笑いをして、「先程訪ねてきた方の事ですか?」と問いかけてきた。
「あ、ああ。オレ、江戸で「千鶴を嫁にしたい」って思ってる奴がいたなんて、全然知らなくて…さ。でも、千鶴の親父さん…鋼道さんも、まだ見つかってねーし。だから千鶴も、江戸へ戻ってくるのはたぶん…結構先の事になると思う。だから…さっきの奴が千鶴と会えるのは、まだ無理じゃねーかな。」
「…そうですか。このご時世ですから、人探しもなかなか上手くはいかないのでしょうね。私も先日、先生がご無事でいらっしゃるようにと、正一と一緒に八幡様へお願いしに行きました。鋼道先生が、早く見つかると良いですね。」
「うん。オレ、あいつに「絶対見つけてやるから」って…約束したからさ。見つかるまで、頑張って探すよ。」
「ええ…私からも、お願いします。」
妙さんも、江戸へ出稼ぎに来た夫を追いかけて、息子と一緒に田舎から旅をしてきたらしいから、千鶴の今の身の上を他人事には思えねーんだと思う。心配そうな表情は、まるで千鶴とは血を分けた姉さんみたいに、親愛の情に満ちたものだった。
「あー…えっと、そういう訳だからさ。もしまたさっきの奴が来たら、オレに知らせてもらえねーかな。」
「藤堂さんに…ですか?」
「う、うん。もし、千鶴とそういう約束でも交わしてるんなら…千鶴に言伝したい事とか、あるかもしんねーし。伝言位なら、オレでもしてやれるしさ。」
ちょっとした、親切心のつもりで出た言葉だった。
自分から思いついて話した事なのに、さっきの小さな火傷みてーな痛みが、今度はじりじりと焦げ付くような痛みに変わってくる。
痛みの原因が分からねーまま、胸の奥が詰まるような息苦しさを隠して、オレが妙さんに向かって無理にへらっと笑った時だった。
ぷっ。
妙さんは、我慢が出来ねーって顔で軽く息を噴き出すと、そのまま口元を抑えながら楽しそうに笑い始めた。
 な、何だ……?
妙さんは怪訝な顔をしてるオレに向かってにこりを笑うと、「大丈夫ですよ」と笑った。
 大丈夫…って、何が?
「藤堂さん。あの方は、千鶴さんの恋仲相手でもなければ、許婚の方でもありませんよ。」
「……えっ?」
 違う?
オレが思ったままの言葉を口にすると、妙さんはおかしそうに眉を歪めながら「はい」と大きく頷いた。
「さっきの方は雄吾さんと仰って、この近くにある「大井屋」という薬種問屋さんの息子さんなんです。」
「薬種問屋…?」
店の名前を聞いて、オレはさっきここへ来る前に通り過ぎた薬種問屋の事を思い出した。大通りに面したところにある、きっちりとした店構えの大店だった。
 確か…あの店の名前、大井屋だったよな。
あんなでかい商家の息子なのか……。
さっき訪ねてきた時にちらりと見えた身なりの良い着物姿の正体が分かって、オレはなるほど、と納得した。あれだけ大きな商家の息子なら、仕立てられた着物は上等の物に決まってるよな。
「お仕事柄、鋼道先生は大井屋さんのご主人とご昵懇の間柄らしくて。千鶴さんも、先生のお手伝いをされてましたから、雄吾さんともお話をする機会が何度もあったそうなんです。」
「ふーん…。」
 まー…そりゃそうだよな。
薬種問屋の息子と、医師の娘。互いに親の手伝いをしてるんなら、そりゃ顔を付き合わせる事があっても全然おかしくねーよな。
妙さんの話に納得しながら、オレが饅頭を一口齧って茶を飲んでると、妙さんは眉を下げながら「でも」と小さくため息をついた。
オレが「でも?」と言葉尻をとって聞き返すと、妙さんは「雄吾さんには残念ですけど、ご縁が薄いみたいなんです」と苦笑した。
「へ?それって、どういう…」
「雄吾さん、千鶴さんにはまだ何もお伝えしてないそうなんですよ。」
「―――は?」
 …ちょっと待った。
まだ何も伝えてねー…って事は、完全にそいつの「片恋」で、一方通行の想いだ……って事か?
じゃあ、千鶴とは恋仲でも何でもなくて……ただのあいつの一人相撲って事なのかよ!?
オレが聞きたい事を、妙さんはオレの表情だけで全部読み取ったらしい。必死で笑いを堪えるような顔で眉を下げながら、妙さんは「ええ」と深く頷いた。
「雄吾さん…なかなか勇気が出せなくて、千鶴さんに想いを告げる事が出来なかったそうなんです。お父様に背中を押されて、思い切って鋼道先生に相談しようと思ったら、先生はお仕事で出かけられたままで。じゃあ、千鶴さん本人に直接伝えよう…って訪ねたら、今度は千鶴さんが私達に留守を預けて京へ行ってしまって……。それ程までに機会を逃すなんて、もうご縁が薄いとしか……。」
「……。」
 何つーか…気の毒なのかそうじゃねーのか、微妙なところだよな。
勇気を出せずにまごまごしてたら、結婚の許可を貰う前に親父さんがいなくなっちまって。更には、告げる相手の本人もいなくなっちまうなんてさ。確かに妙さんの言う通り、「縁が薄い」って言葉がしっくりくると思う。
 知り合ってから長い付き合いがあったとしても、縁が薄いと、こんなにも空回っちまうもんなんだな。
そう考えると…オレ達と千鶴は、不思議な縁なのかもしれない。
あの夜、千鶴は新選組にとって見られちゃ不味いもんを見ちまって。
屯所へ連れてかれて、今後の処遇の話をしてたら、探してる親父さんがオレ達と関係のある人間で。
親父さんが見つかるまで、千鶴はオレ達の監視下に置かれながら今、屯所で一緒に暮らしてる―――。

 あいつとオレ達の、不思議な繋がり。
少なくとも…その雄吾って奴との縁よりは、少しはましだよな。たぶん。
オレは心の中で勝手に納得すると、手に持ってたままの饅頭の欠片を口に放り込んで、冷たくなった湯飲みの中の茶を一気に飲み干した。


-肆へ続く-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 目醒めた想い

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となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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薬研&光忠(刀剣乱舞)

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