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2015/09/01

目醒めた想い・弐 - I told the trifling lie -

幕末設定。平千。入隊志願者を探す為に江戸へ出張中、覚醒する平助君。



「え…っと。たぶん、この辺…だよな?」
目の前に広がる、見慣れねー町並。
ずっと手にしてた所為で、くしゃっと折れ曲がっちまってる紙切れをちらちら見ながら、オレは今いる場所が正しい事を何度も確かめた。
紙切れには、細くて柔らかな筆遣いで、目的地までの地図と道順が丁寧に描かれてる。その紙切れが指し示してる筈の場所は「団子屋」と書かれてるけど、目の前にあるのは何故か小間物屋だった。
 道は…合ってるんだよな、きっと。
このまま闇雲に歩き回って、迷子になっちまっても格好悪いしな。人に聞いてみた方が、手っ取り早いか。
「なーなー、親父さん!ちょっと道を聞きたいんだけど、良いかな?」
「あぁ?別に暇だから、構わねぇけどよ。一体どこへ行きたいんだ、坊主?」
「だーっ、誰が坊主だよっ!…ここへ行きたいんだけどさ、分かる?たぶん、この近くだよな?

オレは、道の右側で風車売りの屋台を引いてる親父へと駆け寄って聞いてみた。親父は、オレが渡した紙切れを老眼らしい目を細めながら、紙切れを近づけたり遠ざけたりしてる。
大丈夫かな…とオレが不安げな視線で見てると、親父は数回頷いてから、身振り手振りで丁寧に道を教えてくれた。


 オレが江戸へ東帰してから、二十日が過ぎた。
新選組の入隊者を集めるって仕事は、慣れねーオレには物凄く大変な仕事だった。
 オレは、土方さんみたいに相手の心の動きを読みながら丸め込むような技なんか持ってねーし、近藤さんみたいにいつのまにか相手を和ませてその気にさせちまうような、人の気持ちを引き込むような力も持ってない。山南さんみたいに策を講じる事なんて、以ての外だ。
オレは、自分が出来る限りの熱意で多くの事を話すか、剣を取って腕試しをしながら話の真剣味を身体で分かってもらうという、皆が聞いたら呆れちまいそうな位に不器用な方法を取ってた。
 それでも、同門のよしみで伝を頼った事が功を奏して、やっと志願者を集める事が出来た。
でもこれは、全部がオレの手柄って訳じゃない。志願者の中に、「伊東さん」という世間でも名の通った人物がいたからだ。
 伊東さん。伊東大蔵さん。
北辰一刀流の免許皆伝で、深川にある北辰一刀流剣術・伊東道場の道場主だ。
剣は勿論、学問にも優れてて、茶や和歌も嗜む教養も高い人物。
道場を営んでる割には物腰も言葉遣いも柔らかくて、呼び名も「先生ではなくて、名字で結構ですよ」と、偉ぶったりなんかしない。優しげな容貌だけどえらく頭の切れる人物だと、世間でも呼び声の高い武士だ。
 その伊東さんが、かなり盛況だった筈の道場をたたんで、「伊東甲子太郎」と改名までして京にある組織へ入隊するなら―――と、道場の弟子や親しい武士達が続々と志願しに現れて、いつのまにか十を越える数になった。
 高名な伊東さんの入隊と、大人数の追加された入隊者。京の屯所でも、この人達を迎え入れるにはそれなりの準備をしなくちゃいけない。勿論、伊東さん達にも上京の準備があるから、すぐには出立出来ない。
 入隊者を募る仕事が一段落したオレは、お互いの準備が終わるまで、伊東さんの家の近くにある宿屋に連泊しながらもう一つの目的を果たす事にした。


「薬種問屋…あ、ここか。ここを、通り過ぎるんだよな。」
 オレは、手の中にある紙切れと、屋台の親父さんに教えて貰った道順を頭の中で繰り返しながら、ゆっくりと辺りを見回した。
紙切れに書かれた通り、薬種問屋の前を通り過ぎ。屋台の親父さんが言った通り、前は口寄せ屋だったけど今は蕎麦屋になってる角を、左に曲がって。
小せー長屋が幾つも連なってる「波風長屋」の入口を通り過ぎて、小さな地蔵堂の二軒先―――あった!
「やっと見つけた…!」
漸く辿りついた、目的の場所。
門柱にかけられた看板を見て、目的地とここが間違いない事を確かめると、オレはほっと息をついて額に滲む汗を腕でぐいっと拭った。
看板には、雄々しく流麗な文字でこう書かれてた。
 雪村診療所。
ここは、千鶴が京へ向かう前まで、親父さんと二人で暮らしてた家だ。
オレのもう一つの目的は、この家に来る事だった。


『えっ…私の家の場所?』
大きな琥珀色の瞳をぱちぱちと瞬かせながら、千鶴は不思議そうな顔でオレに聞き返してきた。
 京から江戸へ出立する、数日前。
オレは、自分の部屋で繕い物をしてる千鶴に声をかけて、江戸にある千鶴の家の場所を聞いた。
『ああ。オレ、仕事でちょっと江戸へ行くからさ。ついでに、お前ん家の様子がどうなってるか…見てきてやるよ。もしかしたら、親父さんが江戸へひょっこり帰ってきてるかもしんねーしさ。』
『え…でも、平助君はお仕事なんでしょう?これ以上、迷惑はかけられないよ。』
細い眉を下げてふるふると首を左右に振ると、千鶴は華奢な両肩を下げながら、しょんぼりと項垂れた。
親父さんの事は心配だけど、出来る事ならオレ達の邪魔はしたくない…あどけない顔立ちにすっと陰った表情が、そう言ってた。
『気にすんなって。ほんのついでだからさ。お前も、家を長く空けちまってるから、ちょっと心配だろ?』
『……そう、だね。じゃあ…お願いしても、良いかな?あっ…でも、忙しかったら、お仕事の方を優先してね?』
『分かってるよ、大丈夫だって!じゃあ、千鶴の家までの道順を教えてくれよ。』
『うん…えっとね―――』


 遠慮する千鶴を説得して、オレは道順を示した紙切れと一通の手紙を受け取った。
手紙は、千鶴の家の隣に住んでる母子宛だ。千鶴が戻るまでの間、留守を預かってもらってるらしい。すぐに親父さんが見つかれば良いけど、見つからなかったら―――そう考えて、隣の人に話しておいたようだった。

 千鶴の家は、表側が診療所で裏の奥が暮らす場所に分けられた、広めの平屋だった。
目の前にある、診療所の玄関口の茶色い格子戸は、ぱしん、と固く閉まってる。
建物は黒ずんだ板塀にぐるっと囲まれてて、門だけが口を開けてた。たぶん、戸板とかに乗せられた患者や怪我人を通しやすくする為だと思う。
 門柱にかけられた大きめの看板は少し煤けてて、門の奥にある小さな庭は、雑草が少し長く伸びてる。
いくら頼まれてるからっていっても、母子二人暮らしの生活なら、留守居の手入れが片手間になっちまっても仕方ねーよな。
それでも、長い間無人の家となっている割には、小綺麗な方だと思った。
 たぶん、隣の人がちょくちょく見に来てくれてるんだろーな……。
門をそっと潜ると、敷地内は時が止まったみてーに静まり返ってて、人の気配は全くなかった。
建物の様子を見ると、玄関の格子戸や数歩先にある平屋の戸板にも、うっすらと埃が被ってる。ここ数日、家主が戻ってきたような形跡は見られなかった。
 やっぱり鋼道さんは、こっちには戻ってきてねーか……。
出来れば、千鶴に良い話を土産にしてやりたかったんだけど……ん?
 オレが、肩を落として小さくため息をついた時。後ろに人の気配がして、オレはすっと真横にずれながら、くるりと踵を返した。
 !?
振り返った先には、髪を後ろへ一つ結びに束ねつ紺色の着物を着た十かそこらのガキと、長い髪を一つ結びに束ねて横に緩く結わえた、千鶴よりもずっと年上の緑色の着物を着た女の人が、無言でオレを眺めてた。
 …な、何だ?
「なぁ。兄ちゃんさ、この家に用でもあんの?もしかして兄ちゃんも、あいつと同じ奴?」
「…は?あいつって?」
「これっ、正一!…すみません、息子が失礼な口をききまして。あの…私達、隣の家の者ですが。雪村さんなら、ずっと前からお留守ですよ。」
「隣って…じゃあ、千鶴が留守を預けた人って…!?」
「はい、私達ですが。あの…?」
息子の口のきき方を叱りつけた女の人から、怪訝な顔で「どちら様ですか?」と聞かれて、オレは自己紹介をしながら千鶴から預かった手紙を母親に渡した。

 半刻後。
妙さんと正一母子は、千鶴からの手紙でオレが千鶴と親しいって事が分かると、急に空気を和らげて家へと招き入れてくれた。
「千鶴さんとは、私達が隣に越してきてからの仲なんですよ。私達は、故あって江戸に下って来て…」
「オレ達、江戸へ出稼ぎに来てる父ちゃんに会いに来たんだ。父ちゃんは仕事で忙しいから、まだ一緒には住めないんだって。父ちゃんの仕事が終わるまで、オレと母ちゃんは二人で頑張るって、約束したんだ。なっ、母ちゃん!」
「正一っ!…あの…すみません……。」
正一の言動に、妙さんが恥じらうように頬を染めながら、困り顔で頭を下げてきた。
オレ達にはオレ達の事情があるのと同じように、この母子にも何か深い事情があるんだと思う。
「いや、気にしなくていいよ、妙さん。正一も、まだ小せーのに大変だな。」
「別に、そうでもないよ。千鶴姉ちゃんはすげー優しいし、鋼道先生も、無口だけど良い先生だしさ。」
「千鶴さんは、身体の弱い私をよく気遣ってくれて……。ついでだからと言って、家事の手伝いやお裾分けをしてくれてたんです。」
二人の和やかな口振りから、千鶴にかなり心を砕いてるのがよく分かる。
女物の着物を着た千鶴が、二人と楽しそうにご近所付き合いをしてる姿が頭に浮かんで、オレは思わず頬を緩めた。
「…そっか。あいつ―――千鶴は、こっちでも京でも…大して変わってなかったんだな。ちょっと…安心した。」
「え?」
「変わってねーって、何が?」
「あ…ああ、何でもない。えっと…千鶴ならさ、京でちゃんと元気にしてるから。そうだ、オレが京に帰ったら…」
両手と頭を左右に振って、オレが必死で取り繕うとした時だった。
「すみません。妙さんは、いらっしゃいますか。」
部屋の入口にあたる戸板の外で、柔らかな口調の若い男の声が聞こえた。
入口へと顔を向けた母子は、うんざりした顔で互いに顔を見合わせると、はぁっと重いため息をついた。
 妙さんの客…だよな。
何だ…?
妙さんのあからさまに面倒臭そうな顔を見て、正一が「オレが出ようか?」と立ち上がる。
正一ににこりと笑いかけて「大丈夫よ」と取りなすと、妙さんはゆらりと立ち上がって、不愉快そうな空気を醸し出したまま入口へと歩いてった。
「…ったく。あいつ、本当しつっこいんだよな。」
苦虫を噛み潰したように顔を顰めてそう毒づくと、正一は目の前に出されてる饅頭を手に取って、噛みつくようにかじりついた。
妙さんは客を家へ上げるつもりが全くないらしく、戸板をぴしゃりと閉めて表で立ったまま男と何かを話してるようだった。
 さっき妙さんが外へ出た時、ほんの少しだけど男の姿がちらりと見えた。
町人風の髪型に、遠目から見ても上物の着物を身につけてたと思う。どこかの大店の主人か、若旦那…そんな感じの風体だった。
正一を横目で見ると、まだ不機嫌そうな顔で何個目なのかもわからねー饅頭を頬張ってる。
 察するに、金持ちの道楽息子が妙さんに言い寄ってる…ってところか?
「何だよ、正一。今来てるお客さんの事、嫌いなのか?」
「…嫌いっていうか、しつっこいんだよ。いいとこの坊の癖にさー。あれじゃ、嫁に来る人なんかいる訳ないって。いい加減あいつも、さっさと諦めれば良いのに。」
 こんな小せーガキに、嫁の貰い手について揶揄われちまうんじゃ、男して立つ瀬がねーよな。
オレは小さく笑うと、正一の肩をぽん、と叩いた。
「まーそう言うなよ。息子として、母ちゃんに言い寄ってくる男が気に入らねーってのは、分かるけどさ。」
「…はあ?あいつが狙ってるのは、母ちゃんじゃねーよ。」
「は?妙さんじゃねーの?」
「そうだよ。あいつの狙いは、オレの母ちゃんじゃなくて、千鶴姉ちゃん!「まだ帰ってこないのか、連絡はないのか」って、十日に一度は家に聞きに来るんだよ。もう鬱陶しくてさぁ。」

あいつが狙ってるのは千鶴

オレは正一から言われた言葉に、何故かぴくりとも反応を返す事が出来なかった。

-参へ続く-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 目醒めた想い

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となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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