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2015/09/01

目醒めた想い・壱 - I told the trifling lie -

幕末設定。平千。入隊志願者を探す為に江戸へ出張中、覚醒する平助君。


 強い陽射しが、まだ夏の熱を残す九月。
「あー…やっぱりオレは、こっちの方が良いかもしんねーなー。」
目の前に広がる懐かしい風景に、オレは溜め息と一緒にぽつりと呟いた。
 京で見かける奴等よりも、少しだけ足早に歩く人々。平屋がずらりと建ち並ぶ雅な町並に比べて、いろんな建物が所狭しと並ぶ、雑多な雰囲気の町並。
やんわりとした京言葉じゃなくて、しゃきっとした江戸前口調の言葉が、風にのってそこかしこから聞こえてくる。
久しぶりに戻ってきた江戸の町は、京のゆったりとした空気よりも、明るくて活気に満ちてるような気がした。
 江戸育ちのオレは、余所者にはちょっと冷たい京の町よりも、こっちの方がずっと性に合ってるって感じる。試衛館の皆も、たぶん同じなんじゃねーかと思った。
「うん…やっぱり、落ち着くよな。」
オレはくるりと辺りを見回すと、ふぅ、と軽く肩の力を抜いた。


『はぁっ!?江戸へ出張って…オレが!?』
 十数日前。屯所の大広間内に、素っ頓狂なオレの声が響いた。
幹部会議が開かれる、いつもの大広間。
奥の上座に座ってる局長の近藤さんを始め、左右に副長の土方さんと総長の山南さん。その後に続くように、一番隊から左右に下座へと各組長が並んでる。
土方さんは腕を組み替えながらオレの問いかけに小さく頷くと、年寄りみてーにきっちりと刻まれた眉間の皺を、もっと深く刻んだ。
『…そうだ。組織をでっかくするには、頭数は勿論、腕っぷしの良い奴等も必要だからな。お前は、北辰一刀流の目録を持ってる。そのあたりの伝を手始めに、腕に覚えのある奴等を勧誘してきてくれ。』
『ちょ…ちょっと待ってよ、土方さん!そんな事、いきなり言われてもさ……。それに、何でオレなんだよ!?』
勧誘とかそういう類の務めは、今まで別の奴等がやってた仕事だ。
オレはお世辞にも口が上手い方じゃねーし、認めたくねーけど…背も小柄な方だし、見た目も若く見られちまう事の方が多い。
 仮にどこかの道場の門を叩いて勧誘したとしても、上背のある奴等に舐められちまって、門前払いをされる可能性がねーとも限らねーし。
近藤さんがオレを選んでくれたのかもしんねーけど、土方さんが勧誘役をオレにした時の不安材料を考えねー筈がねーし。
 どう考えても、オレが適任だとは思えねーよな……。
『…平助。』
憮然とした顔でオレが黙り込んでると、オレの心の中を覗き見したみてーに気持ちを察した土方さんが、眉を下げながら苦笑した。
『今まではな、「オレ達新選組が相手に舐められねぇように」って、強そうな見た目の奴を選んでたんだ。勧誘役だった奴等の報告を聞くとな、俺達の腕前をはかるために相手から、「腕試し」として立会い稽古を頼まれる事が少なくねぇんだとよ。』
『…つまり、あっちで相手と剣の稽古をさせられるって事?』
『あぁ。オレ達の腕前があちらさんにきっちり認められねぇと、話にもならねぇって事だ。それにな…こういう人集めってのは、お前みたいに名の通った流派の剣豪が出向いていった方が、意外とすんなり事が運ぶんだよ。折角、世間様に覚えの良い名を背負ってんなら、使わねぇって手はねぇだろうが。名前ってのはな、そういう風に使うもんなんだよ。』
土方さんは、役者にも負けねー位の端正な顔でオレをぎろりと睨みつけると、ぎらついた瞳の熱をたたえたまま、にやりと笑いかけてきた。女なら一発で参っちまいそうな、錦絵に描かれたみてーな艶のある男らしい姿だった。
 悪いけど…オレは女じゃねーから、そんな風に持ち上げられてもほいほい乗っかったりなんかしねーよ。
オレは眉根を寄せると、土方さんからぷいっと視線を外した。
『じゃあ、オレなんかよりも新八っつぁんの方が適任なんじゃねーの?ぱっつぁん、神道無念流の免許皆伝じゃん。』
『おいおい…平助。新八に、そんな役目を任せられる訳ねぇだろ?新八が、他の道場で「腕試し」をしてみろよ。試合に熱が入りすぎて、やり過ぎるに決まってるじゃねぇか。向こうが怪我でもしてみろよ、下手すりゃ道場破りになっちまうぜ。』
『左之、てめえなあ…。』
顰めっ面をしてむくれてるオレに、左之さんがでかい手でオレの肩をぽんと叩きながら苦笑して宥めてきた。
むっとしてるぱっつぁんには悪いけど、オレはあえて否定しなかった。
 確かに、剣術馬鹿が高じて、脱藩までしちまったぱっつぁんの事だ。腕試しの稽古が楽しくなっちまって、つい熱が入り過ぎちまう…なんて事、本当にやりかねない。
 もし、お偉いさんの血縁とかが通う道場で立会い稽古の度が過ぎて、相手に怪我なんかさせちまったら……。
下手すると、志願者を募るとかの問題以前に新選組の進退に関わっちまうんじゃねーか?
冗談にも出来ねー自分の想像に、オレがひやりと背筋を寒くした時だった。
『まぁ…力の加減がきかないっていう話なら、平助にも言える事だと思うけどね。本当に大丈夫なのかなぁ?』
『止めろ、総司。平助は迂闊な発言も多々あるが、隊務としての務めはきちんと成し遂げる。局長と副長の信頼を損なうような、愚かな真似などする筈がない。』
いつもの意地の悪い笑みでオレを揶揄う総司に、一君はオレを持ち上げてるのか落としてるのか分からねー言葉で冷たく咎めた。総司は一君をちらりと横目で見てから、悪戯小僧みてーに小さく肩を竦めて楽しそうに笑ってる。
 一君…オレの事を褒めてんの?それとも、けなしてんの?
オレが半分呆れた顔で二人を眺めてると、新八っつぁんがばりばりと頭をかきながらため息まじりに口を開いた。
『…悔しいけどよ、平助が一番適任だよなあ。左之は剣術よりも槍術だから、伝の幅がちっと狭まっちまうだろうしよ。斎藤は左利きだってだけで、剣を交える前に偏見を持たれちまうだろうし。土方さんは完全に我流の剣だし、近藤さんと総司は天然理心流だからなあ。』
『!』
その瞬間、大広間内の空気がぴきん、と張り詰めた。
 ちょ、ちょっと…この展開、やばくねーか…?
近藤さんや源さん、オレも含めて他の幹部達が表情を強張らせて固まってると、それまで腕組みをしてた土方さんがするりと両腕を袂から抜いた。
『おい…新八。我流たぁ、随分言ってくれるじゃねぇか。』
『確かに槍は、剣よりも道場が少ねぇけどよ。腕っぷしの強さなら、剣の奴等にも引けはとらねぇぜ。槍術者の腕前を試してぇってんなら…新八。ちっと、今から道場に行くか?』
『ねぇ、新八さん…まさか今の発言、天然理心流を侮辱した訳じゃないですよね?』
『…利き手が異なっていても、剣を操る事に不利などない。身を持って知りたいのであれば、相手をするが…』
土方さんを筆頭に、左之さん、総司、一君の四人が同時に胡坐を崩して片膝をついた体勢になる。新八っつぁんの言葉に、皆は剣客として文句を言いたくなったみてーだった。
 一君を除いた三人は、顔は笑ってるけど目は全く笑ってなかった。ゆらりと立ち上がろうとする三人に加えて、無表情のまま左手で鯉口を切ろうとする一君は、どす黒い空気を醸し出してる。
新八っつぁんは血の気が引いた青い顔をしながら、慌てて『いや、今のは…!』と必死に弁解しようとしてる。でも、そんな事が耳に入るような四人じゃねー事は、ここにいる全員が分かってる事だ。
 ぱっつぁん…オレも、概ねぱっつぁんには同意見なんだけどさ。
本人の目の前で、口に出したら駄目だろ……。
ため息をつきながら、オレが『骨は拾ってやるよ、ぱっつぁん』と心の中で合掌した時だった。
『…皆さん。皆さんご自慢の剣技についての話はまた次の機会にして、今は会議を進めませんか。』
それまでずっと黙っていた、一人の隊士の声。
静かだけど冷涼な声音に、オレも含めて皆の動きがぴたりと止まった。瞬きをする事も忘れて、全員がゆっくりと発言の主へと視線を向けてく。
そこには、以前と変わらない…本当に姿は変わらない―――けど。
眼鏡の奥の瞳に、前よりも冷たく昏い炎をたたえた一人の剣士が…凛とした風情でそこに座ってた。
 急激にしん、と静まり返った…気まずい大広間。
近藤さんが空気を変えるように大きく咳払いをして、『平助』とオレを呼びかける。それと一緒に、体勢を崩してた皆が一斉にきちんと座り直して、すっと背筋を伸ばした。
『まぁ…そんな訳で、だ。君には、東帰して新選組の一員となってくれそうな逸材を見つけてきてもらいたい。江戸から京へ戻る頃には、その額の傷も落ち着いているだろう。無論、帰って来たら今まで通り、きっちりと隊務をこなしてもらうぞ!だから君は、隊の事は気にせず安心して志願者を集めてきてくれ!』
『…!』
近藤さんの、人の好さそうな笑みと言葉に、オレははっと気がついた。
 …わざとだ。
松本先生から『頭の傷を軽く見るな、完治するまでは留意しろ』と押し止められちまった所為で、オレはまだ完全に隊務へ戻る事が出来てない。
それでも、額の傷以外はどこも悪くねー幹部を、大した仕事もさせずにふらふらさせとく訳にもいかない。
だから、江戸へ出張させる事にしたんだ。「志願者を集めさせる」っていう、大義名分を作って。
 オレが『もしかして…』と呟きながらぐるりと皆の顔を見比べてくと、皆は何にも知らないふりをしてそっと視線を泳がせた。
 皆も、分かってたのかよ…!
ばつが悪そうに頭をかきながら『すまん、歳』と詫びる近藤さんを無視した不機嫌そうな顔の土方さんが、『いいか!これは、局長命令だ。とっとと準備して、行ってこい!』と、半ば自棄っぱちに怒鳴り散らす声が響いた。


 あ、涼しい―――。
オレが手拭で首の汗を拭いてると、少し強めの風がするりと吹き抜けてった。
残暑の風はまだ生温いけど、夕刻にもなると少しは冷えてくる。今朝からずっと歩き詰めだった所為で大量の汗をかいてたけど、さっきの風で少しだけひいたような気がした。
これから、また暫く世話になるこの江戸の町で。出来れば年が変わる前までに、一人でも多くの志願者を集めなくちゃいけない。
 …もう一つの目的もあるし、ちゃんと頑張らねーとな!
オレは、もう十数日も見てねー「あいつ」の笑った顔を思い出しながら、着物の上から袂の中に潜ませてる物をそっと撫でた。
屯所を出る前に「あいつ」から渡された、大事な預かり物。なくしちゃいけねーと思って、屯所を出てからずっと肌身離さず持ってる物だ。
「とりあえず、まずは試衛館へ挨拶に行くか。」
オレは両腕を上げながら「うーん」と身体を大きく伸ばすと、試衛館を目指して力強く歩き出した。

-弐へ続く-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 目醒めた想い

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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薬研&光忠(刀剣乱舞)

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原田VS土方 原田編土方編

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