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2015/08/31

祈り結く声・前編-You're the only one for me-

平千√ED後。平千。名前の話。シリアス&甘め。


蝉の鳴き声が、そこら辺から波の音みてーに、寄せては返してくる…七月。
 オレは千鶴と一緒に、山の麓にある町まで買い出しに来た。

「そんじゃ、千鶴。オレ、ここで待ってるからさ。何かあったら、すぐに呼べよな。」
「うん。ごめんね、平助君。ありがとう。」
 オレは、緑色の暖簾をくぐって店の中へ入っていく千鶴を見送ると、通りを挟んで向かい側にある木の幹に、とすん、と身体を預けた。

 戦いが終わって…オレと千鶴が雪村の跡地に住み着いて、もうかなり経った。
 雪村の地に流れる川の水は、本当に羅刹の毒に…効き目があって。
 太陽を浴びると、身体の芯が焼けるようなあの感覚はもうなくなったし、貧血で起こる眩暈も、血を欲しがる例の発作もほとんど起きない。
 変若水を飲む前のオレと…あんまり変わらない身体に戻ったみたいだ。
それでも…長い間日の光を浴びるのはまだ駄目みたいで、すぐに身体がだるくなっちまう。
 身体の調子が悪くなると千鶴がすげー心配するから、オレは今日みたいにいつもより日差しが強いなって感じると、こんな風に出来るだけ日陰とかに入って休むようにしてる。
 あいつは、オレの身体を気遣って「買い物位なら一人で行けるよ」っていつも言ってくれるけど。
 女一人で山を下りて町へ行かせるなんて、冗談じゃねーよ。
(千鶴の事もすげー心配だけど…他にも、ちょっと心配事があるし)
(その時が来るまでは…あいつの事を、一人になんてさせたくないから―――)


「お待たせ、平助君。」
 木陰の端からオレが澄んだ空の青さに目を細めてると、風呂敷包みを胸に抱えた千鶴が、にこりと笑いながらオレの近くまで歩いてきた。
 屯所にいる時、高い位置で一つに結ぶだけだった千鶴の髪は、今はくるりと一纏めに結い上げた「女髪」に変わってる。
 薄桃色の唇には、この前オレが買ってやった紅が薄くひかれてて、あの頃よりも少し大人びた感じだ。
 赤い女物の着物を着た千鶴は、ちょっと前まで何年も男装してたって事が信じられねー位、「可愛い女の子」で。
 オレと一緒に町へ行く度に、いつも視線の端っこで、若い男の視線がちらちらとひっかかる。どいつもこいつも、「隙あらば千鶴に声をかけよう」って顔だ。
 こうしてる今だって、道行く男共の視線がちくちくと突き刺さってくる。
 オレが傍にいるのにも関らず…だ。
(これだから、一人でなんて行かせられねーんだよな…)
(…当の千鶴は、全然気付いてねーみたいだけど)
「平助君?どうしかした?」
「あー…いや、何でもねーよ。それよりさ、次はどこへ行くんだっけ?」
 不思議そうな顔で聞いてくる千鶴に、オレがあたふたと言い訳をしながら歩き出そうとした時だった。
 どんっ。
 歩き出したオレの足に、走ってきた小っせーがきの足が引っかかっちまった。
「あっ!」
「きゃ…」
「わぁっ!」
 オレ達が声を上げるのと同時に、細っこいがきがぐらりと体勢を崩す。ずしゃっという、砂とか土とかの擦り合う音がして、がきは勢い良く前のめりに転んじまった。
(やべー!)
 むくりと頭を上げたがきの顔は砂だらけで、目には涙が溜まってる。
 ぷくぷくしたほっぺは、砂にまみれて少し白っぽくなってた。
(うわ、思いっきり転んじまったもんな…そりゃ痛ーよな)
「悪い、余所見してた!ごめんな!?」
「大丈夫?坊や、怪我はしてない?」
 心配そうに声とかける千鶴と一緒に、オレが倒れ込んでるがきに手を貸そうとした瞬間。

「お待ち下さい!」

 まるで、オレの手をはね除けるような厳しい声が、背後から聞こえた。
(え?)
 振り向くと、そこには生意気そうな顔をしたがきが、オレ達を睨むような目つきで立ってた。
 年は…たぶん十三か、十四位だと思う。
 肩に掛けてる、竹刀の入った袋と胴着袋。茶色の袴姿に、白い足袋と綺麗な草履。一目で、いいところの坊ちゃんだって事が分かる。
 一重の細い目で、きっとオレ達を睨めつけてくるそいつの顔は、オレの足元に転がってる奴の顔とよく似てた。
(こいつの兄貴…かな?)
 オレが二人の顔を交互に見比べてると、大きい方のがきは落ち着いた足取りで、すたすたとこっちへ向かってきて。
「そうやって、いつまで地べたに転がっているつもりなのだ、一太郎!」
 転んでる奴の前に立って、思いきり見下した視線を浴びせながら、厳しい口調で叱りつけた。
(うわっ、厳しい兄貴だな)
(自分が助ける為に、オレ達を止めたんじゃなかったのか)
 オレが驚きを隠せずにぎょっとした顔で黙って見てると、そいつは「一太郎」って奴を更に罵倒した。
「お前も、私と同じく父上の子だろう!ならば、己の力でとっとと立て!」
「…っ…はい、あにうえ。」
 一太郎は、ぐっと泣きそうになるのを堪えると、ゆっくりと立ち上がった。
 震える華奢な足で立ち上がって、小っせー両手には、ぎゅっと握り拳が作られてる。
 でっけー目から今にも涙が零れ落ちそうになってたけど、下唇を噛み締めて必死で我慢してる顔だ。「兄貴」の教えをちゃんと守りたくて、頑張ってるのがよく分かった。
「…よし。」
 一太郎が自分の力で立ち上がったのを確認すると、兄貴は荷物を自分の肩から下ろして、弟の目の前にすっと屈んだ。自分の着物が砂埃にまみれちまうのにも構わずに、ぱんぱんと着物の埃をはらってる。
 涙声で一太郎が「あにうえ、ありがとう」と礼を言うと、兄貴は懐から手拭を出して弟の顔を拭いながら、「怪我がなくて良かったな」と小さく笑った。
(こいつら…たぶん、武士の子だな)
(兄貴の方は道場からの帰りみてーだし、話し方も風体も、町人って感じじゃねーもんな)
 オレが「こいつの躾が厳しいのも、その所為かもしれない」って納得してると、弟の着物を整え終わった兄貴が、きびきびとした動きで立ち上がる。
 自分の着物の汚れを落としたそいつは、くるりとオレ達の正面に身体を向けると、ぺこりと頭を下げてきた。
「先程は、ご厚意をむげにしてしまい、申し訳ありませんでした。あのまま手を引いてもらっていたら、弟の為になりませんでしたので。私は武田信照の子、武田孝一郎と申します。これは、弟です。」
(何か、一君を思い出すな…)
 無表情にも似た顔で、折り目正しく詫びを入れてくる孝一郎の姿に、オレは思わず在りし日の仲間の事を思い出した。

 一君。斎藤一。
 左利きだったけど、剣がすっげー強い奴で…大事な仲間の一人だった。
 いっつも口数が少なくて、真面目で。融通が利かなくて。でも、根っこの部分ではちゃんと優しくて。すげー良い奴だった。
 話し方は固い武家言葉なのに、元々の声質が少し穏やかに聞こえる所為かな…話をすると、いつも何か落ち着く感じがした。
(一君は直参の子だったみたいだし、こいつ等と話し方が似てるのも、その所為かもしんないな…)
 孝一郎の話し方が懐かしくて、嬉しくて…オレはちょっとだけ、苦しいような気持ちになった。
「いや、別に気にしてねーよ。オレ、藤堂平助。こっちは、あー…よ、嫁さん。」
「あっ…つ、妻の、千鶴です。怪我がなかったみたいで、良かったね。えっと…いちたろう、君?」
「はい!たけだのぶてるの子、いちたろうです!」
「一太郎か。もう、転ぶなよ。」
「はい!」
 他人に自分達の事を紹介し慣れてねーオレ達が、ちょっと照れながら名乗ると、二人はよく似た顔でぺこりとお辞儀をする。まるで、土産物屋とかに売ってるこけし人形みてーだ。
 一太郎は、がきらしく屈託のねー顔でにかっと笑うと、「あにうえ、おなかがすきました」って正直に言った。
「家に帰って少ししたら、夕餉の刻限になる。それまで我慢しろ。」
「えぇ~。」
 孝太郎が、弟のおねだりを厳しい顔ではねつけた瞬間―――ぐぅ、って。孝一郎の腹が、本人よりも正直な「声」を上げた。しかもその「声」は、弟よりも大きかった。
「…」
「…」
「…」
(そうだよなー…稽古の帰りみてーだし、そりゃ腹も減るよな)
 オレ達の目の前で、弟を嗜めた直後に晒しちまった「恥」の上塗りに、孝太郎は真っ赤な顔で俯いて黙り込んでる。弟の一太郎は、「あにうえもすいてるの?」って、無邪気な顔で兄貴の顔を下から覗き込んだ。
(一太郎…そこは、そっとしといてやれ)
 オレが「どうするかな」って、気まずさに視線を逸らしてると、隣にいた千鶴が「よかったら、お二人でどうぞ」って、手に持ってた巾着から小さな菓子包みを孝太郎に手渡した。
「わあ!お菓子だ!」
「こ、こらっ、一太郎っ!あのっ…お心遣いはありがたいですが、み、見ず知らずの方から施しを受ける事は…!」
「さっき、お互い名乗りましたよ。ですから、「見ず知らず」なんかじゃありません。ね?一太郎君?」
「はい!ちづるおねーちゃん!」
「ですが…」
「なー、孝太郎…だっけ?遠慮なんか良いから、お前も食えよ。稽古した後で疲れてんだろ?育ち盛りなんだから、それ位食っても平気だって。」
「で、では…。あ、ありがとうございます……。」
 遠慮深げに菓子を食べる兄貴と満面の笑顔で菓子を食う弟は、すげー対照的に見えたけど。菓子を両手で持って食うその姿は、やっぱり兄弟だって思う部分があって。何だかんだ言っても、普段から仲が良い奴等なんだって事がよく分かった。
(そういや、菓子なんか持ってきてたっけ?)
 オレが小さく首を傾げると、千鶴が「さっき入ったお店で、ご主人から頂いた物なの」って、こっそり教えてくれた。


「色々とありがとうございました。そろそろ、家に帰らなければいけないので。…一太郎、お前もちゃんとご挨拶しろ。」
「ありがとうございましたっ。」
「さよなら、孝一郎君。一太郎君。」
「じゃあな。気をつけて帰れよ。」
 礼儀正しくお辞儀をした孝一郎は、無邪気に「またねー」とオレ達に手を振る一太郎の手を引いて、弟の歩幅に合わせた足取りで帰って行った。
 年の離れた兄弟二人の背中を、オレ達は見えなくなるまで黙って見送った。

-後編へ続く-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 祈り結く声

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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