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2015/08/31

笑顔に会いたい・前編-want there to be it with a smile -

幕末設定。平千。千鶴ちゃんの笑顔が見たくて頑張る平助君。


 「ちょっと遅くなっちまったかなぁ…」
そう独りごちて、オレは空を見上げた。
青く澄んでいた秋の空は、後ろ髪を引かれるみたいに青さをだんだんと薄めてて。黄金色の太陽が、周りの空を山吹色に染め始めてる。
その色彩の波間を、巣に帰る途中の鳥の群れが慌しくオレの視界を横切ってく。その群れの一番後ろで、小さな体躯の鳥が翼をはためかせながら必死についてく姿が見えた。
 ―――まるで、あいつみたいだ。
むさい男所帯の中で、男装しながらも健気に振舞ってるあいつの事を、ふと思い出した。

 雪村千鶴。ある事情のせいで、屯所内で監視体制を強いられてる、不運な女の子だ。
オレが見ても気の毒な環境だっていうのに、それでもあいつは不平不満を言わずに―――むしろ度が過ぎるくらい積極的に、オレ達に馴染もうと頑張ってる。その直向さに、つい…手を貸したくなっちまうんだ。
ふと、手の中にある鶯色の包み紙に視線を落とした。あいつの喜んだ顔を思い巡らせて、自然に顔が綻んじまう。頬の辺りが、少しだけ熱くなったような気がした。
「やばい、早く帰らねーと!」
じわじわと迫りくるような闇色の空気にはっと我に返ると、オレは慌てて屯所への道を駆け出した。


「…千鶴の奴、どこ行っちまったのかな。」
オレは深い溜息と共に、愚痴にも似た言葉を吐いた。
方々の部屋の中では、蝋燭や行灯の明かりがちらちらと揺れてる。庭先で燃やされている松明がぱきり、と小さく音を鳴らしては、静かに火の粉を舞い上がらせた。

千鶴の部屋は、真っ暗闇だった。具合が悪いのかと思って千鶴の部屋に入ったら、その姿を目撃された一君に「無断で女子の部屋へ足を踏み入れるのは、正直感心しない」と冷たい声で咎められた。
オレはただ千鶴の事が心配だっただけで、別に疚しい気持ちなんかこれっぽっちもなかったんだけど。誤解されるのも癪だったし、オレは正直に理由を話した。すると、
「そうか…千鶴は喜ぶだろうな。」
一君は、オレ達には絶対に見せねー顔で嬉しそうに小さく笑った。……何となく、別の意味で苛ついた。
いっつも、自分の感情を滅多に出さない一君だけど。そういう顔をする時、決まって一君が誰の事を考えているのかって事位、わりと鈍いオレでも察しが着くんだよね。
何でかっていうと……一君がこういう顔を見せるようになったのは、あいつが屯所に来てからだから。
ま…どうせ千鶴は、全然気付いてねーと思うけど。だって、千鶴だし?


 千鶴の部屋を出た後、オレは勝手場に向かった。もしかしたら、千鶴が手伝いに来ているかもしれねーと思ったからだ。
中を覗くと、今日の食事当番は源さんと新八っつぁんだった。
大雑把な手つきのぱっつぁんに、食べ物の事になると途端に厳しくなる源さんがくどくどと説教してる。今日が非番で助かった…たぶん、日頃の行いのおかげだよな。
「ねーねー、源さん!千鶴、来なかった?」
「おお、平助!何だよ、手伝ってくれんのかっ!?」
天の助け、とばかりに勝手に喜んだぱっつぁんは、笑顔でオレに大根と包丁を渡そうとしてくる。
「ぱっつぁん!オレ、今日非番だから!面倒くさいからって、オレに押し付けるのはやめてくれよな。自分の仕事だろー?」
片手で制するオレに、『何だその態度はっ!?』と、ぱっつぁんはぶっとい腕でオレの首を絞めてくる。入ってる!入ってるって!!
「雪村君なら来ていないが…平助、何か用事でもあるのかい?」
「えっ…」
不思議そうに問いかけてくる源さんの言葉に、オレは思わずぱっつぁんの腕を払いのけていた手を、反射的に止めちまった。
オレの態度を不審に思ったのか、二人は無言のままでオレをじっと見つめてくる。急に会話がなくなった勝手場で聞こえてくるのは、ことことと鍋の煮える音だけだ。
 …駄目だ。正直に話したら、絶っ対、揶揄われる。源さんはともかく、ぱっつぁんはやばい。絶対やばい!
「い、いや。さっきから、姿が見えねーみたいだから、さ。ここの手伝いにでも、来てんのかなーと思って。」
思考をめいっぱい張り巡らして出た言葉は、思ってたよりも自然に紡ぐ事が出来た。当番の二人も『ありうる話だ』と納得したみたいで、うんうんと頷いてる。どうやら、上手い事を誤魔化せたようだ。
 はぁ…よく頑張ったよ、オレ。
心の中で、ほっと一息ついていると。
「あぁ…あの子は、優しいからねぇ。気もよく利くし。あの子が食事当番に入ってくれるようになってから、毎日の食事が美味しく感じられるようになったよ。将来はきっと、良いお嫁さんになるだろうねぇ。」
源さんは、寂しいような嬉しいような顔で複雑そうに笑った。源さん…その好々爺みてーな顔、千鶴の親父じゃねーんだからさ。年をとると、こんな風に父性愛が出てくるもんなのか?
「ああ、だな!可愛いし、飯も美味いし、繕い物だって綺麗に出来るしな。千鶴ちゃんもこんな目に遭ってなきゃあ、引く手数多だろうにな。とっくに、どっかの家に嫁入りでもしててもおかしくねえもんなあ。」
ぱっつぁんは腕組みをしながら強く頷くと、がははと豪快に笑った。

 千鶴を軟禁してるのは、オレ達新選組だ。オレだって新選組の幹部だから、あいつの解放が無理だって事位、ちゃんと分かってる……けど。あいつにずっと不自由な生活を強制させてる張本人は、紛れもなくオレ達だ―――。
黒くてもやもやした気持ちが、オレの中で渦巻き始めた時。
「もしオレがあの子の兄貴だったら、親父よりも早くオレの方がぶち切れそうだな。『うちの妹を嫁にするだあ!?てめえ、覚悟はできてんだろうなあ!?』ってな!…平助、もしそうなったらお前、覚悟しておけよお?」
ぱっつぁんが、意味不明な言葉をいきなりオレに浴びせてきた。

 は?
千鶴が、オレの?
よ、嫁?
『嫁』という言葉に、思わず。
 頭の中で、三つ指をついてオレを見送ってくれる千鶴とか。
あったかいご飯をよそって、笑って差し出してくれる千鶴とか。
二つ枕の布団を背景に、はにかむ寝間着姿の千鶴とか―――いやいやいやっ!そうじゃねーだろっ!!
「ちょっ…と待て、何だそりゃあっ!?何でオレがっ…っていうか!千鶴は、ぱっつぁんの妹でも何でもねーじゃんかよ!!」
顔が熱い。色々と余計な事を考え過ぎて、身体まで熱いような気がする。そもそも何で『嫁』とか、そんな話になったんだっけ?頭がぐるぐる回っちまって、よく分からねーんだけど。
「…まぁ、何となくついでに言ってみただけだ。そういやさっき、大広間で左之と総司を見かけたぞ。あの子の事だから、総司に捕まって揶揄われてたりするんじゃねえかあ?」
「あぁ、総司ならありそうだねぇ…。」
新八っつぁんの恐ろしい想像に、オレの血の気が瞬時に引いた。
いつも千鶴の事を揶揄っては、苛め可愛がってる総司。今日も被害を被ってる可能性は、十二分にありえる話だった。
「それ、洒落になってねーじゃん!源さん、ぱっつぁん、ありがとな!!」
オレは勝手場を後にして、早足で大広間に向かった。

―後編へ続く―

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 笑顔に会いたい

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となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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