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2015/08/31

ジレンマ斎藤編・参 - Please tell it only to me -

幕末設定。斎千。恋仲捏造設定。共通テーマ「ジレンマシリーズ」。


結局、千鶴への土産物を買わぬまま、俺は茶屋を後にして帰路に着いていた。
 思い切って、千鶴に聞いてみたい。
だが、もう否定的な答えが返ってきたら?
二つの意識が交互に出てきては、ぐるぐると回って消えていく。そして、また浮かんでくる。また消えていく。
 …このままでは、如何。
己の自制心に自信が持てぬまま、このような揺らめく心持ちで共に居たら、勢いに身を任せて千鶴に詰問しかねない。期待しているような答えが返ってくるとは限らないのに、だ。
俺は、いつからこんなにも弱くなったのだろうか―――。
己の未熟さにほとほと呆れながら、俺は貸し衣装屋である損料屋の暖簾をくぐった。


「まいどおおきに。今後とも、ご贔屓にしとくれやす。」
貼り付けたような笑顔で微笑む店主に、「ああ」と頷いて店を出る。ふと見ると、もう町の提灯がちらちらと灯り始めていた。
借り物だった浪人風の着物からいつもの風体に戻して町を歩くと、自然と身が引き締まる思いがする。変装姿からいつもの着物に着替えた所為もあるが、やはり大小を腰に差した「二本差し」の姿で歩く故の事だろう。右側の重みに、自然と背筋が伸びる思いだった。
そうだ…俺は、己の誠を貫く為、武士として生を全うする為にここにいる。
肥後守様を始め、局長や副長が下さったご恩に報いる為、まずは己のやるべき事に心血を注ぐべきだ。
小さく心の隅に灯った恋情などで、狼狽えている暇などない―――。
決意を固め、屯所の門を潜り、幹部部屋のある方へと向かった時だった。


「土方さんっ!」
視線の先にある廊下で、慌てた様子で副長に声をかける千鶴の姿が見えた。
副長がいつもの通り眉根を寄せながら「あぁ?何だ」と振り向きざまに応対すると、千鶴は小さな肩を更に縮め、もじもじしながら視線を床に這わせている。
千鶴が何を言いたいのかを悟ったらしく、副長は小さく溜め息をついた。
「お前も、案外しつけぇな。…分かってるよ。あの事は、斎藤には秘密にしとけばいいんだろ?」
 ―――あの事…?
「ほ…本当に、斎藤さんには黙っておいて戴けますかっ!?」
千鶴は、いつにも増して真剣な眼差しで、副長を見据えて聞き返した。柔らかそうな白い頬が、ほんのりと赤くなっているように見えた。
 ―――秘密?
副長は千鶴の勢いに一瞬気圧されたようだったが、すぐに気をとり直して、苦笑しながら千鶴の頭をぽんぽんと撫でる。
「…お前が了承しねぇ限りは、言わねぇよ。武士に二言はねぇ。誰にも言わずに黙っといてやるから、安心しろ。」
 ―――誰にも言わない…!?
「ありがとうございますっ!」
千鶴は、心底ほっとした様子でぺこりとお辞儀をすると、花が綻ぶような笑顔を見せた。
何処を好かれているかも分からぬまま、今度は隠し事だと…!?
重たい何かが背中にずしり、と圧し掛かってきたかのような気がして、俺はその場から離れる事が出来なかった。


「しっかし…お前も、一応は年頃の娘だったんだな。誰もいねぇからって、人目を盗んであんな…」
副長は腕組みをしながら、千鶴の顔を盗み見るようにちらりと眺めると、口の端を上げてにやりと意味ありげに笑った。
千鶴、お前は一体何を…!?
様々な想像が俺の頭の中を駆け巡ったが、すぐに煙のようにかき消えた。
 ―――馬鹿馬鹿しい。
副長は、陰で隊士達に「鬼副長」と怖れられる程、屯所内の風紀に厳しい。そのような如何わしい行為など、副長が目撃して許す筈がない。
千鶴とてそのような女子ではない事は、この俺が一番よく知っている。
だが…それならば、千鶴が顔を赤らめて俺に隠したい事というのは、一体何なのだろうか?
「ひっ、土方さんっ!!」
千鶴は耳まで真っ赤にしながら、両手を振り上げて小さく握り拳を作り、ぽかぽかと軽く副長を殴りつけている。それを楽しそうに受け流す副長の顔は、とても優しげな表情をしていた。およそ、隊士達が見る事の出来ない表情だった。
「分かった、分かった!悪かった。だから止めねぇか、千鶴……」
楽しそうに笑う副長の視線が、ふとこちらに流れて。
俺と、目が合ってしまった。
「…斎藤。」
「えっ!?あ…さ、斎藤さん!」
千鶴は大きな瞳を見開いて俺を見たかと思うと、先ほどまで赤らめていた顔を瞬時に青くさせていった。副長も、ばつが悪そうな顔で俺から視線を逸らしながら、乱暴に頭を掻いている。
誰もその場から離れる事が出来ず、闇が迫りくる薄い夕闇の中、ただ重たい静寂だけが流れていた。

「…副長。」
この重たい空気から少しでも早く脱却したくて、俺は搾り出すように努めて冷静な声音で副長に声をかけた。
「ん…?」
「お声をかけるのが遅くなって、申し訳ございません。ただいま戻りました。報告事項があるのですが、よろしいでしょうか。」
副長は気まずそうな表情から、素早くいつもの仕事をする顔に戻った。さすがは副長だ…瞬時に公私を分けるその気構えを、俺も見習わなくてはならぬ。
「そうか。では、俺の部屋で聞こう。悪いが、ちづ―――」
「千鶴。副長の部屋へ茶を頼む。俺の分は必要ない…一人分だ。」
副長の呼びかけを遮り、俺は小さく身体を縮めて俯いている千鶴に声をかけた。
「は…はい。分かりました……。」
何か言いたげな顔で俺に返事をした千鶴をそのままにして、俺は副長の後についていく。
後ろ髪を引かれる思いがしたが、俺は新選組三番隊組長だ…仕事を優先させなければならない。俺は、恋情などで揺らめている暇などないのだから―――。
胸の中のもやもやを消し去りたくて、己に必死に言い聞かせた。それでも、黒い靄のような感情は、いつまでも俺の片隅で燻り続けていた。

―肆話へ続く―

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : ジレンマ・斎藤編

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となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
Pixiv: 4211441


※現在、WEB拍手は3作品です。
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