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2015/08/31

ジレンマ斎藤編・壱 - Please tell it only to me -

幕末設定。斎千。恋仲捏造設定。共通テーマ「ジレンマシリーズ」。



「失礼致します。」
遠慮がちな仕草で小さくお辞儀をして、千鶴が黒塗りの盆を持って大広間へ入ってきた。盆の上には、湯気が微かに経ちこもる湯飲みが並んでいる。
「近藤さん、お茶が入りました。」
「あぁ、すまん。ありがとう、雪村君。」
千鶴から湯飲みを手渡され、局長は穏やかな笑顔で応えた。
 昼餉を終えた皆の為に千鶴が食後の茶を淹れてくるのは、最早日課の一つとなっていた。千鶴は、各々の茶の好みを熟知しており、大抵はその通りに持ってきてくれる。幹部達も当然その事に気づいており、その細やかな気遣いを好ましく思っているようだった。
その証拠に、既に皆食事を終わらせているのにも関わらず、誰一人として座を外す事もなく千鶴の淹れた茶が出てくるのをのんびりと待っている。…俺も当然、その中の一人なのだが。
「土方さん…どうぞ。」
「あぁ。」
「井上さん、お茶です。」
「ありがとう、雪村君。」
副長、源さん、総司、左之、平助、新八…と、千鶴は順番に茶が入っている湯飲みを手渡していく。
「斎藤さん、どうぞ。」
最後に千鶴は、小さな手で俺に湯飲みを渡してきた。「あぁ、すまん」と礼を言って受け取ると、千鶴は「いえ」とはにかんだ。
ゆっくり口に付けると、少し濃い目の熱い茶が、ふわりと良い香りを残して喉を潤してくれる。今日の茶も、丁度良い濃さと熱さだ。
「…美味いな。」
ぽつりと独り言めいた感想を述べると、千鶴は目元を赤らめて嬉しそうに「ありがとうございます」と微笑んだ。
控えめながらも嬉しそうに笑う千鶴の姿を見ていると、もっと喜ばせてあげたいと思う。だが、生憎俺は上手い言葉などを考え付く性質ではない。気の利いた言葉も大した策も思いつかず、結局は何も言えずに、そのまま湯飲みの中の茶を飲むだけだった。
そして先程から、胡坐をかいた膝の上に頬杖をつきながら、総司が視線だけを動かしながら俺と千鶴を交互に見つめている。何かの意思を含めた、突き刺さるような強い視線。
 このまま無視するか…それとも、声をかけて詰問するべきか?
心の中で思案していると、視線の主が漸く口を開いた。
「…ねぇ、千鶴ちゃん?前から、聞きたかったんだけどさ。」
何かを企んだ、口の端を吊り上げた不敵な笑み。このような笑顔を浮かべている時の総司は、決まって碌な事を言い出さない。それはもう周知の事実だ。
千鶴も日々揶揄かわれているせいか、小さな肩をびくつかせながら総司を見た。元来、素直な気性だ。表情を強張らせてしまうのは、条件反射と言っても良いだろう。
「な、何でしょうか…?」
千鶴が上目遣いで怯えた瞳を湛えながらおずおずと聞くと、総司はにっこりと萌黄色の瞳を細めた。
「千鶴ちゃんさ。一体、一君の何処が良いの?」
総司が、とんでもない発言を口にした瞬間、大広間内の皆の表情が、ぴたりと凍り付いたように固まった。
「はい?」
千鶴は、大きな瞳をぱちぱちと瞬かせながら総司に聞き返した。質問の意味がよく分かっていない、という顔つきだ。
「だからさぁ…一君と恋仲になったからには、好いた理由とかがそれなりにあるでしょ。ねぇ…一君の何処が、そんなに良い訳?」
水をうったかのように、しん、と静まり返った広間の中で、笑顔のまま滔滔と語る総司。それに納得したのかどうかは不明だが、総司の言葉を聞き終えた後、室内にいた皆が無言でゆっくりと千鶴に視線を向けた。
千鶴は顔を真っ赤に染めたまま、まともに言葉を紡ぎ出す事も出来ずに、口をぱくぱくと微かに動かしている。どう答えるべきなのか思案するというよりも、質問された内容に困っているようだった。
「おいおい、総司…いきなり何言い出すんだよ。」
落ち着きを取り戻した左之が、呆れたような顔で横目で総司を見た。総司は子供が我が侭を言うように「えぇ?」と不満そうな声を上げた後、いつもの悪戯好きの瞳を細めて口を開いた。
「だってさぁ。平隊士達はまぁ置いておいて、千鶴ちゃんの身近にいる男っていったら、ここにいる皆でしょ?全員に、そうなる可能性があった訳じゃない。その中で、どうして因りによって一君を選んだのかなぁって、気になってさ。」
「あ!それ、オレも気になる!!」
総司の意見に、平助が腕を上げて瞬時に同意した。その隣で「まあ確かに、どうして千鶴ちゃんが俺を選んでくれなかったのかは気になるな」と新八がぶつぶつ独り言を呟いた。左之も逡巡した後、「まぁ…気にならねぇと言ったら、嘘になるな」と同意する。己の味方が増えたのを良い事に、総司はにやりと得意気に笑うと「ねぇねぇ、何処が良いの?」と、もう一度千鶴に問いかけた。千鶴は、「え、あ、ぅ…」と狼狽した顔で上手く言葉に出来ないようだった。
「総司…平助達も、いい加減にしろ。千鶴が困っている。」
千鶴に問いただそうとする奴等を咎めると、総司は「へぇ?」と意地の悪い笑みを浮かべた。
「じゃあさ、一君は気にならないの?自分の恋仲相手が、自分の何処を好いてくれてるのかって。気にならない筈、ないよねぇ?」
総司に本心を見抜かれ、俺は思わず「うっ」と言葉に詰まってしまった。
確かに、聞いてみたい気は……する。だが、このような他人がいる場で聞くような話では決してない。後で、きちんと千鶴に問い質せば良いだけの話だ。
「…俺は―――」
俺が口を開いた瞬間。
「あっあのっ…!まだ片付けが残っているので、失礼致しますね。お邪魔しましたっ!」
千鶴は、顔を真っ赤にしたまま早口でそうまくし立てると、ささっと大広間を後にした。
「あーぁ、逃げちゃった。」
事の元凶である総司は、くすくす笑いながら残念そうに呟いた。その場に居た者達は、残念そうな、ほっとしたような表情で顔を見合わせている。副長も、眉間に皺を寄せたまま無言で溜め息を吐いた。

 俺の、何処が良いのか……か。
よくよく考えてみれば、確かに気になる事案ではある。
妻子持ちである局長は除外するとしても、役者絵から抜け出したような容姿を持つ副長は、町娘から芸者まで恋慕う者が多い。左之や総司も、整った顔立ちや愛想の良さのせいか、女子達に言い寄られている姿をよく目にする。千鶴と一番年の近い平助も、あの屈託のなさで親しみを覚える者も多いだろう。
…千鶴は、何故この俺を選んでくれたのだろうか。
覚えがあるのは、剣技のみ。女子に対して、気の利いた言葉の一つも言えぬ。
色恋事に関しては、おそらく不器用にあたるであろうこの俺を、千鶴は何故―――?
いつのまにか、誰もいなくなった大広間で、一人。
手にしていた湯のみの中の茶が冷え切るまで考えてみたが、その答えは全く見出せなかった。

― 弐話へ続く ―

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : ジレンマ・斎藤編

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
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Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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