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2015/08/31

SSV・斎藤編- Faint expectation -

現代パロ。斎千。バレンタイン2011SSVシリーズ」。



「…失礼しました。」
風紀委員の日誌を当直の先生に渡し終え、俺は職員室を出た。
人気のない薄暗い廊下は、暖房のきいた職員室とは違いひどく冷えこんでいる。放課後になってから暫く経っている所為か、夕暮れ時の校舎に残っている生徒はほぼいないようだ。

 「学校内において、生徒間での菓子類の配布、交換を一切禁ずる」

今朝の全校生徒参加の朝礼で土方先生の口から公布された「バレンタイン禁止令」は、全学年に多大なる衝撃を与えた。
我が校に在籍する唯一の女子生徒、雪村千鶴の身の安全を考えた苦肉の策らしい。百人を超える男子生徒に、女子が一人という状況だ―――通常時でさえ彼女は、狼達が狙う子羊のような環境におかれている。バレンタインともなれば、それはもっと過剰になるだろう。問題が起きる前に…と先生方が憂慮されたのも頷ける。

男子たる者、たかかバレンタインの菓子類に目の色を変えるなどもっての外―――と、言いたいところだが。
昼休みに、ある意味目ざとい総司から「一君、元気ないね。やっぱり君も、健全な男なんだねぇ」と揶揄われた。情けない事にどうやら俺は、彼女からチョコレートを貰えるかもしれないと期待していたようだ。
実際このバレンタイン禁止令を喜ぶ生徒など、彼女の双子の兄である薫位だろう。終始辛辣な言動を浴びせてはいても、奴が双子の妹の事を気にかけているのは、誰もが知る事実だ。
 …帰るか。
胸に残る虚しさをどうにかしたくて、黒のロングコートを素早く着て靴を履き替え、足早に昇降口を出た。
いつの間にか、外はオレンジ色の夕暮れから薄暗闇に色を変えていた。頬にぶつかる木枯らしの冷たさに眉を顰め、正門をくぐる。


 今頃…千鶴は、どうしているだろうか。
闇色の空を見上げて、ふと彼女の顔が思い浮かんだ。
掃除をしていた時、教室の窓から小走りに学校を出る彼女の姿を見たから、もう既に家に帰っているだろう。
いきなりバレンタイン禁止令を言い渡され、更に抜き打ちの実力テストが実施されたのだ。早く帰りたいと思って当然かもしれない。
それでも、そそくさと帰ってしまった彼女の後ろ姿に、まるで避けられてしまったかのような気分になってしまった。
 …馬鹿か、俺は。
そもそも、千鶴が誰にチョコレートを渡そうと、彼女の自由だ。
ただ…それが、俺であれば良いと思っただけの事。ただ、それだけの事なのに…どうしてこうも、暗い気持ちになるのだろうか。
バスの停留所に着くと、そこには人っ子一人いなかった。ブルーのくたびれたベンチに、待ち合い場所のスペースを覆う黒ずんだ屋根が、一層寂しさを際立たせている。
時刻表を見ると、すぐにバスが来るようだった。昨日の雨で汚れたのか、泥水がこびりつくベンチには座る気にもなれず、俺は柱に寄りかかってバスが来るのをぼんやりと待つ事にした。

 「全く…一君は、真面目だねぇ。素直に、千鶴ちゃんに言えばいいじゃない。「自分にもチョコをくれ」ってさ。」
 「…バレンタインは、好きな相手にチョコレートを贈る日だろう。催促してどうする。」
 「はぁ…ホント、馬鹿がつく位に真面目だよね…。」

昼休みの時、総司に呆れられた事を思い出した。あいつ程ではないが、俺ももっと上手く言葉を紡ぐ事が出来れば、こんな風にもやもやと思い悩む事はないのかもしれない。
小さくついたため息が、白く煙って冷たい空気と共に俺の後ろへと流れていく。
俯かせていた顔を上げると、丁度バスがやってきた。今日もそれなりに混雑しているらしい。乗客がそれぞれ手にしている贈呈用の紙袋を見て、また暗い気持ちが蘇ってくる。それを振り切るように、バスの手摺に手をかけてタラップを上ろうとした時だった。

「さっ、斎藤先輩っ!」
今、俺が一番会いたかった相手の声が聞こえたような気がした。ゆっくりと、首だけを後ろに向ける。そこには、裾の広がった赤いコートを着た千鶴が、息を切らせて立っていた。
「ゆ、雪村…?」
 何故、ここにいる?
俺が、どうしてここにいるのが分かったのだろうか。むしろ、どうして俺は声をかけられたのだろうか?
呆然としている俺に、運転手から「お客さん、どうします?」と苛立った声が降ってきた。興味深げな顔で、乗客から好奇な視線が不躾に送られてくる。それから逃げるように顔を背け、「降ります」と即座にバスの手摺から手を離した。その瞬間、バスのドアが勢い良く閉まり、排気ガスを振りまいて走り去っていく。俺は漸く息を整え終わった彼女に、「如何した?」と声をかけた。
「よ、呼び止めてしまって、すみません…。」
千鶴は、申し訳なさそうに小さな肩を更に小さく縮めて俯いている。表情は見えないが、心なしか顔が赤くなっているようだった。「いや、問題ない」と答えると、彼女は上目遣いにこちらをちらりと見てまた顔を俯かせる。もじもじと所在無さ気に視線を泳がせながら、押しのごとく黙り込んでしまった。
よく見ると、千鶴は制服ではなく私服姿だった。裾の広がった、Aラインの赤いコートに、ハイネックの白いワンピース。黒いタイツに、黒のロングブーツ。揺るく横にまとめているシュシュは、いつものピンク色ではなく赤と白のツートーンカラーだ。
 …そういえば、平日に千鶴の私服姿を見るのは、初めてかもしれない。
思わず無言で眺めていると、「先輩」と声をかけられた。顔を上げた千鶴の顔は、やはり林檎のように赤い。
「あ、あの…これ、貰ってくれませんか……?」
千鶴は、手にしていた黒い紙袋をおずおずと差し出してきた。十五センチ四方の、黒い紙袋。持ち手の部分には、白いリボンが結ばれている。リボンの端が小さく揺れていて、差し出している千鶴の手が震えている所為だと、すぐに気がついた。
「バレンタイン…の、チョコレートです。どうしても、あの…今日中に、先輩だけには…渡したくて……。」
「いや…だが、今日は―――」
「土方先生から言われた規則は、「学校内において、生徒間での菓子類の配布、交換を一切禁ずる」…ですよね。今日はもう学校は終わってますし、私も制服を着ていません。ここは、もう学校の敷地の外なので、規則には当てはまらないと思うんですが…あの、駄目ですか…?」
つまり千鶴は、私服に着替えてまた学校へ戻る為に、あんなに急いで帰ったのか。俺に、チョコレートを渡す為だけに。
風紀委員である俺が、規則に違反しないようにするにはどうすれば良いのか、真面目な千鶴は必死で考えたに違いない。
思わず噴き出すように笑うと、千鶴は耳まで赤くさせて泣きそうな顔で俺を見つめてくる。まるで、捨てられた子犬のような眼差しだった。
「すまん。嬉しくて、つい…」
「え?」
「雪村が、わざわざそこまでしてくれたのだからな…受け取らない訳にはいかないだろう。ありがとう。」
紙袋を受け取ると、千鶴は涙で瞳を潤ませながらにこりと儚げに微笑んだ。胸の奥が、どきり、と高鳴る。こうも無邪気に微笑まれると、少々心臓に悪いのだが。

「そ、それでは、あの…帰りますね。」
「では、家まで送ろう。女の一人歩きは、危ないからな。」
「い、いえっ…あの、悪いですからっ…!」
千鶴は、赤い顔で首を横に振りながら、両手をパタパタと振って固辞した。
俺は「千鶴」と声をかけて、その片手をそっと掴んだ。千鶴の大きな瞳が、更に大きく見開かされる。彼女にそう呼びかけたのは…おそらく、初めての事だったと思う。
「そもそもこれは、俺の為にしてくれた事なのだろう?それなら、お前を家まで送るのは…俺の役目だ。」
「せ、先輩…。」
「拒否の言葉は、一切聞かない。では、行こう。」
千鶴の手をとったまま、俺は歩き出した。手を引かれて最初はぐらりと体勢を崩したものの、千鶴は素直に俺の隣で歩き始めた。
送る途中、恥ずかしそうに顔を赤らめる千鶴から「あの、手を…」と遠慮がちに手を放す事を頼まれたが、俺は聞こえないふりをした。その返事に、俺が手を繋ぐ力に少し力を込めて無言で「拒否」の意を表すと、千鶴は大きな瞳でこちらをじっと見つめてから嬉しそうにはにかんだ。

俺の右手には、千鶴から貰ったチョコレート。左手には、千鶴の小さな手。折角のバレンタインに貰った物を、自分から手放す気など起こる訳がない。
両手の幸せは、俺達が千鶴の家に着くまでずっと収まったままだった。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は公式サイトで「クリスマス禁止」というお話があったので、「バレンタインも禁止なんじゃないの!?」と思ったのが、「SSV」を作ったきっかけです(当時はSSLゲーム化の話すらありませんでした)。

一さんは風紀委員なので、彼は確実に動けない立場なのですごく悩みました…;
そうなると千鶴ちゃんに動いてもらうしかない訳ですが、彼女も真面目さんなので違反行為になるような事はしなさそうだなぁ、と……;
という訳で、一旦家に帰って私服に着替えて「プライベートで学校の敷地外だからOK!」という荒技を繰り出してもらいました;
自分で書いておきながら、相当無茶だったと思います…

サブタイトル「Faint expectation」は、「仄かな期待」という意味です。
内心は、一さんも期待してましたからねw沖田さんにはバレてましたけどw

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : SSV バレンタイン2011

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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