FC2ブログ

--/--/--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2015/08/30

負けないから。- I'll never let anyone take you -

幕末設定。平千沖。「対決シリーズ・沖田VS平助」平助編。




まだ梅雨が始まるには早い、皐月の半ば。
「―――以上!報告、終わりっ。」
オレは土方さんの部屋で仕事の報告をし終えた。

数日前の御用改めの時に、オレ達は不逞浪士を一人逃がしちまってて。そいつによく似た男を見つけた観察方の島田君が、その男が本人かどうかを調べる為に連日張り込んでる。その中間報告だった。
「…そうか。ご苦労だったな。」
土方さんは筆の動きを止めると、文机に乗せた書状から目の前にある丸い障子窓へと視線を移した。オレもそれに習って小さな窓の外を見ると、真っ黒い雲が空を覆いつくしていて、今にも雨が降ってきそうだった。
 昼間は、あんなに明るかったのになー…。
オレが心の中で昼間の青空を思い出していると、艶のある低い声で「平助!」と呼ばれた。
「えっ?あ、何っ!?」
オレが慌てて返事をすると、土方さんは眉間に皺を寄せてこっちを睨み付けてきた。「俺の話を聞いてなかったようだな」という表情だ―――ごめん、土方さん。全然聞いてなかった。
「…もう一度言う。今、千鶴を町へ使いに出している。総司の野郎を護衛に付けているからそっちは問題ねぇだろうが、生憎の空模様だ。仕事で疲れているところを悪いが、傘を持って迎えに行ってやってくれ。千鶴は、新撰組預りの身だからな。何か問題があっちゃ困る。総司も、ああ見えて一番隊の組長だ。風邪でもひいて仕事を疎かにされちゃ、隊士達に示しがつかねぇ。頼んだぞ。」
「分かった。ちょっと、雲行き怪しいもんな。これからすぐ行ってくる!」
オレは土方さんにぺこりとお辞儀をすると、すくっと立ち上がった。土方さんは役者みたいに綺麗な顔で口元をちょっとだけ綻ばせると、またきりっと元の表情に戻して、文机へと視線を落とした。


 …ほんと、素直じゃねーよな。
普通に「二人が雨に打たれたら困るだろうし、何より心配だから、迎えに行ってやれ」って言えば良いのに。
まーあの土方さんが、そんな素直な頼み方をするとは到底思えねーけど。
オレが三本の番傘を肩に乗せながら素直に頼み事をする土方さんを想像して一人で笑っていると、真っ黒い空から大粒の雫がぱらぱらと落ちてきた。雨はどんどん酷くなっていって、獣がうなり声をあげたような雷鳴が聞こえてくる。
「やべっ…降ってきちまった!」
オレは三本の傘のうちの一つを手にとって差すと、あとの二本を脇に抱えて二人を探す事にした。

 あいつ―――千鶴が、屯所の雑務を手伝うようになってから、随分経ったと思う。
出会った時の事を思い出すと、「女の子なのに可哀想な事をしちまったな」と、今でもちょっと後悔する。
確かに、あいつがオレ達新選組にとって見られたら不味いものを見ちまった所為だから、仕方がなかったと言えばそうなんだろーけど。それでもやっぱり、正直あんまり気分が良いもんじゃねーし。
男装を強いられて窮屈な生活を送らされてるのに、健気に笑いかけてくるあいつの事を考えると…胸の中がざわざわする。楽しそうに笑ってる顔を見ると、オレも嬉しくなる。あいつが泣いてると……ずきりと胸が痛んで、「これ以上泣かせたくない」って、思う。
 たぶん…オレは、あいつの事が好きなんだと思う。
このまま、誰よりも近くにいられたら良いのに。
気安く名前を呼び合うだけの仲じゃ、全然足りねーし。あいつを守る役目も、あいつに触れられる役目も、オレだったら…って思う。
結局オレは、あいつの事を独り占めしたいのかもしれない。
オレ以外の誰にも、譲りたくない―――。
雨が絶え間なく降る中、傘の柄をぎゅっと握り返したオレが、突き当たりの角を曲がろうとした時だった。


 …あれ、は―――。
格子窓の家の軒下で、オレは見知った二つの人影を見つけた。
突然降りだした日暮れ時の強い雨の所為で、外に出てる人影は全くなかった。オレの視界に映る人影も、軒下で雨宿りをする背の高い若い男と小柄な少年風情の二人―――総司と千鶴だけだ。
激しく降り注ぐ雨音と、雨が傘に叩きつけられる音の所為で、二人がどんな話をしてるのか聞き取る事が全然出来ない。髪も着物も濡れてる二人の姿から、雨から必死に逃れてきたんだなって事だけはよく分かった。
二人が雨宿りをしている軒下は、離れて肩を並べるにはちょっと狭いみたいだった。総司と距離を取ろうとして後退った瞬間、千鶴は背中に雨水の雫を受けちまったらしい。反射的に小さく飛び上がった千鶴を見て総司は楽しそうに笑うと、千鶴の小さな頭に手を置いて、すいっと自然に自分へと引き寄せた。
千鶴の顔の前に暖簾みたいに自分の着物の袂をかけて、風に乗ってぶつかってくる雨の粒から千鶴を守ってやる総司の顔は、いつもの何か企んでいそうな顔じゃなくて。たぶん、俺達には永遠に向けられそうもないような、優しい顔だった。
総司は、真っ赤な顔をして俯きながら縮こまっている千鶴をじっと眺めていたかと思うと、後れ毛が張り付く白いうなじへと、顔を寄せてく。
 …何やってんだよ、あいつっ……!
思わず、ぎりっと唇を噛み締めて睨み付ける。すると、気配に聡い総司はオレの存在に気付いたらしく、目線だけをこっちに向けてきた。
 人を値踏みするような、挑戦的な瞳。その奥に、刺すような暗く冷たい光が差してる。完全にオレを敵視してる瞳だ。
総司は、千鶴にふわりと優しげな顔を向けて一言二言、話しかけた。千鶴は頬を薄い桃色に染めて、ぱあっと花が咲くように微笑みかける。
ひどい雨模様の中、狭い軒下で仲が良さそうに笑う二人は、まるで隠れて逢引をしている恋仲みたいに見えた。
 君には、渡さないよ―――。
ちらりとこっちに視線だけ向けて、ニヤリと楽しそうに笑った総司の顔は、そんな台詞が似合いそうだった。
 …オレだって、千鶴の事をちゃんと想ってるのに。
総司なんかに、絶対負けたくねぇ……!!
オレが脇に抱えてた傘を持ち直した瞬間、オレの存在に漸く気がついた千鶴が「あれっ…平助君?」と声をかけてきた。
「…あ、あぁ。土方さんに言われて、迎えに来た。」
オレはどんな顔をして良いのか分からないまま、大きな水溜りを避けながら二人へと近づいた。千鶴は「ありがとう」と笑って傘を受け取る。総司とのやり取りをオレがずっと見てたなんて、考えもつかねーって顔だ。
「…ほらよ。」
「…悪いね、平助君。」
思わずぶっきらぼうな態度で、総司に傘を渡す。総司の野郎は何食わぬ顔で傘を受け取ると、「じゃあ、さっさと帰ろうか」といつもの調子で笑いやがった。


「ふえっくし!」と、何度目かもよく分からねーオレのくしゃみが、廊下に響き渡った。
 風邪でもひいちまったかな…?
縁側に座って、オレが真っ暗な庭をぼんやりと眺めながら鼻の下をこすってると、「平助君!」と横から呼びかけられた。くるりと顔を向けると、土方さんの部屋から帰ってきた千鶴が、細い眉をきっと吊り上げてじっとオレを見下ろしてる。…たぶん、怒ってるつもりなんだと思う。
「な、何だよ?」
いつもと違って、無言の圧力がかかってる千鶴の真面目な顔に思わずたじろぎながら問いかけると、千鶴は眉を吊り上げたまま「髪!」と短く言葉を切った。
「…はぁ?」
意味が分からずにオレが間の抜けた声を上げると、千鶴は手に持ってた手拭を広げてオレのすぐ背後にすとんと屈んだ。
「お、おい、千鶴…?」
驚いて振り向こうとするオレに、千鶴は「動いちゃ駄目!」とまた短く声を上げると、オレの後ろで何やらもぞもぞし始めた。何となく居心地が悪い。
「もう…平助君、ちゃんと髪を拭いていないでしょう?こんなに濡れたままにしてたら、風邪ひいちゃうよ。ちゃんと乾かさないと。」
背中越しに聞こえる、がきを叱るような優しい言い方。衣擦れの音と千鶴から言われた言葉で、漸くオレは千鶴が雨に濡れたオレの髪を拭いてくれてる事に気付いた。
「平助君の髪って、すごく長いよね。手入れとか大変そう。」
「い、いや別に…そうでもねーよ。」
「そうなんだ?ふふ…ちょっと柔らかいね。櫛で梳きやすそう。」
するすると髪に触れながら、手拭で優しく拭う音が微かに聞こえる。
 何か…これって、ちょっと……。
嫁さんに甲斐甲斐しく世話をされてるような気分になっちまって、照れ臭くてたまらなかった。でも、ついさっき「動いちゃ駄目!」と怒られた手前、オレはどうする事も出来ずに身体を固まらせる。その場で借りてきた猫ように静かになる以外、オレに出来る事なんてなかった。

 千鶴が「勝手場を手伝いに行くから」と立ち去った後。縁側で一人になったオレに、今度は足音を忍ばせながら総司が近づいてきた。
「あ、平助。さっきはありがとう。あのままずっと千鶴ちゃんと二人で雨宿りしていたら、門限を破って切腹になっちゃうところだったよ。」
感謝の言葉を向けられたけど、目は全然笑ってなかった。「折角のところを、よくも邪魔してくれたね」―――目が、そう言っていた。あのまま放っておいたら、たぶん総司は千鶴のうなじに口付けでもしてたんじゃねーかと思う。…想像したら、無性に腹が立った。
「…総司。」
オレは真っ暗な庭から不敵な笑みを浮かべてる総司をじろりと睨み付けると、くるりと身体を真正面に向けた。
「お前…千鶴の事、どう思ってんだよ?」
総司は一瞬だけ瞠目したかと思うと、小さく息をついてくすり、と笑った。
「本当に、君は直球だよね。ある意味、尊敬するよ。」
総司は、自分の内面を表には出さねー奴だ。感情を顔に出す時があるとすれば、近藤さんの前でだけ。仲間であるオレ達には飄々とした態度をとってて、いつも掴み所がない。でもこの質問だけは、どうしても答えてもらわねーと、オレの気が済まなかった。
「…はぐらかすなよ。ちゃんと答え―――」
「そういう君は、どうなのさ?他人に質問しておいて、自分の本音は明かさない訳?それって、随分狡いと思うけど。」
 …確かに。
でも、そういう事っていちいち千鶴じゃねー奴に話すもんなのか?
ん…あれ?ちょっと待て。
そもそも、そういう事を総司に聞いてるのって、オレじゃん!
正々堂々と―――とか思ってたけど、考えてみればちょっと卑怯だよな……。
意を決して、オレが自分の気持ちを打ち明けようとした時だった。
「あぁ、別に言わなくても分かってるから。君の気持ちなんて、とっくに気が付いているし。気が付いていないのなんて、どうせ新八さんと本人位なんじゃない?まぁ…わざわざ馬鹿正直に僕に宣言したいなら、別に構わないけど?」
総司は楽しそうに小さくくつくつと笑うと、腕を組み返しながら「…で?」と話を先に進めるようにオレを促しやがった。今までの言い方は、絶対わざとだ。
「…お前、本当に性格悪いよな。」
オレは、心の中で「私闘はご法度」と念仏を唱えるように何度も繰り返しながら、握り締めている拳を総司に振り上げないように、必死で我慢した。総司はするりと左右に視線を這わせたかと思うと、じっとオレの顔を見据えてきた。道場で稽古をしてる時によく見る…気性の荒い虎みたいな、あの獰猛な瞳だった。
「悪いんだけどさ。僕も、すごく気に入っているんだよね。君に譲る気なんて、さらさらないよ。」
いつもの笑顔のままなのに……総司の声音は、今まで聞いた事もないような重たさを持っていた。
 こいつ―――本気…だ。
オレは珍しく本音をぶつけてきやがった目の前の恋敵を睨み付けると、負けじと勢い良く叫んだ。
「お、オレだって!お前に譲る気なんかねーよ!!」
「…」
「…」
オレ達は互いを睨みつけたまま、一言も発する事なく黙り込んだ。さっきまでしとしとと降ってた雨音は次第にぽつ、ぽつ、と小さくなっていって、その短い銀糸は闇夜に溶けてく。真っ黒い静寂の中、雨で冷えた微風がオレと総司の間を緩やかに通り抜けていった。
「…言っとくけど!オレ、お前には絶対負けねーからな。」
「そう?じゃあ、僕も頑張る事にするよ。元々勝負事には強い方だけど、君には負けたくないしね。」
オレ達は互いに宣戦布告を投げつけると、ふいっとすれ違って一度も後ろを振り向かなかった。

 誰にも、あいつを譲ったりなんかしない。

そもそもそんな事が出来るんなら、最初から好きになんかなっちゃいねーし。

 ―――あいつにだけは、絶対負けねーからな……!!


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、「あからさまに火花をバチバチ散らす!」という事がテーマのお話です。

原作で平助君は千鶴ちゃんをよく心配しているようなイメージがあったので、「出会った頃に無体をしてしまった」「屯所で窮屈な生活を強いている」という事について申し訳なく思っている…という気持ちをつけました。
雨宿りをしている二人を見た彼は、声をかけなかったのではなく、目の当たりにしている二人の秘密めいた雰囲気に飲まれちゃって声をかけられなかったんです。
沖田さんはそれに気が付いていて、平助君に向かって悠然と笑うという…さすがドS(笑)。
こう書くと沖田さんに分があるような感じですが、千鶴ちゃんはどちらも選んでいません。完全に50/50です。
千鶴ちゃんは、沖田さんに「髪を拭いてくれる?」と頼まれても回避してしまいますが、平助君が相手となると、自分から率先して近づいていきます。
今回のお話は出来るだけ「真逆」を象徴させたいと思い、「歩み寄る相手(平助君)」と「歩み寄られる相手(沖田さん)」という正反対の位置づけにしてみました。
鈍い彼女に、自分を意識させて最後に手に入れる事が出来たのは、果たしてどっちなのか?そこは、読み手の皆様にお任せ致します。
タイトルの「負けないから。」は、サブタイトルの「I'll never let anyone take you(誰にも奪わせない)」を強調させるために、そのままの言葉でつけてみました。
よろしければ、同じ時間軸の沖田さん視点「本気だよ」もご覧ください。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 対決

<< SSV・斎藤編- Faint expectation - 雨上がりの行方・斎藤編- Whose victory is it? - >>

コメント

コメントの投稿

URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 

 BLOG TOP 

プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
Pixiv: 4211441


※現在、WEB拍手は3作品です。
龍鈴(薄桜鬼)/原千(薄桜鬼)/
薬研&光忠(刀剣乱舞)

カテゴリー

シリーズ(完結済)

薄桜鬼。2話~の作品。完結済。
◆ジレンマシリーズ
沖田編 1234
斎藤編 123456
平助編 1234
原田編 123
土方編 123456

◆対決シリーズ
沖田VS平助 沖田編平助編
原田VS土方 原田編土方編

◆片思い対決(色)
沖田VS斎藤 沖田編斎藤編

◆SSV(バレンタイン)
沖田編
斎藤編後日談
平助編後日談後日談2
原田編
土方編
山崎編(移行中)

◆雨上がりの行方(沖千斎)
沖田編斎藤編

◆翻弄しないでくれる?(沖千)
本編番外編

◆幸福を得た獣(土千)
本編番外編

◆果てなき心(原千)
前編後編

◆笑顔に会いたい(平千)
前編後編

◆祈り結く声(平千)
前編後編

◆目覚めた想い(平千)
1234

メールフォーム


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。