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2015/08/30

雨上がりの行方・沖田編- Whose victory is it? -

幕末設定。沖千斎。「三角関係祭」のお礼SS。



しとしと、しとしと…って。
 六月も半ばになった京では、幾日も雨が降り続いていた。
 梅雨の長雨からくる、湿気の所為かな?
 僕も皆も仕事の時はともかく、いつまでも止まない雨音を聞きながらの稽古は、今一つ身が入らなくて覇気が足りない気がする。
 江戸よりもずっと蒸した、内に熱がこもったような空気。
 しつこく身体を取り巻いてくる湿気は、何もしていないのに関わらず、着物越しからじんわりと汗を滲ませてくる。
 こんな鬱陶しさを払うには…楽しい事をしなくちゃ、始まらないよね。
(あの子は、部屋にいるかな?)
 湿気でだらけ切っている平隊士達の顔を視線の端にとらえながら、僕は彼等がいる部屋とは真反対の方向へくるりと身体を向けた。
(雨が降ってるから、洗濯の手伝いはしてないだろうし…昼餉の当番の手伝いをするにはまだ早いから、きっと部屋だよね)
 天から降り注ぐ大粒の雨は、一向に止む気配はない。
 太陽を隠している黒々とした雲は低く垂れ下がるように広がっている。夜になっても、止むかどうかすら怪しい位だ。
 井戸の近くを廊下を通ると、屋根の下に小さな白い何かが、雨風にさらされて小さく揺れているのが見えた。
 白くて丸い頭に、着物の裾を翻すみたいにふわりと揺れる身体。白い手拭いで作られた子供だましの、晴れ乞いのお呪い―――日和坊主(てるてる坊主)だ。
(…あの子が作ったんだよね、これ)
 きっと、ここ数日の雨模様を気にしたんだと思う。
 いつもみたいに、さんさんと晴れた日に、皆の洗濯をしてあげたくて。
 皆が、元気に外へ行けるように…そんな願いをこめて。
「…あの子らしいよね。」
 僕は小さな日和坊主を指先でつん、と押して大きくゆらりと揺らすと、軽い足取りで目的の部屋へ向かった。

 「あの子」とは、千鶴ちゃんの事だ。
 彼女はちょっとした事情があって、新選組の屯所で「客人」として扱われている「居候」。
 本当は女の子なんだけど、平隊士には「土方さんのお小姓をしている男の子」って事になっている。
 もしあの子の素性が平隊士達にばれちゃったら、狼しかいないこの屯所であの子がどんな目に遭うかなんて―――あぁ…あんまり愉しくない想像だから、ちょっとやめておこうかな。
 あの子にそういう事をして良いのは、僕だけだって…決まっているしね?
「…これを見たら、どんな顔するかな。」
 僕は、袂の中から小さな巾着を取り出すと、頬を緩めて独りごちた。
 明るい薄い桃色の地に、白や赤の花模様が描かれた小さな巾着。僕はそれを、まるでお手玉みたいに放り投げては手に取る。また投げては、手に取った。
 中身は、昨日巡察の帰りに買った金平糖。
 たまには、お土産でも買って行ってあげようかなって思って、今人気のお菓子屋さんに寄って買ってきたものだ。
 残念ながら昨日は、土方さんに呼ばれていたみたいで、結局会えず仕舞いだった。
(本当…人使いが荒いよね、あの鬼副長さんも)
 あの人の所為で、昨日あの子と顔を会わせられなかった事にふつふつと怒りが沸いてきたけれど、幸い今日の僕は非番だから、誰に文句を言われる筋合いなんてない。
(まぁ、昨日の分と一緒に、今日は一日中いっぱい遊んであげれば良いよね)
 自分の考えを決定づけた僕が、巾着をまた袂の中に戻しながら廊下の角を曲がって、千鶴ちゃんの部屋の前に立とうとした時だった。
「げ。」
「…」
 あんまり嬉しくない―――偶然。
 千鶴ちゃんの部屋の前で僕は、出来れば会いたくない相手と…ばったり出くわしてしまった。



(…何で君が、こんなところにいるのさ)
 黒々とした気持ちが湧きあがる中、僕は内心舌打ちをした。
 どうやら目の前にいる相手も僕と同じ気持ちみたいで、気まずそうに左右に視線を泳がせては、ちらりと僕の顔を盗み見ている。
 真っ黒い着物に、白い襟巻き姿。
 この梅雨の時期に「暑くないの?」と問いたくなるけれど、どうせ彼の事だから「心頭滅却すれば…」とか何とか面倒臭い事を言ってくるに決まってる。
 君の精神論じゃなくて、見ているこっちが暑くなるんだってば。
(まぁ僕も、一年中襟元を寛げる癖は抜けないから、お互い様かもしれないけどね)
 僕は、無表情のままでこっちを探るように見つめてくる相手に「やぁ、一君」と声をかけた。
「こんなところで、何してるのさ?」
「あんたこそ、何故この場にいる。ここは、千鶴の部屋の前だが。」
(ちょっと…今は、僕が君に質問している時でしょ?)
(僕への返事を、質問にしてつき返してこないでくれないかな?)
 怪訝な顔をしている一君にちょっと苛つきを覚えながら、僕は腕を組みながら事もなげに答えた。
「千鶴ちゃんに、ちょっと用事があってね。一君こそ、あの子に何の用?仕事で忙しい癖に、こんなところで油を売ってても良い訳?」
「…っ…俺も、大事な用がある。」
 障子戸に視線を向けてから、僕がにっこりと笑みを浮かべて聞くと、一君は明らかに動揺した様子で視線を泳がせながらも、負けじと言い返してきた。
(ふぅん…そういう態度をとるんだ)
 僕は瞳を細めながら一君をじっと見つめると、わざとそれは興味深いねって空気を醸し出した言い方をして、にやりと口角を上げてやった。
 一君は少し癇に障ったみたいで、青みがかった瞳をきゅっと冷たいものにして、僕をじろりと睨みつけてくる。
「…何が言いたい。」
「別に?僕は非番だから良いけどさ、君は仕事があるんでしょ?それなのに、わざわざこの部屋にまで来る大事な用事って何なのかなぁって、そう思っただけだよ。」
「…総司こそ、何故わざわざ己の部屋からここまで来た。非番であるのならば―――」
 一君が、眉根を寄せながら僕に文句を言ってこようとした時だった。
 僕の左側で、ぴっちりと閉まっていた筈の障子戸が、一気にすぱーん!と勢い良く開いた音がして。

「てめぇら!人の部屋の前で、ごちゃごちゃ喧しいぞ!!ちったぁ静かにしやがれ!!」

 この部屋にいる筈のない…僕の大嫌いな人―――土方さんが、無駄に端正な顔を歪めて僕達の間に割って入りながら、無駄に大きな声で怒鳴りつけてきた。
(ちょっと…何でこんなところに、この人がいる訳)
「ふ、副長っ!?」
「うわー…今絶対に会いたくない人、二番手。」
「…良い態度じゃねぇか、あぁ?お前等、こんなところで何してやがる。」
 僕と一君の態度に、土方さんは眉を吊り上げたままじろりと睨んでくる。その後ろで、困ったような顔で僕と一君の顔を交互に見ている千鶴ちゃんの姿があった。
「…失礼致しました。副長が、千鶴の部屋にいるとは思いませんでしたので。」
「別に、土方さんには関係ないじゃないですか。そもそも貴方こそ、どうしてここにいるんです?まさか、昼間っから千鶴ちゃんを口説きにでも来たんですか?…それなら僕にも、相応の考えがありますけど。」
 僕が嫌味たっぷりに聞くと、土方さんと千鶴ちゃんが同時に「そんな訳ない」と大きく否定した。
(…ちょっと、何でそこで、二人で同時に返事してくるのさ)
 ただの偶然だって事はちゃんと分かっているけれど、それでも…二人の気の合った動作にすら、じりじりと苛立ちが募ってくる。
 僕は、昨日も、一昨日も―――隊務だから仕方がないって分かってるけど―――その前だって、千鶴ちゃんが忙しそうにしていて、話す事だって碌に出来なかった。
(折角、久しぶりにゆっくり会って遊んであげようと思ってたのに)
 邪魔な人が一君だけじゃなくて、よりによって土方さんも…だなんてさ。
(一体、何の罰な訳?)
「悪いがな、こっちも急ぎの仕事だ。ちっとばかしだが、こいつを借りるぞ。すまねぇが千鶴、飯は俺の部屋でとってくれ。ちっとでも、時間が惜しいんでな。頼めるか?」
「はい、分かりました。」
 僕がむすっと不機嫌な顔を露わにしていると、千鶴ちゃんは申し訳なさそうな顔をしながら僕と一君に「お二人共、すみません」と言って、ぺこりと身体を曲げて謝ってきた。
 高く結い上げた髪を子犬の尻尾みたいに揺らして、千鶴ちゃんは眉をハの字にして、しゅんとした顔で視線を落としている。
(…仕方がないよね、仕事なんだから)
(僕だって仕事の時は、この子の事なんて考えていられないんだし)
(この子よりも僕の方が年上なんだから、少しは余裕をもって「大人」にならないとね)
 僕が、沈んだ心を無理やり浮かび上がらせて、「よし」と口を開こうとした時だった。
「千鶴は、副長の小姓です。俺の方は大した物ではありませぬ故、気になさらないで下さい。…千鶴。お前も、そのような顔をするな。俺は、気になどしてはいない。副長の仕事の手伝いならば、重要な事だろう。しっかり励め。」
「はい!ありがとうございます!」
 一君は、僕の出鼻を見事に挫かせると同時に、土方さんと千鶴ちゃんの両方に気遣いのある言葉をかけて微かに微笑んだ。
(…苛つくなぁ)
 こうなってくると、「恋敵の二番煎じ」なんて事は、間違ってもしたいなんて思わない。
 僕は軽く溜息をつくと、いつも通りの笑みを作った。
「僕も、気になんかしていませんよ。非番で暇だったから、遊び相手を探してただけですしね。それに…千鶴ちゃんは、一君の物でもなければ、僕の物でもなくて、土方さんのお小姓さんですから。仕事だっていうのなら、仕方ないでしょ。」
 僕が、ちくりと棘のある言葉を口にすると、一君はぴくりと肩をいからせた。
 千鶴ちゃんを横からさらっていく土方さんへの「嫌味」と、一君への「牽制」はきちんと本人に通じたみたいで、二人は渋面で僕の方を見ている。
 千鶴ちゃんだけが何も知らない顔で「沖田さん、何か御用があったんですよね?ごめんなさい」と可愛らしく謝ってきた。
(本当、素直で可愛いよね)
「別に良いよ。その代わり、今度埋め合わせをしてくれない?二人で、一緒にお菓子でも食べに行こうか。」
「えっ…」
 千鶴ちゃんの頬がぽっと薄い桃色に染まるのを眺めながら、僕は千鶴ちゃんにそっと近づいて「…駄目?」と、わざと声を低くして問いかけてやる。
 僕との距離の近さに驚いた千鶴ちゃんは、さっと後ろに身体を引きながら赤い顔でふるふると首を振ると、「いえっ、分かりました!」と言って僕に頷いた。
 僕がにやりと笑いながら「…何、一君?」と煽るように問いかけると、一君は忌々しげに「いや」と短く言葉を切って視線を逸らした。
(…これで良し、と)
(君だって千鶴ちゃんに良い恰好したんだから、御相子だよね?)
 一君は否定した言葉を口にした癖に、まるで射抜くような鋭い瞳で僕の顔を見つめている。
(…その顔)
(僕にやきもち焼いているってばれてるよ、一君?)
「あーもう!!てめぇら、人の部屋の前で面倒くせぇ空気を作ってんじゃねぇ!俺ぁな、忙しいんだ!!てめぇらも特に用事がないってんなら、さっさと散れ!!行くぞ、千鶴!」
「あ、はいっ!」
 土方さんは、堪忍袋の緒が切れたみたいで僕達に一喝すると、どかどかと乱暴な足音を立てて自分の部屋へと戻っていった。
 千鶴ちゃんは僕達に向かって「失礼しますね」と小さくお辞儀をすると、何となくだけど―――少しほっとしたみたいな―――晴れやかな笑顔で、土方さんの後をついていってしまった。


「…」
「…」
 千鶴ちゃんの部屋の前に残されたのは、僕と一君の二人だけだ。
 お目当ての人物に去られてしまった僕達は、妙に居心地の悪い空気の中…互いの様子をちらちらと盗み見てからふいっと顔を背け合った。
「…悪いけど、譲らないからね。」
「…それは、俺の台詞だ。お前になど、負ける心算はない。」
 肩越しに、冷たい青の瞳で睨みつけてくる一君の無表情の顔に「本気」の色を見つけて、僕は小さくくすりと笑って両手を頭の後ろに組んだ。
「あーぁ…剣の事でも、千鶴ちゃんの事でも負けられない相手って…何かちょっと、皮肉だよね。」
 小さくなっていく足音を背中越しに聞きながら、僕はぼそりと呟いた。
 空を見上げると、ずっと降っていた雨はいつのまにか小雨になってきている。
 黒々していた雲は、墨を水で溶かしたような灰色に変わってきていた。それでもまだ空気は重たくて、風はじっとりと生温く感じる。
 明日は、やっと晴れになるのかもしれない。それとも曇りなのか…もしかしたら、また雨に戻っちゃうのかも。
(この天気と…同じだよね)
 僕は、着物の上から袂の中身にそっと触れると、小さく口角を上げながら軽い足取りで自分の部屋へと戻っていった。

 彼との「勝負」は、まだ終わってなんかいない。

 勿論僕も―――勝ちを譲る気なんて、絶対にないけどね?


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、企画「Triangular-Relations」にお礼SSとして公開したものです。
テーマは、「三角関係」で、千鶴ちゃんを巡る沖田さんと斎藤さんの大人げない攻防―――もうかなりポピュラーな感じですね。
二次創作としては出尽くしているかも…と思いたくなる程人気の「おきちづさい」なので、どんなネタにしようか、かなり悩みました。

元々「解決しない三角関係でいこう」という事は決めておいたので、「よし、千鶴ちゃんへの想いは全開で、上手くいかない事にヤキモキしながらも一さんに嫉妬する沖田さんでいこう!」という、謎のシチュが降臨w
そんな訳で、土方さーん!出番です!!w
土方さんから「仕事」だと言われ、千鶴ちゃんもやる気に満ちていたら、沖田さんも一さんも手を出せないだろうって事で、土方さんに横からかっさらう役になってもらいました。
このお話の後はおそらく、沖田さんはいつも以上の嫌がらせを土方さんにやったんだろうなぁとか、思ったりw

タイトルの「雨上がりの行方」ですが、最後の「この天気のように、想いの終着地点はわからない」という意味をこめています。
この後の展開につきましては、読み手の皆様にお任せしますw

サブタイトルの「Whose victory is it?」は、「勝敗は誰のもの?」です。
「横から千鶴ちゃんを奪って行った土方さん」なのか、「千鶴ちゃんの心をほぐしてやる気にさせた斎藤さん」なのか、「千鶴ちゃんとデートの約束を取り付けた沖田さん」なのか。
見方によって、「勝者」が変わるだろうなーと思って、このサブタイトルにしましたw
同時間軸の斎藤視点「雨上がりの行方・斎藤編」もよろしければご覧下さい。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 企画 三つ巴 雨上がりの行方

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
龍鈴(薄桜鬼)/原千(薄桜鬼)/
薬研&光忠(刀剣乱舞)

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薄桜鬼。2話~の作品。完結済。
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