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2015/08/30

本気だよ。- I'll never let anyone take you -

幕末設定。沖千平。「対決シリーズ・沖田VS平助」沖田編。



 桜も散り、葉桜がきらきらと木漏れ日を作る皐月の半ば。
昼間は眩しい位に明るかった空は、日が暮れるに連れて、まるで子供が紙に薄墨で悪戯描きでもしたみたいに白と灰色の斑模様で覆いつくされていた。

「少し、遅くなってしまいましたね。」
人一人分位の間を開けて、僕の斜め左後ろでちょこちょこと歩く千鶴ちゃんが、不安げな声音で呟くように言った。
「さっきの商家で、ちょっと手間取っちゃったからね。まぁ君はただの居候の身だし、僕も今日は非番で暇だったし。そもそも土方さんに頼まれて外出しているんだから、少し位遅れても大して問題はないでしょ。」
肩越しに振り向きながら軽口を叩くと、「居候」という言葉がぐさりと刺さったのか、彼女は小さな肩をきゅっと縮めた。
 …泣いちゃうかな?
眉をハの字に下げて瞳を伏せながらも、千鶴ちゃんは泣くまいと唇を噛み締めて必死に堪えている。そしてすぐに何らかの決意をしたらしく、千鶴ちゃんは瞳に強い光を宿してぐいっと顔を上げた。
 …!
その瞬間、足を止めて千鶴ちゃんの顔を眺めていた僕と視線がぶつかる。白い頬が仄かに赤く染まるのを確認すると、僕は上機嫌でくるりと前を向いてまた歩き出した。

 屯所へ来たばかり頃は、常に肩を縮めて恐怖にうち震えるだけの子供だったのに。
色々な事があって肝が据わってきたのか、それとも多少住み慣れて生来からの気質が顔を出してきたのか―――時折千鶴ちゃんは、芯の強いところを見せるようになった。
まぁ、怯える事しか出来ない単調な子や、何を考えているのかよく分からない無表情な子よりは、揶揄い甲斐がある子の方が、飽きが来なくて僕は楽しいけどね。
こんな事を誰かに話したら、「お前は酷い」とか何とか、勝手な事を言われそうだ。
「でも、夜になる前に帰る事が出来そうで良かったですね。頼まれた通り、ちゃんとお役目を果たせそうです。」
千鶴ちゃんはほっと安心したように息をつくと、ふわりと嬉しそうに笑った。その顔に、ちょっとけ胸がどきりと小さく脈を打った。


「おい、総司。」
数刻前の昼餉の後。僕が昼寝でもしようかと自室へ向かっていると、幹部棟へと続く廊下で土方さんから声をかけられた。
面倒だなぁと思いつつ「何ですか」と答えると、土方さんの陰に隠れるように佇んでいた千鶴ちゃんが、ぺこりとお辞儀をしてきた。二人きりでコソコソと話をしていた事にちょっと苛ついたけれど、何でもない振りをして腕を組む。にこりと笑うと、千鶴ちゃんは申し訳なさそうな顔で、上目遣いのまま僕と土方さんを交互に見た。
「今から、こいつを外へ使いに出す。お前が今日非番だって事は知ってるが、他の奴は隊務と当番で忙しい。すまねぇが、こいつの護衛をしてくれねぇか。」
「千鶴ちゃんを、外に?…今度は、この子にどんな仕事を押し付けたんです?」
「…何だ、その不服そうな顔は。俺だってやぶさかじゃねぇんだよ。…千鶴。すまねぇが、頼んだぞ。」
「はい!任せて下さい!」

元気に返事をして、仕事を頼まれた事に喜んでいる千鶴ちゃんの顔を見たら、とても断る気にもなれなかった。…まぁ元々、他の人なんかに役目を明け渡す気なんて、さらさらなかったんだけど。
それにしても、お使いの内容が気に入らない。密偵の為に商家で奉公人として働いている山崎君へこっそり文を渡す事と、仕立て屋に頼んでおいた土方さんの黒の羽織を取り行く事だったなんて。近藤さんの用事だったら、全然気にしなかったのにさ。
「まったく、土方さんも人使いが荒いよね。居候の君をお使いに命じたり、非番の僕を君の護衛役にしたりさ。」
「す、すみません…お休みのところを……。」
千鶴ちゃんは、両手に抱えている風呂敷包みをきゅっと抱きしめると、ぺこりと頭を下げてきた。屯所へ来てから随分伸びた艶やかな髪は、湿気を含んだぬるい風にさらりと靡いていく。
「…別に、君が悪いんじゃないでしょ。悪いのは、人使いの荒い土方さんなんだし。本当、困った人だよね。」
僕が、そうぼやいた瞬間。
―――ぽと、ん。
遠くにいた黒い雲が、いつのまにか僕達の頭上にも届いてきていて。大きな雫が落ちてきたかと思うと、急に雨が降り出した。白みを帯びた稲光がカッと輝いて、地割れでも起きそうな雷鳴が辺りに轟き渡る。
「きゃあっ!?」
「千鶴ちゃん、こっち!おいで!」
僕は、頭を引っ込めて怯える千鶴ちゃんの小さな手を強引に取ると、雨の中を一緒に走り出した。

「…ふぅ。」
「いきなり降ってきちゃいましたね…。」
僕達は、一旦雨宿りをする為に近くの家の軒下へと身を預けた。家主は留守にしているらしく、人の気配はしない。辺りにいた人達は既に屋内へと非難したらしく、視界の中に人影は見当たらなかった。
大粒の雨にうたれたせいで、髪がぺっとりと顔に貼りついてくる。頭を軽く振って髪から落ちる雫を振り落としていると、千鶴ちゃんが「駄目ですよ」と手拭を持った小さな手を伸ばしてきた。
「風邪をひいてしまいますよ、沖田さん。きちんと拭かないと……。」
「…じゃあ、君が拭いてくれる?」
僕は自分の身体を屈ませて、千鶴ちゃんの顔に自分の顔を出来るだけ近づけてみた。
自分の事よりも他人の事を気にするこのお人好しな子に、思わず意地悪をしたくなっちゃうのは、もう仕方がないよね。
千鶴ちゃんは白い顔を真っ赤にさせたかと思うと、ささっと後ろへ後退った。その瞬間、軒下の屋根から落ちた雨の雫が背中に当たったらしく、小さな悲鳴が起こる。
「あぁ…もう、何やってるのさ。そんなところにいたら、濡れちゃうでしょ。こっちへおいで。」
僕は彼女の小さな頭に手を乗せると、雨が当たらないように着物の袖で彼女を隠しながら、すいっと元の場所へと引き寄せた。着物の袖の陰に隠されている彼女は、まるで僕だけの宝物のように思えた。
「あ、ありがとう、ございます……。」
千鶴ちゃんは真っ赤な顔をしたまま僕にお礼を言うと、小さな肩を更に縮めて俯いてしまった。
雨に少し濡れたせいで、いつもは隠れている筈の千鶴ちゃんの「女の子」が、さっきからちらちらと見え隠れしている。後れ毛がぴったりと張り付いた、白いうなじとか。いつもは前髪で見えない、小さな額と薄いこめかみとか。小さくて、柔らかそうな耳朶とか。
 …少しだけ、なら―――良いよね?
喉の奥が、ごくりと鳴る。
僕が千鶴ちゃんのうなじに顔を近づけながら、抱き寄せる腕に力を込めようとした時だった。
 !
千鶴ちゃんがいる反対の方向から、殺気に近い強めの視線が僕をぐさりと射抜いてきた。
何食わぬ顔をしたまま、ゆっくりと視線の主がいる方向を横目で見ると、そこには憮然とした顔で傘を差す平助がいた。
 …敵じゃなかったか。
僕は少しだけ警戒の空気を解くと、近づいても来なければ声をかけて来ようともしない平助の様子を少し観察した。
平助はむすっと顔を顰めたまま、傘を差しているもう片方の腕に、二つの傘を抱えている。どうやら、僕達を迎えに来てくれたみたいだった。たぶん巡察の報告の時とかに、ついでとして人使いの荒い鬼副長にでも頼まれたんだろう。
大きな瞳でぎろりと僕と睨んでいる顔から察するに、千鶴ちゃんに近寄っている僕が気に入らない―――そんなところじゃないかな。
僕は、僕との距離を気にして顔を赤らめている千鶴ちゃんに向かって、にこりと笑いかけた。
「ねぇ、千鶴ちゃん。今日は、お使いで外に出かけたけどさ。今度僕が非番の時に、一緒に出かけようよ。美味しいお団子、食べに行かない?」
「えっ…で、でも…良いんですか?」
今まで所在無さげにもじもじしていた顔が、ぱあっと花が咲くように笑顔に変わる。うん、やっぱり可愛い。
僕が、いつもの笑顔よりも幾分かは優しさの混じる笑顔で「うん、一緒に行こう」と答えると、千鶴ちゃんは頬を桃色に染めて「はい…嬉しいです」と柔らかく微笑んだ。
僕は千鶴ちゃんの反応を見た後、尚も雨の中佇んでいる平助の方へと視線を向けて、くすりと小さく笑った。
 悪いけど―――この子は、僕のものだからね。
直接口にしなくても、僕が言いたい事は平助に十分伝わったようだった。悔しそうに顔を歪めている平助に満足していると、いつまでも馬鹿みたいに突っ立っている平助の姿を見つけた鈍い千鶴ちゃんが、明るく声をかけた。
「あれっ…平助君?」
「…あ、あぁ。土方さんに言われて、迎えに来た。」
平助はゆるゆるとした動作で僕達に駆け寄ると、気まずそうな顔で視線を泳がせている。何も気づいていない千鶴ちゃんは、「ありがとう」と暢気に傘を受け取った。
「…ほらよ。」
「…悪いね、平助君。」
平助から冷たい視線をぶつけられながらも、僕は平然とした顔で傘を受け取る。僕達三人は雨の中、特に会話もなく屯所へと急いだ。


 雨に濡れた僕が着替えを済ませた頃には、もう雷雨は静かな小雨に変わっていた。
僕が夕餉の為に大広間へ向かっていると、平助が廊下で一人ぽつんと立っていた。雨の雫が微かに見える庭に視線を向けたまま、何か考え事をしているようだった。
「あ、平助。さっきはありがとう。あのままずっと千鶴ちゃんと二人で雨宿りしていたら、門限を破って切腹になっちゃうところだったよ。」
僕の口は感謝の言葉を紡いでいるけれど、視線は全くの逆だった。周りが見たら、たぶん「挑戦的なその目は、喧嘩を売っているようにしか見えない」って言われると思う。まぁ、間違ってはいないんだけどね。
平助は庭から僕へと視線の先を変えると、くるりと身体を真正面に向けてきた。僕の顔を、まっすぐな瞳で見つめてくる。平助が、真面目な話をする時の癖だ。
「総司。お前…千鶴の事、どう思ってんだよ?」
 …やっぱり、そうきたか。
正直で、真っ直ぐで。素直な平助君らしいといえば、そうなんだけど。
「本当に、君は直球だよね。ある意味、尊敬するよ。」
「はぐらかすなよ。ちゃんと答え―――」
「そういう君は、どうなのさ?他人に質問しておいて、自分の本音は明かさない訳?それって、随分狡いと思うけど。」
僕からの辛辣な言葉にぐさりと刺されて、平助はぐっと言葉を詰まらせた。僕の言い分が尤もだとでも思ったに違いない。本当、単純だよね。
「お、オレはっ……!」
「あぁ、別に言わなくても分かってるから。君の気持ちなんて、とっくに気が付いているし。気が付いていないのなんて、どうせ新八さんと本人位なんじゃない?まぁ…わざわざ馬鹿正直に僕に宣言したいなら、別に構わないけど?」
「……お前、本当に性格悪いよな。」
怒りを含んだ平助の瞳が、強くぎらりと光った。育ちがそれなりに良い所為か、お人良しで優しい気質を持つ平助は、仕事以外でこういう表情はあまり見られない。
 それだけ、あの子に本気―――って事…か。
僕は小さくくすりと笑うと、いつもの笑顔に更に刺すような瞳で平助を見た。
「悪いんだけどさ。僕も、すごく気に入っているんだよね。君に譲る気なんて、さらさらないよ。」
「お、オレだって!お前に譲る気なんかねーよ!!」
「…」
「…」
僕達は、お互いを睨みつけたまま黙り込んだ。さっきまで静かに降っていた雨音が次第にぽつ、ぽつ、と小さくなり、やがて辺りは静かな闇夜へと変わっていく。真っ黒い静寂が僕達を包みこんだかと思うと、雨で冷えた風がするりと僕達の間を駆け抜けていった。
「…言っとくけど!オレ、お前には絶対負けねーからな。」
「そう?じゃあ、僕も頑張る事にするよ。元々勝負事には強い方だけど、君には負けたくないしね。」
僕達は互いに視線をぎらつかせると、ふいっとすれ違って一度も振り向かなかった。

 ―――負けるつもりなんかないよ。

だって、誰にも譲る気なんて…絶対にないんだからさ。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、私が「沖田さんと他の隊士が千鶴ちゃんを巡って火花をバチバチ散らすお話を書いてみたい!」と急に思い立ったのがきっかけです。

「あからさまに火花をバチバチ散らす!」という事がテーマだったので、平助君が恋敵役になりました(土方さんは総合的にいつもの事ですし、一さんは静かな火花になりそうだったので却下)。
二人で雨宿りをするシーンで沖田さんが「ちょっとエロ目線な沖田さん」になっていますが、実はわざとです(笑)。
このお話は、同じ時間軸で互いの視点から恋敵相手を見る―――という構成にしている為、出来るだけ「真逆」を象徴するように書いています。
「平助君では確実に不可能な事」をしてもらいたかったので、着物の袂で千鶴ちゃんを雨から守ったり、「ちょっとだけ…」と、千鶴ちゃんの首に口付けをしようとしたり。正々堂々と対峙しようとする平助君の気持ちをわざと聞かなかったり。
私が個人的に思う、「沖田さんならでは…かな?」という部分を出してみました。
彼らの軍配がどちらにあがっているかについてですが、千鶴ちゃんはどちらも選んでいません。完全に50/50です。
鈍い彼女に、自分を意識させて最後に手に入れる事が出来たのは、果たしてどっちなのか?そこは、読み手の皆様にお任せ致します。

タイトルの「本気だよ。」は、サブタイトルの「I'll never let anyone take you(誰にも譲らない)」に「本当だよ」という意味をつけるために、そのままの言葉でつけてみました。
よろしければ、平助編「負けないから」もご覧くださいませ。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 対決

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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