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2015/08/30

ご褒美はその後で

現代パロ。沖千。千鶴視点。恋人未満。バイトの先輩&後輩設定。なしあ様への捧げもの。



「失礼しました」
 廊下に出た千鶴は、室内に向かって丁寧にお辞儀をすると、銀色の丸いドアノブに手を掛けてパタン、とドアを閉めた。
 お辞儀で乱れたポニーテールの髪をササッと直しながら、手に持っていた書類とファイルをまとめて胸の前で抱きかかえると、指先が自分の胸の鼓動を感知する。
 どくっ。
 どくっ。
 どくっ。
 いつもより、ずっと速まっている。
 身体を強張らせていた原因を吐き出すように、千鶴は「はぁっ」と軽く息をついた。
「…着替えに行かなきゃ」
 清潔感のある、白い長袖のYシャツ。
 膝上五センチの、細身のラインが美しい黒のミニスカート。
 ウエストのあたりからスカートの少し上までを覆っている、針葉樹を連想させる濃い緑色のエプロン。
 これは、駅の近くにあるオープンカフェレストラン「Cafe Naturally」で、ウェイトレスの女性達が着ているユニフォームだ。
 二年前にオープンしたレストランカフェで、「どのメニューも、こだわりの味をきちんと出していて美味しい」と、評判が高い。
 千鶴は大学に通う傍ら、通学の途中にあるこのカフェで、週三日のシフトでアルバイトをしている。
 おすすめのフードメニューは「たっぷり野菜とチーズのホットサンド」で、スタッフが休憩の時に食べるメニューの定番だ。
 ドリンクメニューは、可愛らしいラテアートが楽しめるバリスタのコーヒー類が中心となっていて、中でもスタンダードドリンクの一つである「エスプレッソ・ラテ」が不動の人気を誇っている。
 千鶴もこの二つのメニューがお気に入りで、学校やバイトが休みの日になると講義のレポートをまとめる為に客としてよく利用している。
 この店を気に入っている理由は――勿論、それだけではないのだが。
(あんまり自信ないなぁ……)
 ほんの数分前まで、監督役であるフロアマネージャーの前に座って受けさせられた試験の問題用紙を思い浮かべながら、千鶴は眉をハの字に下げて顔を俯かせた。
 目の前に出された答案用紙の答えは全て埋めたものの、正解したと思われる数には、多少不安がある。
 答えが間違っていたものは、おそらくなかったと思う。
 だが、かなり緊張していた分、誤字や脱字――答えを書く場所が間違えていた事も、あったかもしれない。
 そう思うと、不安という名の暗い気持ちが、ストローでかき回されたグラスの中の氷のように、ぐるぐると回り始めた。
(二問目、あれで合ってたのかな……)
(ううん、七問目の問題の方が……)
 頭の中で、記憶に残っている限りの答え合わせをする。
 小さく「うーん」と唸りながら、千鶴がT字型の通路を右へと曲がった時だった。
「終わったの?」
「!」
 曲がった方向とは逆の廊下――少し離れたところから、小さい子がまるでキャッチボールをするかのように、千鶴の背中にぽん、と、軽めの声が投げかけられた。
 ポニーテールの髪を揺らしながら、千鶴がくるりと後ろを振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。
「そ、総司先輩っ……!」
 口からこぼれた言葉と共に、千鶴の胸の鼓動がドキッと大きく跳ねた。
 肘まで捲り上げた、白い長袖のYシャツ。
 きちんとプレスされた、ストレートタイプの黒いスラックス。
 腰から足首までを覆っている、すとん、と落ちるように皺ひとつない長方形のエプロンは、千鶴と同じ針葉樹のような濃い緑色だ。
 甘茶色の前髪をくしゃりと掻き上げながら、彼――沖田総司は、千鶴に向かって「お疲れ様」と笑いかけた。
「テストの出来、どうだった?」
「……わかり、ません」
 千鶴が、華奢な両肩をしょんぼりと下げながら自信なさげに答えると、沖田は「はぁ?」と眉を顰めた。
「……あのさ。君は「ご案内専用のキャスト」から「ギャルソンのキャスト」にステップアップしたくて、必死に勉強して、テストを受けたんでしょ?」
「……はい」
「先輩である僕に、必死な顔で「勉強を教えてください」って、縋りついてきてさ。しつこく食い下がる君に僕が根負けして、僕のアパートの部屋まで提供して、何日も君の勉強を見てあげていたのに……「わかりません」って、何」
「自信、が……ないんです」
 俯いてそう答える千鶴に、沖田は面倒臭そうに「はぁっ」とわざとらしく大きなため息をつくと、ボソッと小さな声で呟いた。
「うちの店で作っている、ロイヤルミルクティーのシフォンケーキ。レシピの途中で、気を付けないといけない事は?」
(えっ?)
「簡単な問題でしょ。答えなよ」
「あ……えっと、ミルクティーの液体だけを使用して、抽出用に使った葉はスポンジに入れない事です」
「理由は」
「食べた時、口の中で細粒になった茶葉のザラつきを防止する為、です。シフォンケーキの柔らかさを邪魔しないように……」
 おどおどしながら答える千鶴に、沖田は厳しい表情のまま「じゃあ、次」と更に問題を出し始めた。
「うちの店で決められている、ホットティーを淹れる時の適正温度は?」
「八十度です。飲料水の蛇口から水を入れて沸騰させてから、適温になるまで冷まします」
「ギャルソン達のユニフォーム、昼と夜でデザインが違うのはどうして?」
「えっ…あの、昼はカフェのドリンクやランチのお客様が多いですが、夜はアルコールやディナーを楽しむお客様が増えるので、店内の雰囲気を変える為に、です」
「次。うちの店のサンドイッチは、具を挟む前にパンにバターを塗るよね。理由は?」
「えっと……パンに、余分な水分を含ませない為、です!」
 千鶴が、やっと自信ありげな顔で瞳をキラキラさせながら答えると、沖田は「まだだよ」と冷たく言い放った。
「うちの店で作っている、フォンダンショコラのチョコレートケーキ。チョコの配分は?」
「えっと……ミルクチョコレートと、ビターチョコレートで、三対七の割合……です」
「二種類のチョコレートの配分を、半分ずつにしない理由は?」
「確か……半分ずつで作ると、味にムラが出てしまう可能性が高いからです。あと、焼いて粗熱をとった後、冷えてから甘さが増す事があるので、甘みの強すぎる味に変えてしまわないようにです」
 沖田の表情を盗み見るかのように、千鶴は上目使いになりながら自信なさげに答えた。
 二人以外は誰もいない廊下が、しん、と静寂に包まれる。
 琥珀色の大きな瞳で、千鶴が黙ったまま沖田の顔をじっと見つめていると、沖田は千鶴の顔からふいっと視線を逸らした。
(えっ……ま、間違えちゃった!?)
(でも、教えてもらった通りに答えた……よね?)
(総司先輩のお部屋にお邪魔した時、キッチンを借りて一緒にお茶を入れたり、メニューフードを作らせてもらったりしたし)
(たぶん、合っている筈――)
 抱えていたファイルを抱きしめる両腕に、思わずぎゅっと力がこめられた時だった。
「何だ、ちゃんと覚えてるじゃない」
 沖田の――さっきとはうって変わった、優しげな声。
 千鶴がパッと顔を上げると、沖田は萌黄色の瞳を細めてにこりと笑っていた。
「まぁ、僕がちゃんと指導していたんだから、当然だよね。大丈夫。受かるよ」
「先輩……!」
 接客経験のない千鶴が、アルバイトとして入って来た頃から密かに想っていた……厳しくて優しい、一つ年上のバイトの先輩。
 その沖田から「安心して良いと思うよ」と、まるでおまじないのような言葉を聞かされて、千鶴はもう感情のコントロールが効かなくなっていた。
「ちょ、ちょっと……!」
「嬉し…です。良かった、ぁ……!」
  ポロポロと零れる涙は、悲しいからじゃない――そう言いたいのに、言葉が出てこない。
 沖田が「下の名前で呼んでよ」と千鶴に言ってくれたのは、一体いつだっただろうか?
 そう呼ぶ事が、もう自然な事になっていて記憶もあやふやになってしまっているが、千鶴は確かに沖田の方からそう言われた事を覚えている。
 千鶴が「総司先輩」と呼びかける度に、沖田は嬉しそうに頬を緩めてくれる。
(この気持ちにも――今日受けた試験みたいに、『合格』が貰えたら良いのにな……)
(ううん、まだ試験だって受かるって決まってない)
(総司先輩、キャストのスタッフさんにもお客様にも、すごく人気あるし)
(図々しいよね、そんなの……)
 千鶴がそう思っていると、沖田は「そんな風に泣かれると……ちょっと困るんだけど」と苦笑いをしたようだった。
 視界の中で佇む沖田の姿はゆらりと滲んでいて、どんな顔をしているのか、千鶴にはよく見えない。
 すぐ近くに、想いを寄せる相手の姿があるのに……千鶴の心から溢れ出てしまった「涙」という薄いベールが邪魔していた。
(迷惑をかけちゃった……!)
(そうだよね、いきなり泣くなんて……!)
 千鶴は、目尻に溜まっている涙を指で拭いながら「すみません」と謝った。
「まぁ……今の状況だと、僕が君を泣かせちゃったみたいに見えるよね。誰かが来たら、誤解しちゃうかもしれないな。一君あたりに見られたら、すっごい怖い顔で睨まれそう」
「ご、ごめんなさいっ!今すぐ止めますか――」
「いいよ、そのまま……ちょっとだけ、動かないでいてくれる?」
「えっ?」
 目を擦る千鶴の右手を沖田はぐっと掴むと、薄いピンクのグロスが塗られている千鶴の唇に自分の唇を、掠めるように一瞬だけ……そっと重ねた。
(!?)
(い、今……気のせい、じゃないよね?)
(総司先輩、今――)
「止まったね、涙」
「えっ……あ!」
「予行練習みたいなもの、かな?とりあえず、試験に合格したら改めてご褒美をあげる。だからそれまでは、今ので我慢しててね」
「がっ、我慢っ!?」
「じゃあね、お疲れ様」
 沖田は、真っ赤になって固まっている千鶴の額にチュッと軽いリップ音を立ててキスをすると、右手をヒラヒラを揺らしながら上機嫌で去っていった。
(ご褒美って……ご褒美って、何!?)
(ううん、それよりも!)
(そ、総司先輩とっ……今、キスしちゃったっ……よねっ!?)
(きゃあああっ……!!)

 誰もいない廊下で、千鶴は声にならない叫び声を上げたのだった。
 千鶴が受けた昇格試験の結果が出るのは、七日後である翌週の金曜日。
 奇しくも二人の出勤が同時刻の日に、知らされる事になっている――。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、なしあ様の応援SSとして書いたお話です。
「大学生同士の二人」で「お互い片思い」の状態で「沖田さんが頑張った千鶴ちゃんを労う」というリクエストだったので、バイトの先輩後輩にしてみました。
以前自分が通っていたカフェをイメージして、さらっとお洒落系のお店として書いていたりしますw
どう考えても両想いといいますか、「おいおい、丸わかりだろ!?」とつっこみたくなる感じだと思いますが、私の書く千鶴ちゃんは壊滅的に鈍い子なので、グイグイいく沖田さんに気付いておりません……ご了承ください。
沖田さんの性格からして、何とも思っていないバイトの後輩のスキルアップの為に、自分のテリトリーに呼んでまで勉強を手伝うとか素でありえないと思うのですが、まぁ壊滅的に鈍い子なんで察して頂けると助かりますw;

タイトルの「ご褒美は、その後で」ですが、まぁ……結果の発表が出た後で、沖田さんが更にグイグイいくんだろうな、という意味を込めました。
千鶴ちゃんは、鈍いからな!グイグイいかないと落とせないぞ!頑張れ、沖田さん!という、書いている本人の癖に応援する気持ちを込めていますw

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 進呈

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
Pixiv: 4211441


※現在、WEB拍手は3作品です。
龍鈴(薄桜鬼)/原千(薄桜鬼)/
薬研&光忠(刀剣乱舞)

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シリーズ(完結済)

薄桜鬼。2話~の作品。完結済。
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沖田編 1234
斎藤編 123456
平助編 1234
原田編 123
土方編 123456

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沖田VS平助 沖田編平助編
原田VS土方 原田編土方編

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沖田VS斎藤 沖田編斎藤編

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斎藤編後日談
平助編後日談後日談2
原田編
土方編
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本編番外編

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前編後編

◆目覚めた想い(平千)
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