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2015/08/30

君を抱きしめられる幸せ

現代パロ。沖千。企画サイト「薄恋」にて公開。「両想い」。



身が切られそうな位の木枯らしが吹く、真冬の夕暮れ。
着替えを終えた僕が部室から顔を出した瞬間、刺すような冷たい風が頬を叩くようにして通り抜けていく。
戸締まりを確認してからくるりと振り向くと、運動部の部室が並ぶ棟から少し離れた外灯の下で、小さな人影を見つけた。
暗闇の中、煌々と照らされる外灯の真下にいるせいで、顔は影になってきちんと見る事が出来ない。それでも、その人物を僕が間違える筈がなかった。

「千鶴!」

「…沖田先輩!剣道部の稽古、お疲れ様です」

寒そうに鼻の頭を赤くさせた千鶴は、弾むような足取りで駆け寄った僕に、にこりと笑いかけてくれた。


 彼女は―――雪村千鶴。
一つ年下の一年生で、一週間前に付き合い始めた、僕の彼女。
僕がずっとずっと、探し求めていた…愛しい存在だ。

「待たせちゃって、ごめんね。剣道部の部室に来るか、暖かい場所にいてくれて良かったのに。」

「さっきまで図書室にいましたよ。でも、「そろそろかな」って思って…待っていたかったんです。」

千鶴は上目遣いのまま、照れ臭そうにはにかんだ。こういう健気なところは、本当に変わらない。

「そっか…ありがとう。でもそれなら、そのまま図書室にいてくれれば、僕が迎えに行ったのに。こんなところにずっと立ってて、風邪でもひいたらどうするの…わ、手もこんなに冷たくなってる。」

小さな白い手は、思ったよりもずっとひんやりと冷えていた。指先なんて、氷のように冷たくなっている。

「あっためてあげる。」

僕は千鶴の両手を取ると、自分の両手で優しく包み込んで、僕の手の温度を分けてあげる事にした。痛くしないようにきゅっと優しく手を握って、ふうっと息を吹きかける。暫く握っていると、手の温度がじわじわと戻ってくるような気がした。

「お、沖田先輩…!」

千鶴の頬が、おそらく寒さとは違う理由でだんだんと赤みを帯びてくる。
ばちっと視線を合わせると、千鶴は困ったような恥ずかしそうな顔で、その大きな瞳をそっと伏せた。
こんな些細な事でも恥ずかしそうに顔を赤らめる姿を見ると、どうしても悪戯心が沸いてくるんだよね。

「…こんなところで待ってたから、寒かったよね。もっとあっためてあげる。」

「え?」

千鶴が頭の中で僕の言葉をかみ砕く前に、取っていた千鶴の手をぐいっと強く引いた。ぐらりと前のめりに体勢を崩した千鶴の肩を引き寄せて、自分の腕の中へ招き入れる。
ぎゅうっと包み込むように抱き締めると、千鶴の冷えた額が首の辺りを掠めた。予想通り、千鶴の身体は寒さですっかり冷えきっていた。

「おっ…沖田先輩っ!あのっ…!」

千鶴は恥ずかしさのあまりじたばたともがくけれど、僕の両腕に捕らわれて動けそうにない。そもそも僕自身、千鶴を離す気なんかないけど。

「だーめ。いいから、じっとしてなよ。待たせたお詫びに、あっためてあげてるんだからさ。」

「で、でも……!」

「いいから。僕は、大事な彼女をこんな風に凍えさせたままで帰す気なんかないんだから。ね?」

僕がそう言うと、腕の中で石のように固くしていた千鶴の肩が、ゆっくりと和らいでいくのが分かった。
諦めたのか承諾してくれたのかは分からないけど、このまま抱き締める事は許可してくれたようだ。



 ―――だって、幸せなんだ。

もう一度、君に出逢えた事が。

君と、想いを通わせられた事が。

躊躇する事なく、君を抱きしめられるという事が。


屯所にいた頃の僕は、冷たくあしらったり、意地悪を言っては遠ざけようとするばかりで、ちっとも君に優しくなかった。

雪村の土地で君と一緒に過ごした日々も、ほんの僅かなものでしかなくて…灰になる時の、君を一人にしてしまう事の寂しさと悔しさを、僕は今でも忘れられない。

今の時代に生まれても、君の周りには僕と同じ、前の記憶を持ったままの皆がいて―――記憶を持たない君が、また僕を選んでくれるという確証なんて全然なかった。

「もう一度僕を好きになって欲しい」と思っていたら、突然君から想いを告げられて…その夜は眠る事なんて出来なかった。


今、僕の腕の中で君が気を許してくれる事が、どんなに待ち焦がれていたか。

どんなに幸せに感じているか……君は、分からないよね?

でも―――分からなくていいんだ。

だって僕は、あの頃とは違って…出逢った頃からずっと、僕に怯える事なく屈託なく笑いかけてくれる…今の君が好きだから。

今を生きる、千鶴の事が好きだから。



「千鶴…好きだよ。…君は?」
「は、い…あの…沖田先輩が、大好きです。」
千鶴は耳まで赤くしてそう答えると、僕の胸に顔を埋めてくる。
僕は千鶴の小さな頭にそっと頬擦りをすると、その小さな身体をもう一度抱き締めた。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は企画サイト「薄恋」にて参加したものです。
「両想いをテーマに、【君を抱きしめられる幸せ】というタイトル」というものでした。

寒い中、自分を待っていてくれた千鶴ちゃんを暖めてあげる―――という方向で、沖田さんが彼女を抱きしめるわけですが。
単に好きな女の子に触れられる事が嬉しいだけではなくて、内側に「秘密にしている気持ちがあるんだよ」、という事を言わせたかったんです。
原作では労咳が完治する事はなかったようですし、羅刹の毒も薄くなっているとはいえ完全に消えたようではなさそうでした(私の個人的な感想です)。
そうなると、二人きりの日々は少なかったんじゃないかな…と考えると、沖田さんが本心から躊躇する事無く触れられる事って、少なかったんじゃないのかなぁと思ったんですね(病気がうつる可能性を考えても)。

そうなると、転生した平穏な現代。お互いが健康体で、記憶のあるなし関係なく、好きになってもらえて気を許してもらえた事って、すごく幸せな事なんじゃないかなぁと思って書きました。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 企画

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
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