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2015/08/30

ジレンマ沖田編・肆 - feel irritated -

幕末設定。沖千。 恋仲捏造設定。共通テーマ「ジレンマシリーズ」。



 ―――ちっとも酔えない。
まともに食事をとっていないから、酔いが回るのもそれなりのはずなのに。
布団の上にごろんと横になって、煽るようにお猪口の中身を何度か空にしたけれど、全く効き目がない。まるで水を飲んでいるみたいだ。
夕餉の時間になっても、僕と千鶴ちゃんは互いに一言も言葉を発さなかった。
周りの皆はといえば、「何かあったな」という顔で僕達の顔を交互に見た後は、極めていつも通りだった。千鶴ちゃんは沈んだ空気を纏っていたけれど、周りに気を遣わせないように笑っている。いつも食欲のない僕は更に食べる気になれなくて、結局膳にはろくに箸も付けずに早々と自分の部屋に戻ってきた。

お猪口を軽く揺らして、透明な液体が揺らめくのをぼんやりと眺める。揺らす力が強すぎたのか、お猪口から零れた水滴が僕の手にぽとりと落ちて、すうっと伝って流れ落ちていった。
先刻廊下で見た、ぽとぽとと零れ落ちるあの子の涙を思い出す。泣かせた事実を苦々しく感じて、思わずお猪口の中身を空にした時、聞き覚えのある重い足取りが僕の部屋へ近づいてくるのが分かった。
僕は素早く起き上がると、敷きっぱなしだった布団を片付け、文机の上に徳利とお猪口を置いて背筋を正した。
「…総司。ちょっと良いか?」
「はい。どうぞ、近藤さん。」
僕の返事と同時にすらっと障子戸が開いて、近藤さんが入ってきた。僕が部屋の隅にあった座布団を敷いてもてなすと、近藤さんは「済まないな、休んでいるのに」と優しく笑ってくれた。
「いえ、近藤さんなら大歓迎ですよ。どうかしたんですか?」
「ああ。これを総司に…と、思ってな。」
近藤さんは手に持っていた盆を僕の前に差し出した。丸い黒塗りの盆には、白い握り飯とお茶の入った湯のみが並んでいた。
「さっき、勝手場でオレが握ってきたんだ。夕餉の時、碌に食事を取らなかっただろう?早く風邪を治すためにもだな、きちんと食事を取って体力をつけないとな。さぁ、食べなさい。」
そう言うと近藤さんは、にこにこと笑いながらすす、と僕の近くに盆を寄せた。
近藤さんの大きな手で握ったにしては、小さすぎる二つの白い握り飯。握り飯を乗せた皿の端には、口直し用の沢庵がちょこんと添えられている。隣には湯気の立つ暖かそうなお茶が入った湯のみが二つ並んでいて、更におかわり用の小さな急須までが盆に乗せられていた。
 …千鶴ちゃん、かな?
渡し役に近藤さんを使ったのは、本人の案なのかどうか分からないけれど。もし狙ってやったのなら、あの子は大した策士だ。
「美味しそうですね。ありがとうございます、戴きます。」
僕は手を合わせてお辞儀をすると、握り飯をそっと齧った。柔らかく握られた握り飯は、ほろりと口の中でほどよく崩れて、とても食べやすい。添えられたお茶を啜ると、火傷はしないくらいの丁度良い熱めの温度。僕の好みのお茶だった。
近藤さんは僕が黙って食べているのを満足そうに眺めると、盆に乗せられたお茶を手にとってずず、と啜った。

「あぁ美味しかった。近藤さん、ご馳走様でした。」
皿の上の物を全てたいらげた僕は、手を合わせてお辞儀をした。近藤さんは、うんうんと満足そうに頷いている。
「ではオレは、そろそろ戻るとしよう。総司、ゆっくり身体を休めるんだぞ。」
よっ、と立ち上がった近藤さんの手から、僕はひょいっと盆を取り上げた。
「これは、僕が片付けますよ。後で、千鶴ちゃんにもお礼を言わないといけませんしね。」
にっこり笑った僕に、近藤さんは「どうしてばれたんだ?」という顔をして大量の汗を流している。大当たりだ。
近藤さんはばつが悪そうに頭を掻くと、僕からちらちらと視線を外しながら、ぽつりぽつりと白状した。
「あー…勝手場に茶を取りに行ったら、だな。雪村君がこれを用意していたんだ。問いかけたら、「お前が碌に食事を取らないから、握り飯なら食べられるかもしれない」と……。いや、別に雪村君から持っていってくれと頼まれた訳じゃないぞ?オレもお前の様子が気になってたから、オレから言い出した事なんだ。」
近藤さんは、焦ったような口調で千鶴ちゃんを庇い立てた。近藤さんの人の好さは、本当に誰にでも分け隔てがない。僕達幹部は勿論、平隊士や町民に対しても同じ心の広さを持っている。本当に、僕が心から尊敬できる人だ。
そして、千鶴ちゃんも。さっき諍いを起こしたばかりだというのに、こうして僕の身体を案じて、気遣ってくれる。
「…ええ、分かってますよ。千鶴ちゃんは、そういう子じゃありませんから。」
僕が納得すると、近藤さんは安心したように笑って話を続けた。
「そうしたら雪村君がだな、「ではこれは、近藤さんが用意した事にして下さいませんか」って言ってきてなぁ。「私よりも、近藤さんのお名前を出した方が、沖田さんも喜ばれますから」とな。本当に…良い娘さんだと思わないか、総司?」
 馬鹿だなぁ。僕に嘘をついても、見抜けない筈がないのにね。本当にあの子は、嘘をつくのが下手だ。
「…そうですね。」
問いかけてくる近藤さんの優しい声音に、僕も素直に頷いた。


 勝手場に盆を片付けた後、僕は昼間と同じように縁側に腰を下ろして、空を見上げていた。
雲一つなく広がった闇の中で、瞬く星と冴えた光を宿した月が、辺りを優しく照らしている。満月のせいか、夜がいつもより明るく感じられた。
ひゅうっと冷たい木枯らしが吹いて、僕の体温を一気に攫っていく。急に息苦しくなったような気がして、けほ、と軽く咳をした。
「…こんなところにずっといたら、お身体に障りますよ。」
黒い布を抱えた千鶴ちゃんが廊下に立っていた。背後には、土方さんの部屋へ向かう廊下が続いている。
「…仕事は、終わったの?」
「終わりました。」
「そう。お疲れ様。」
あまりにも素っ気無いやり取り。どうしようかなぁと、僕が思い悩んで空をまた見上げた時だった。
千鶴ちゃんの動く気配がしたかと思うと、僕の背中をふんわりとした何かが包み込んだ。さっきの木枯らしで冷えた僕の身体に、ほんわかとした温もりが現れる。驚いて肩に視線をおろすと、見覚えのある黒い生地が見えた。千鶴ちゃんが手に持っていた布と同じものだった。
「…半纏?」
かけられた代物を認識してから、僕は隣で顔を赤らめながら俯いて正座をしている千鶴ちゃんに問いかけた。
「沖田さんの…です。私が作りました。」
俯いたまま、震える事で千鶴ちゃんはそう答えた。
「僕の?作ったって…何で―――」
「沖田さんがいけないんですっ!」
僕が聞き終わる前に、千鶴ちゃんはがばっと顔を上げた。
だからさ…そんな赤い顔をして涙を滲ませた顔で睨んできても、全然怖くないんだけど。むしろ可愛いから。本当にこの子は、分かっているのかな。
「先日、土方さんに「ちゃんと暖かくしていろ」って、叱られてましたよね。その時沖田さん…「僕の半纏なら、虫くってたんで捨てちゃいました」って、仰られてたでしょう?」
 あぁ…そういえば、そんな事もあったかな。まぁ、虫がくっていたのも捨てたのも事実なんだけど。
「まだまだ冷える時期なのに、いっつも薄着で出歩かれてて。出来るだけお身体に障らないようにした方が良いと思って……だから、土方さんに相談したんです。そうしたら、「お前が仕立てれば良い」と。「お前が作ったものなら、総司も邪険にはしないはずだ。副長命令だ、仕立ててやれ。」って……。」
千鶴ちゃんは、もごもごと恥ずかしそうに口篭った。この様子だと、他にも色々と揶揄かわれたりしたに違いない。全く…この子を揶揄って良いのは、僕だけなんだけど。あの人には後で、何か仕返しを考えないといけないな―――て、ちょっと待った。
「…ねえ。何で、土方さんなんかに相談したの?本人である僕に、話せば良い事じゃない?」
「いいえ。沖田さんじゃ、駄目なんです。」
僕の拗ねた口調に、千鶴ちゃんは否定の言葉で即答した。…ちょっと傷付いた。
「何で。」
「だってご相談したら、「そんなのいらない。暑苦しいし、動きにくいし」って、絶対に断られると思いましたから。今も、そんな薄着でいらっしゃいますし。」
千鶴ちゃんは、きっぱりと僕に向かって言い放った。そりゃ、確かに言うかもしれないけど。多分、断るかもしれないけど。でも、恋人に隠し事をされた僕の身にもなってもらいたいんだけどなぁ。
呆れている僕を他所に、千鶴ちゃんは大きな瞳を伏せて「でも、少しだけ嬉しかったんです」と小さく呟いた。
「え?」
「お傍にいられるだけでも、とても嬉しいんですけど。私でも…沖田さんのお役に立てる事が出来るって、そう思ったら……。」
半纏の袖先をきゅっと握り締めながら、千鶴ちゃんはほんのりと頬を染めて小さく微笑んだ。
…それは、一体何の策略なのかな。まぁどうせ、無意識なんだろうけど。計算でやっている訳じゃないから、本当に厄介だよね。
日々のすれ違いで不安に感じていたものが消えた事と、千鶴ちゃんの僕への態度に安心したせいか、僕の中の悪戯心が俄かに沸いてきた。
「そういえば昼間、初めて僕の名前を呼んでくれたよね。でも、確か『馬鹿』って言われたような気がするんだけど。」
「あ…!す、すみませんでした……。」
悲しそうな僕の言葉にさっと顔を上げると、千鶴ちゃんは申し訳なさそうに小さい声で謝ってくる。こういうところは、本当に素直だ。
「うん、良いよ。ちゃんと、呼び直してくれれば。…ねぇ、名前で呼んでみてよ。」
僕はにっこり笑うと、千鶴ちゃんの肩に両腕を乗せて、後ろで手を組んだ。目線の高さを合わせてじりじりと顔を近づけていくと、恥ずかしがって真っ赤になっている千鶴ちゃんの瞳に、うっすらと涙が滲んでいるのが見えた。
「い、今、ですか…?」
「うん、今。ほら、呼んでよ。…千鶴。」
僕が呼んだ瞬間、大きな琥珀色の瞳がもっと大きく見開かれて、戸惑うように千鶴の視線が左右に泳いだ。
暫くして、白くて細い喉がこくん、と鳴って、小さな深呼吸が何度も繰り返される。
薄桃色の小さなその唇が、僕の名前を呼ぶ為にゆっくりと動いたのを確認すると。
僕は満足気に微笑みかけて、そっと啄むように口付けた。

 散々焦らされたんだし、これ位のご褒美は良いよね?

主導権は、僕のものなんだからさ。


-了-

――― あとがき ―――
この「ジレンマ」シリーズは、「屯所内での千鶴ちゃんと恋仲になった(?)主人公が、千鶴ちゃんとの関係でオロオロ、苛々、ハラハラする」という本編と違う捏造話です。

沖田さんは気まぐれなので、構いたい時に千鶴ちゃんの事を構えなかったりすると、ご機嫌斜めになるかなーと思って、最初は「ご機嫌斜めな沖田さん」にしました。
山崎さんを出したのは、わざとです。彼なら、こんな感じでピリピリしたちょっとだけ険悪な感じのやりとりになるかなぁと思ったのでw

その後、すれ違いな分ちょっとだけいちゃいちゃさせようと思って沖田さんをちょっとだけ甘えさせてみました。
千鶴ちゃんの事を揶揄いながらも、やはりちょっと彼女だけには甘えた表情を見せる沖田さんを書いてみたかったんです。

結局は邪魔されてしまう訳ですが、千鶴ちゃんは名目上は「土方さんの小姓」なので、土方さん絡みのお仕事が入ると彼は内心イラッとしたんじゃないかなぁと思って、こんな風に書きました。

最終的に、近藤さんとお話した事をきっかけに、仲直りをする二人です。
実は当初、沖田さんを「宥める役」は近藤さんではなく、土方さんか一さんのつもりでした。
でも、一さんだと微妙に張り合ってしまう可能性があるなぁと思いまして。土方さんなら、いつものやり取り+千鶴ちゃんを独占で、尚更こじれそうだったのでボツ; 結局、「沖田さんの中で一番の人」に落ち着きました。

サブタイトル「feel irritated」は、和訳すると、「焦れったい気持ちになる・苛々させられる」という意味なんだそうです。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

タグ : ジレンマ・沖田編

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となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
Pixiv: 4211441


※現在、WEB拍手は3作品です。
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