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2015/08/30

君に触れさせて。- Let me steal your lip-

トキヤ×春歌。意地悪な攻め方をするトキヤ君。




   ―――夜。
 闇の中、周りの外灯に照らされて、浮かび上がるように明るく見える白い外壁のマンション。
二人の男女が暗がりの道からスッと現れ、マンションの入口の前でピタリと足を止めた。
 蒼い月光と、煌々とした外灯。二つの光に照らされて、美しく陰影が入る端正な顔立ちがはっきりと現れる。
一ノ瀬トキヤは、目の前にいる女性に向かって、理知的な笑みを浮かべていた。

 スラリとした長身。均整の取れた、引き締まった細身の体躯。
黒いシャツの襟元から、綺麗なラインの鎖骨と共にグレーのインナーをちらりとのぞかせ、黒い細身のパンツをセンス良く着こなしている。トキヤのクールな容姿によく似合う、こざっぱりとした「綺麗めのカジュアルスタイル」だ。
 対する女性は、オフホワイトのワンピースを着て、長い髪をふわりと風に揺らしている。白いサンダルに小さな籐で出来たバッグを手にしており、女性らしい涼しげな出で立ちだ。
醸し出す雰囲気からして、二人はデートの帰りのようだった。

  『…本当に、入口までで大丈夫?部屋の前まで、送ろうか?』

 心配そうな表情を浮かべ、彼女の顔を見下ろす形で見つめながら、トキヤは年相応の口調で問いかけた。
 トキヤと真正面に向き合っている彼女は、少し見上げるように頭を上げながら、ふるりと首を左右に振った。
 ウエストよりも少し上まで伸びる、緩くカールされた甘茶色の長い髪。バッグを後ろ手で持つ白く細い腕や、スカートからするりと伸びる華奢な脚。彼女の着ている軽い素材で作られたオフホワイトのワンピースが、清楚な雰囲気にとてもよく似合っている。

  『大丈夫。』
 彼女から明るい口調でそう返され、トキヤは残念そうな寂しげな表情でくすりと笑った。

  『―――分かった。じゃあ…ここで。』

 トキヤが、意を決したように別離の言葉を切り出すと、彼女の小さな頭がこくりと上下した。
 その瞬間、トキヤの表情がスッと真顔になり…彼女の頬に手を添えると、そっと顔を近づけていく。
 ―――数秒の静寂。
 外灯に照らされて、アスファルトに映し出されている二人の影は、ぴったりと一つに重なっていた。
 トキヤに肩を抱き寄せられ、そのまま身体を預ける彼女。今、二人が何をしているのか―――言わずと知れた事だった。
 暫くして、トキヤは閉じていた瞳を開けるのと同時に、そっと顔を後ろへと引いた。
 彼女との距離が、十センチ程しかない状況をそのままに、トキヤは自分の唇を親指でくいっと撫で、親指の腹を目で確認する。

  『…本当だ。落ちてない。』

 トキヤは、満足そうな顔で親指を舌先でペロリと舐め上げると。

  『もう一度、確かめていい?』

 そう甘い声で囁いて、瞳をゆるゆると閉じながら、また彼女の顔へと距離を縮めていく。そのまま、トキヤの姿を映し出している画面が、ゆっくりと暗転していった。
 何もない真っ暗な画面に、ぼんやりと浮かび上がるように現れた、銀色の眩い光を帯びた細身のスティック。
キュッと上部の蓋が取れ、スティックの下の部分がくるりと回転したかと思うと、鮮やかな紅い芯がスッと伸びた。


  『何度キスをしても落ちない―――いつでも盗みたくなる、その唇。』


 トキヤの柔らかなナレーションが、まるで睦事の時でしか聞けないような甘さを含んで暗闇に響く。
 パッと画面が切り替わって、真正面に見つめてくるトキヤの笑顔が映った。

 『…おやすみ。また明日。』

 トキヤが画面の上へと顔をフレームアウトさせた瞬間、小さなリップ音が聞こえた。
 耳を澄ましていないと、分からない位の微かな音。トキヤは愛しそうな瞳でじっと正面を見つめると、片手をひらりと振って踵を返した。
 小さくなっていく後ろ姿を背景に、画面の中央には大きな文字で「SteaL」とブランド名が浮かび上がる。『終了』の合図だった。



「…すごいですっ。」
 一部始終を観終わった春歌は、感嘆の声を上げてほうっと溜め息をつくと、パチパチと拍手をした。
その隣では、春歌の秘密の恋人であり、さっきまでTVの画面に映っていた人物―――一ノ瀬トキヤが、満足そうに瞳を細めて笑っている。春歌の自室で、先日出演したのCMの先行ムービーを見せていたのだ。
「女性の化粧品のCMなのに、とても色っぽくて素敵ですっ…!私、ドキドキしちゃいましたっ!」
「…君からそんな風に褒められると、何やら複雑な気分ですね。」
 無邪気に褒めちぎってくる恋人の笑顔に、トキヤは形の良い眉を下げながら苦笑した。
テーブルに置かれているウーロン茶の入ったグラスを手に持って、ストローから一口飲んだ春歌がキョトンとした顔で、「どうしてですか?」と問いかける。
「影が重なり合うという演出だったので、少々分かりにくかったのかもしれませんが…あのCMには、一応キスシーンがありましたので。」
 トキヤの口から出てきた「キスシーン」という言葉に、テーブルの上にグラスを戻していた春歌の小さな肩が、ぴくりと上下した。
 壊滅的に鈍くても、感受性は人一倍豊かな春歌である。直接的でなくとも、演出によって「そういうシーンだった」という事は、きっちりと把握していたようだった。気まずそうに、トキヤから視線を逸らす仕草が、それを如実に表している。
「少し位は、妬いてくれるものだとばかり思っていたのですが……どうやら、当てが外れてしまったようですね。確かに、仕事ですから、仕方のない事なのですが。でも、君が…そんな風にきちんと割り切れるとは、思ってもみませんでした。」
「そ、そんな事っ……!」
 慌てて否定しようとする春歌に、トキヤは口元に笑みを浮かべながら「そんな事…何ですか?」と、言葉を続けさせようとする。
ハッと我に返って口元を抑えて黙り込む春歌に、トキヤはそっと近付いた。ソファのスプリングが、きしり…と、小さな音を立てる。
「隠し事はなしですよ、春歌。さっきの言葉の続きを…ほら。教えて下さい。」
「……で、ですから…そんな事、ないです。」
「ん?言っている意味が、よく分かりませんね。もっと、分かり易く言って下さい。」
 意地悪く笑う恋人に、春歌は困ったような顔できゅっと眉を下げると、頬をほんのりと赤らめながら膝の上に置いていたクッションをキュッと抱きしめた。
「い、嫌だなって…ちょっとは、思いました…けど。でもっ、あのCMは、相手の方のお顔が見えないように、わざとそういうアングルにするって、知っていましたからっ。それにっ…本当に…キ、キスをするという訳では、ないので……。お仕事ですし……ですから、あの……。」
 気持ちを吐露する毎に段々と落ち込んできたのか、春歌の声は小さく尻すぼみになっていき、最後まで言い終わらないうちに、春歌は顔を俯かせて黙り込んでしまった。
 トキヤは春歌が抱きしめていたクッションをそっと奪い取ると、邪魔にならないように自分の後ろへと置いた。トキヤの顔を見つめている春歌の顔は、「何だろう?どうしてクッションを取られたんだろう?」と言いたげに、キョトンとした顔をしている。
「春歌。」
 トキヤは春歌の小さな手をそっと取ると、自分のズボンのポケットからある物を出し、華奢な手の上に静かに置いた。
 銀色のラメが入った、白い細身の箱。箱の表面には、さっきTVの画面で最後に見た「SteaL」という文字が、流れるような流麗な文字で黒く表記されている。
「あ、あの、これっ……!」
「先行発売の限定色だそうですよ。スポンサーの方から頂きました。君にプレゼントします。」
 トキヤは慣れた手つきで箱を開けると、さっき見たムービーのように、キュッと蓋を取ってスティックの下の部分をくるりと回転させた。
 春歌の目の前で、綺麗なローズピンクの口紅の芯が、するりと長く伸びた。
「綺麗な色…ですね。」
「ええ。限定色であるこのローズピンクのリップには、特別にバラの香料を強く配合しているそうですよ。」
 甘い声音で説明された通り、スティックから伸びる芯は五月の太陽の下で華やかに咲き誇るバラのような、可憐でありながらも美しいピンク色だった。口紅から漂う香りはローズティーのような上品さがあり、香水のような強いもの…というよりは、コロンやポプリに似た柔らかいものだった。
 トキヤの手にしているスティックの先が、呆然としている春歌の小さな唇をするりと撫でていく。春歌がハッと我に返る頃、彼女の小さな唇は綺麗なローズピンクに彩られていた。
 近くに置いてあった鏡をトキヤから渡され、春歌は初めてプレゼントされた口紅と、その色をつけている鏡の中の自分と、満足そうに笑っている恋人の顔を戸惑いながらも順番に見た。
「あ、あの……頂いてしまっても、良いんですか……?」
 この期に及んで今更な質問をする春歌に、トキヤは半分呆れたような顔で「ええ」と苦笑すると、口紅の蓋を閉めて春歌にそっと手渡した。
「そもそも、私が女性の口紅をつける理由なんて、ある筈がないでしょう?まぁ…状況によっては、なくもないですが。それでも、ほんの少し移る位で―――あぁ…そうですね。この口紅なら、その心配もありませんね。」
「はい?」
 一人で納得しているトキヤに、まるで分かっていない春歌がキョトンとした顔で「一ノ瀬さん?」と声をかける。トキヤは、端正な顔で恋人に向かってにっこりと笑いかけると。
「さっきのCMのナレーションで、私が言っていた事ですよ。この口紅は、キスをしても落ちないそうです。他の口紅なら私にも移るかもしれませんが、これなら大丈夫かもしれませんね。」
「あぁ、そうですか……って、えっ!?」
「私自身、まだ一度も試した事はありませんから、分かりませんが。そうですね…せっかくですから、今から試してみましょうか。」
「えっ…えぇっ!?」
「広報の方によると、何度キスをしても口紅は落ちないそうですよ。じゃあ、どれ位したら落ちるか―――調べてみましょうか。」
「あ、あのっ…!?い、一ノ瀬さんっ…!」

 嬉しそうな、楽しそうな顔で距離を縮めながら覆い被さってくる上機嫌の恋人に、春歌は真っ赤な顔でオロオロしながらも、結局抗う事は出来ず。
 その夜、トキヤが満足感を得るまで唇を盗まれた春歌は、「頂いた口紅は折角だけど隠しておこう」―――そう心に決めるのだが。
 わざと口紅をつけずにいる事をすぐにトキヤに気付かれてしまい、愛しい恋人には抗えない事を再認識させられる位に、甘く手痛いお仕置きをされる事になるのだが―――それは、また別の話。


-了-

――― あとがき ―――
トキヤ君が女性用のリップスティックのCMに選ばれ、その先行の映像を見せてくれました~というお話です。
まぁよくある「落ちない口紅」ってやつなのですが、トキヤ君のナレーションでより効果的なキャッチコピー…と悩み、あのような言葉になりましたw
CMの風景は、出来るだけ女性側の顔がカメラからは見えない…という演出にしてみたつもりなのですが、表現しきれてないかもしれません;;;すみません;;;
最後は、まぁ…トキヤ君ですからね。あんな感じでいっぱい満足するまでキスをする…という事をしでかしそうなので、あのようなオチになりました;;;

タイトルの「Intoxication」は、「酔いしれる、興奮する、夢中になる」という意味なんだとか。トキヤ君が唯一安心できて夢中になる女性「春歌ちゃん」の事を意味しています。
サブタイトルである「君の声、君の名前」は、「彼が酔うもの」という意味を込めました。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
Pixiv: 4211441


※現在、WEB拍手は3作品です。
龍鈴(薄桜鬼)/原千(薄桜鬼)/
薬研&光忠(刀剣乱舞)

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