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2015/08/29

その座を手に入れるよりも

薬研藤四郎君のお話。薬研君・光忠さん・オリジナル審神者(性別不明)が登場します。



「ねえ、薬研君」
 皆で夕餉をとった後。
 厨の洗い場に立って片付けをしていると、俺っちの右隣に立って洗い物を手伝ってくれている御仁から、低い声で遠慮深そうに名を呼ばれた。
 大皿についている真綿みたいな白い泡を冷たい水道水で洗い流しながら、声をかけてきた方向へくるりと視線を向けてみる。
 俺っちが右斜め上へと見上げたその先には、右目を黒いアイバッチで隠した色男が、開いている方の左目で俺っちの顔をじっと見つめていた。
 柔らかい琥珀色の瞳は、いつも通り穏やかな感じだったが……ちっとだけ、暗い色を帯びているように見えた。
(……なに、捨てられちまった子犬みたいな顔をしてんだよ)
(俺っちよりもずっとでっけえから、子犬って訳でもねえか?)
 色男を犬に例えるなら、キリッとしたドーベルマンとか、毛並みを綺麗に整えたシェパードだ。
 精悍な顔つきの大型犬が、飼い主にこっぴどく叱られちまった時みたいに、色男はしょんぼりとした顔で広い肩を落としている。
 その姿が何とも微笑ましいものに思えて、俺っちは噴き出しそうになるのを必死で堪えた。
「何だよ、燭台切の旦那。さっき茶を出しに行った時、大将に叱られでもしたのか?」
 今にも笑い出したくて、ひくひくと頬が引き攣っちまう。
 俺っちは何でもねぇって面を貼りつけながら、洗い終えた大皿を「ほらよ」と手渡した。
 色男は、ぱちくりと琥珀色の瞳を瞬かせて一瞬だけきょとんとした顔をすると、「……違うよ」と苦笑してから、手に持っていた真っ白い布巾で大皿を丁寧に拭き始めた。
「今日の昼間……君と二人で、主に呼び出されただろう?」
「……ああ、そうだな」
 吹き終えた大皿を、右側の壁にくっついている食器棚にしまって、俺っちの隣に戻って来た色男は俺っちの様子を伺うようにちらっと一瞬だけ視線を向けると、ふっと視線を落として項垂れた。
(その事、か)
(まあ、旦那がこんな顔をするネタといったら、それ位しかねえよな―――)
 心の中で納得した俺っちは、考えをまとめる為に黙って洗い物の続きを始める。
 俺っちに倣って、隣の色男まで口を噤んじまったおかげで、厨の中はしん、と静まり返っちまった。



 色男の名は、燭台切光忠。
 俺っち―――薬研藤四郎と同じ付喪神"刀剣男士"の一人で、右目に付けられた黒いアイバッチがトレードマーク。
 細身の割には、きっちりと筋肉のついた身体によく似合う黒スーツに、今は、厨で洗い物やら片づけをしているから身に付けちゃいないが、いつもは身体のあちこちに黒い武具を纏っている。
 青みがかった黒い髪と、キラキラした琥珀色の切れ長の左目が印象的な、所謂伊達男って奴だ。
 隻眼と黒いアイバッチの所為か、一見ちっと近寄り難い雰囲気を持っちゃいるが……これがなかなかどうして、意外にも中身は好青年だったりする。
 いつも身なりを気にする洒落者で、短刀とか大太刀とか関係なく、相手が誰でも柔らかい物腰は変わらない。
 かちっとしたスーツを着ているから、さぞかし馬鹿丁寧な話し方をする御仁なのかと思いきや、口調は意外にも結構砕けている方で、気性も優しい。
 更に得意技は"家事"で、中でも料理の腕はピカイチときてる。
 料理に関しちゃ、俺っちの腕も悪くねぇ方だって自負しちゃいるが……燭台切の旦那とは、比べ物にもならねえ。
 悔しいが、"完敗"だ。

「なぁ。燭台切の旦那は、大将の決めた事に、不満でもあるのか?」
 食器を洗い終えて、使い終えた盥を洗いながら俺っちがまるで明日の天気でも聞くみたいに何でもない顔で聞くと、旦那はぎょっとした顔で「違う、そうじゃない」と、慌てて首を左右に振った。
「主が……僕達の事とか本丸の事をよく考えて、決めた事だからね。その事については……不満も文句もないよ。そんなもの、ある筈がない」
「そっか。じゃあ別に、何の問題もないだろ」
「でも……」
 旦那は、珍しく煮え切らない態度で視線を左右に這わせている。
 自分から"その事"を口にしようとしないあたりが、この旦那の優しいところだ。
 俺っちは、蛇口をキュッと捻って水を止めると、旦那が立っている右側へと身体ごとくるりと向き直った。
「あのな、燭台切の旦那。大将から直々に、"厨番"の"頭"を命じられるなんて……すげえ名誉な事だと、俺っちは思うぜ?」
「……!」
 旦那は、俺がきっぱりはっきりと言い放った言葉に、はっとした表情で固まった。


 今日の昼間―――俺っちと燭台切の旦那は、大将の部屋に呼び出された。
 俺っちは、大将が"審神者"として本丸に来て数日も経たないうちに顕現してからずっと、大将の身の回りを任せてもらっている。
 蜂須賀の旦那や、和泉守の旦那、鶴丸の旦那……次々に名の通った刀剣男士が顕現したが、面倒見の良い粟田口の太刀、一期一振―――俺っち達が「一兄」と呼んで慕っている長男だ――は、まだやって来ない。
 寂しがり屋、甘えん坊、やんちゃ……何人もいる俺っちの弟にあたる"藤四郎"を始めに、この本丸に居る短刀達は、それなりに世話がかかる。
 正直なところ、俺っちだけじゃ何かと行き届かねえところが出てきちまうかもな―――そんな事を思っていたある日、燭台切の旦那が顕現した。
 にこにこ笑っていて、誰にでもきさくで。
 格好良さを追求している割には、絶対に驕ったりなんかしない。
 甲斐甲斐しくて、世話焼きで、誰に対しても優しい燭台切の旦那は、すぐに皆と打ち解けていった。
 特に大将は、旦那が来てくれた事をすごく喜んで……俺っちに「これで、薬研ばかりに本丸の事で手を焼かせなくて済む」と、嬉しそうに笑った。
 その気遣いが嬉しかったのは、事実だ。
 でも……何となく「寂しい」と思っちまった。
 大将は、もう俺っちを頼ってくれなくなっちまうのかなって……少しだけ卑屈に感じた事もある。
 だが、大将は"皆の大将"で、俺っちは大将の短刀だ。
 必要とされた時に、万全を尽くす―――もしくは、それ以上の働きをする。
 それが、大将の期待に応えるただ一つの方法だと……俺っちはある出来事を切欠に、心からそう思えるようになった。



 一月……いや、二月前位か。
 俺っちが部隊長として出陣した戦場で、いきなり"検非違使"が乱入してきやがった。
 大将は本丸に待機していて、直に采配をふる事は出来ない。
 部隊長の俺っちの采配で、ボロボロになりながらも何とか勝利をもぎ取って……皆がやっとの思いで本丸へ帰還すると、本丸に居た他の奴等と一緒に、大将は部隊の帰りを待っていてくれた。
 本丸の入口に到着した途端、重たい門がガッと一気に開いて、その隙間から飛び出してきた大将に抱き付かれた時は、そりゃあびっくりしたもんだ。

「薬研。君は、本体は確かに短刀だ。だが顕現した"君自身"は、もう"短刀"の"器"をとうに越えている。君のような"刀剣男士"が、この本丸に居てくれる事を……とても誇りに思うよ」

 大将は、本当に嬉しそうな顔でそう告げて……俺っちの頭を撫でてくれた。
 あの時―――大将は、俺っち"薬研藤四郎"を誇りに感じたって……そう言ってくれた。
 "誉"をとった事よりも何よりも、その言葉が嬉しかった。
 大将がどんな思いで、"誰"をどの"座"に任ずるとかなんて、もう正直どうだって良い。

(だからよ)
(燭台切の旦那が、そんな顔をする必要なんか……これっぽっちもねえんだって)
 俺っちは、神妙な顔つきで項垂れる燭台切の旦那に向かって「そんなしけた面をしてたら、色男が台無しだぜ?」と、笑いかけた。
「薬研君……」
「なあ、旦那。確かに俺っちは、旦那よりも先に顕現したし、大将の身の回りの世話をしてきた。でも旦那……よーく、思い出してみてくれ。大将が、最っ高に良い顔で『美味いっ!』って笑うのは、誰が飯の当番をしている時だ?……俺っちじゃなくて、燭台切の旦那の料理を食っている時だぜ?」
「……!」
「俺っちはさ、大将が笑っててくれりゃあ、それだけで十分なんだよ。だから俺っちは、喜んで旦那の補佐に回らせてもらうぜ。明日からは二人で、大将に美味いもんを目一杯食わしてやろうぜ。ずっと……毎日な」
 俺っちが燭台切の旦那の肩をぽん、と軽く叩くと、旦那は琥珀色の瞳をゆらりと揺らしてから、くしゃりと笑って「ありがとう、薬研君」って、弟達が向けてくるような無防備な顔で笑った。
(ったく……色男が、餓鬼みてえな顔して)
(格好良さをいちいち気にしている割には、意外と可愛いところがあるんだよなあ)
 どっちが年下なのかわからねえな……そう思いながら、俺は旦那の涙を我慢しているような笑顔に、思わず笑っちまった。
「別に俺っちは、礼を言われるような事はしちゃいねえよ。さて……と、片付けも終わった事だし。どうする……"頭"?」
 燭台切の旦那は、俺っちから"頭"と呼ばれて琥珀色の瞳を細めて照れ臭そうに笑うと、薄い唇にそっと手を添えながら「じゃあ、明日の朝餉の献立の確認でもしようか」と提案してきた。
「おう!」
 俺っちは、本当に素直な気持ちで、"頭"に向かって強く頷いた。
 "座"に腰をすえる事よりも、俺っちにはずっと大事なもんがある。
 だから……それだけで、十分だ。
 大将の"誇り"になれたなんて、"刀剣男士"冥利に尽きるってもんだろ?
 何てったって俺っち―――短刀"薬研藤四郎"は、その刃を柄まで深く貫き通す、文字通りの"懐刀"なんだからな。
 なあ、そうだろ?
 たーいしょ?



-了-

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
Pixiv: 4211441


※現在、WEB拍手は3作品です。
龍鈴(薄桜鬼)/原千(薄桜鬼)/
薬研&光忠(刀剣乱舞)

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