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2015/08/29

君が手を伸ばす先に-I hope your happiness-

沖千√。沖千←崎。山崎さん視点。死ネタ。シリアス。


(―――あぁ、また行ってきたのか)
 離れの前を通りかかると、あの人の部屋から彼女が出てくる姿を見つけた。
 俺は咄嗟に、近くにあった植え込みの影に身を隠す。何となくだが、二人の様子を伺いたくなった。
「…失礼しました。」
「もう、来なくていいから。」
 部屋の中から聞こえる、冷たい声。
 いつもの、笑みを含んだ口調は欠片もない…極めて冷淡な声音だ。
「いえ、夕餉もお持ちします。」
「…そう。勝手にしたら?僕は食べないけど。」
「はい。では、その時にまた来ます。失礼しました。」
 彼女は部屋の主に礼儀正しく挨拶をすると、そっとお辞儀をして戸を閉めた。
 膳を見て小さく溜息をついたところを見ると、今回も大した成果はないようだ。
(…今日も、駄目だったか)
 俺は、彼女が気付かないように軽く舌打ちをした。

 病が重くなり、幹部の部屋がある棟から離れに部屋を移して床に伏せるようになってから、あの人は食事をとろうとしない。
 膳を持っていってもまともに手をつける事すらせず、部屋に訪れる彼女にああやって辛辣な態度をとるだけだ。
 今のあの人を説得出来る人は…いない。
 あの人が副長の言葉を素直にきく筈はないし、他の隊士に対してもそれは同じ事だ。
 頼みの局長も、多忙である事を理由に……副長から彼の部屋へ行く事を禁じられている。
 彼自身も、わざと邪険な態度を振る舞ってみせては、誰も寄り付かせないようにしていた。
 日毎に身体を弱らせていく虎に、どうやって近づけばいいのか。
 心の荒んだ虎を救うには、どうすればいいのか。
 今の新選組の中で、その答えを見い出せる者は―――誰もいない。

 普段とは違う、重たくゆっくりとした足取り。
 件の部屋から遠ざかって廊下の角を曲がった途端、彼女はその場に屈みこんだ。
 膝を抱えるようにして俯いたまま、顔を上げようとしない。
 結い上げた髪と華奢な肩が、小さく震えているのが見えた。
 …あの人の前では、泣かないようにしているのか。
 むしろ、誰にも泣き顔を見せないようにしているのか。
 己よりも、他人の気持ちを慮る彼女の事だ。
 当人であるあの人や幹部達、仲間である隊士皆の方が辛いだろうと、そんな気を回しているのかもしれない。
 出来る事なら、彼女の気持ちを尊重してやりたかったが、これ以上はもう良くないのではないだろうか。
 彼女にとっても…あの人にとっても。
「…雪村君。」
 俺が声をかけた途端、彼女はびくりと肩を震わせて慌てて涙を拭うと、床に置いていた膳を取って立ち上がった。
 彼女が着物や髪を正す頃合いを見計らって、植え込みの影からゆっくりと姿を現す。
「あ…山崎さん。お疲れ様です。」
 目を真っ赤にさせたまま、彼女は何事もなかったかのように振舞って近づいてくる。
 まだ湿っている睫と、頬に微かに残っている涙の跡に、ちくりと胸が傷んだ。
 俺は廊下に上がると、彼女が手にしている膳に視線を落とした。
 病人の彼にも食べやすいように作られた膳は、綺麗に鎮座されたままだ。
 無論、匙を取った気配すらもない。
「…また、か。薬は?」
 彼女はきゅっと口を引き結ぶと、目を伏せてゆっくりと頭を振った。
「食事も取らない、薬も飲まない…か。あの人が我が侭なのは、変わらないな。」
「そんなんじゃありません!沖田さんは、ご自分が病人だと認めたくないんです。認めてしまったら、新選組の役に立てなくなるって!そう、考えてっ…!」
 俺の皮肉に、彼女はさっと顔を上げて珍しく反論してきた。
 驚いてじっと見つめている俺を見て我に返ったのか、彼女は顔を赤らめながら俺から視線を逸らすと、「すみません」と頭を俯かせた。
「…いや、済まない。俺も言い過ぎたようだ。それより、雪村君。あの人の事は俺に任せて、君は少し休んだ方が良いと思う。他の雑務をこなしながら、彼の看病をし続けるのは無理だ。このままでは、君まで倒れかねない。」
 俺の言葉に、彼女は気まずそうに瞳を伏せて視線を床に這わせた。
 彼女は、他の雑務をこなしながら彼の看病をしている。
 今の新選組は、様々な理由で入隊・除隊が激しい。
 その中でも彼女は、既に古株に近い位置付けとなっていた。
 使える人手が少ない事も手伝って、彼女は昼夜関係なく隊士達の面倒を見たり、屯所内の雑務を担っている。
 看病の前後は、隊士達に伝染らないようわざわざ着替えるという配慮も忘れずに。
 だが、これ以上は無理だ。
(むしろ、俺が見ていられない―――)
「…いえ、山崎さん。沖田さんの看病は、私にやらせてください。」
 彼女は凛とした声で、はっきりと言った。顔を上げた彼女の瞳に、もう涙は残っていなかった。
「隊士の方が看病して、病が伝染りでもしたら大変です。幸い、私は…新選組の隊士ではありませんから。もし病が伝染っても、皆さんにご迷惑がかかる事はありません。」
 彼女はとんでもない事を口にすると、にこりと柔らかく微笑んだ。
「…っ、そういう問題ではないだろう?君だって、お父上を…」
「はい。私は、雪村鋼道の…医師である父の娘です。自分の周りの方が病を患ったからといって、その方に背を向ける事は出来ません。」
 強い意思のこもった彼女の言葉に、俺は愕然とした。
 出会った当初に、こんな強さがあっただろうか?
 いや…か弱く見えたのは、最初だけだったかもしれない。
 実際、華奢な肩を小さくさせて、怯えた瞳を見せていたのはほんの数月の間だけだった筈だ。
 さすがに「屯所内の雑務をやらせてくれ」と副長に直談判したと聞いた時には、「見た目と違って意外と逞しい女性だな」と感じたが。
「だが、雪村君。今の彼は…」

―――「君には、辛く当たるだろう?」

 …とは、聞けなかった。
 徐々に命を削られ、壊れていく自分の姿を見せたくなくて。
 病の穢れが彼女を蝕まないように、わざと冷たい言葉で彼女を傷つけて遠ざけようとしている彼の優しさを、俺は知っている。
 あの人が、彼女の事をどう思っているのかなど、最初から分かりきっていた。
 「煩わしい」と、「面倒だ」と口では冷たく突き放しているのに、その反面、分かりにくい優しさで彼女の反応を見ては、彼女に視線を向けられる事を心の奥底で楽しんでいた。
 彼女は彼の辛辣な態度にもめげず、真っ直ぐな瞳で真正面から向き合っていた。
 どんなに冷たく突き放しても、変わらず傍らにいようと、近づいては屈託なく笑いかける。
 あの直向きさに、心が傾かない筈がないだろう―――。
「沖田さんは…本当は、とても優しい方です。」
 彼女はふわりと儚げに笑って、小さくだがはっきりと俺に告げた。
(全て、承知の上…か)
 俺は心の中で、喩えようのない息苦しさと共に安堵の溜め息を漏らした。


『山崎。今日から、総司の看病は千鶴に任せる事にした。食事はあいつに持たせる。何かあったら、助けてやれ。』
『…お言葉ですが、副長。彼女には、荷が重すぎるのではないでしょうか。何より、もし…』
 彼女に、あの病が伝染りでもしたら。
 考えたくもない想像に、思わず言葉を飲み込ませて俺は視線を外す。
 そんな俺の様子に、副長はくすりと笑った。
『…そうか。いつの間にか、お前も絆されちまったようだな。』
『そういう訳ではっ…!』
『これは、あいつ―――千鶴が、てめぇで言い出した事だ。』
 副長は狼狽しながら言い訳をする俺を無視して、それまで動かしていた筆を硯の近くにあった筆置きに置いて、ため息混じりにそう告げた。
『…雪村君が?』
 確かに、優しい彼女なら言い出しかねない。
 だが、医師である父の手伝いをしていた彼女が、あの病を軽視したり楽観視するとはとても思えない。
(何故、自ら……?)
『…でっけぇ目で、俺を真っ直ぐに見据えてよ。『沖田さんは、私が死なせません。これ以上、苦しむ人が増えていくのは嫌なんです』…だとよ。あんな目で、そう懇願されちまったら…無下になんか、出来る訳ねぇだろ?』
 形の良い眉を顰めて、役者にも負けないその端正な顔が、くしゃりと切なげに歪んだ。
『まったく、江戸の女はこれだからな。頑固で、潔くて…優しくてよ。さすがの俺も、勝てねぇってこった。』
 そうやって軽く笑いながら、窓の外を見る紫の瞳が微かに揺らめいた。
(俺が、彼女に…絆された?)
(副長…貴方だって、同じじゃないですか―――!)


「山崎さん?」
 心配そうに問いかけてくる彼女の声に、はっと我に返る。
 俺は逡巡していたふりをして、軽く溜め息をついた。
「…分かった。沖田さんの看病は、君に任せよう。でも、くれぐれも無理はしないように。疲れたら、必ず休んでくれ。君まで倒れてしまっては、元も子もない。」
「はい、ありがとうございます。」
 安心したようにほっと息をついて、彼女はふわりと笑った。
 あぁ…こんな風に、いつも笑っていてくれればいい。
 曇りのない瞳で、いつまでも笑って―――。



「……さん!山崎さん!!」
 すぐ近くで、涙を含んだ彼女の声が聞こえる。
 ゆっくり目を開けると、山歩きで汚れた着物に身を包んだ彼女と、床に伏す前と同じ精悍な顔をした洋装の彼の姿があった。
「よかった…!沖田さん、気が付きましたよ!!」
 屈み込んで、大粒の涙を零して濡れた彼女の大きな瞳には、満身創痍といった傷だらけの忍装束の俺が映っていた。
 木の幹に預けていた身体を起こそうとした瞬間、脇腹のあたりに今まで感じた事のない激痛が俺を襲う。
 思わず顔を顰めて痛みを堪えながら手をやると、丸く穴が開いた傷口から、ぬるりと粘着質のある液体が止めどなく流れ出ている事に気付いた。
 あぁ…そういえば、新政府軍に見つかった二人を守ろうとして、それから……。
 俺は乱れ始めた呼吸を整える為に軽く深呼吸をすると、彼女の後ろで周囲を警戒して気を張っている彼に声をかけた。
「…沖田さん。」
「何。」
「あの人を…土方さんを、頼みます。」
 彼は一瞬だけ萌黄色の瞳を見開いたかと思うと、黙って俺を見つめてきた。
 聡い彼の事だ…必ず分かってくれる。
 確かに俺との折り合いは、どう贔屓目に見ても良いとはいえないものだった。
 むしろ彼には、困らせられた事の方が多かったと思う。
 だが、いざという時の彼の真摯な態度は…いつも信頼に値するものばかりだった。
 彼は暫く黙り込んでいたかと思うと、はぁっと大きく息をついて、不機嫌そうに俺を見つめてきた。

「承諾しない。でも、君の頼みを断りもしない」

 そういう…瞳だった。
(本当に…彼は、変わったのだな)
(彼女の、優しい心に触れて―――…)
「山崎さんは、どうするんですか…?」
 不安そうな、心配そうな彼女の表情。
 …頼むから、そんな顔をしないでくれ。
「俺は…ここで休んでいきます。少し、喋り疲れました。」

 君に、「傍にいて欲しい」と…言いたくなるだろう―――?

 俺は、努めて口の端を上げて無理に笑顔を作ると。
「…土方さんに、伝えてください。少し遅れますが…必ず―――合流します、と。」
 届けて欲しい…「願い」を告げた。
「…分かった。行くよ、千鶴ちゃん。」
「沖田さん…!」
 彼女はおろおろした様子で、俺に背を向けて歩き出そうとする彼と、木の幹に貼り付けたように身体を預けている俺を交互に見る。
「…雪村君。」
 俺は、彼女の小さな手を掴んだ。
 自らの意思で、彼女に触れたのは…初めての事だった。
 華奢な指とふんわりとした柔らかな感触に、思わず笑みが零れた。
 君の明るさと優しさに、俺はどれだけ癒され、励まされてきただろうか。
 おそらく隊にいた誰もが、そう感じていたに違いない。
 俺は、君が生きて…笑ってくれるだけでいい。
 ただ、それだけで。
「…沖田さんの事を、よろしく頼む。」
 俺がそう言って微笑むと、彼女は眉を八の字に曲げて、小さな両手で俺の手を包み込んだ。
 涙を滲ませながらも、毅然とした顔で「はい」と聞こえた彼女の声は、あの時と同じく強い意思を秘めていた。
 ぼやけた緑色の視界で、二人の後ろ姿が枝を掻き分けていく音と共に遠ざかっていく。
 指先が冷たくて、だんだんと感覚が鈍くなる中。
 俺は、次第に重たくなってくる瞼をゆっくりと閉じた。

 あぁ…願わくば。
 彼ら二人の絆が、切れてしまう事のないように。
 君が手を伸ばす先に、君の願う幸せがありますように―――。


-了-


――― あとがき ―――
このお話は、藤田麻衣子さんの「君が手を伸ばす先に」という曲をモチーフにしています。

「かなわぬ恋」の曲なので、労咳の身に苦しむ沖田さんと、彼から冷たくされても献身的に看病する千鶴ちゃん、近くで二人を目の当たりにして思い悩む山崎さん…というお話になりました。

山崎さんが今わの際に遺す「土方さんを頼む」という言葉ですが、沖田さんの心情を考えると安易に「分かった」とは言わないかもしれないなぁと思い、視線だけで返事を出してもらって、その後の「必ず合流します」の遺した願いは、「分かった」ときちんと了承してもらいました。
お互い複雑な思いがあるだろうなと思ったので、すんなり「分かった」とは言わないんじゃないかと思いまして。

サブタイトルの「I wish your happiness(君の幸せを願う)」ですが、山崎さんならひっそりと心の中で想いを秘めていそうだなぁと思ってこのタイトルにしました。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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