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2015/08/29

心の奧に宿りしもの -It's too obsessed-

幕末設定。風→千。風間家の本邸にて、彼が千鶴ちゃんに執着する理由の話。



それは、人間達で賑わう京から遠く離れた、自然豊かな場所にあった。
 盆地をぐるりと囲む三方は、高々と聳え立つ山々が美しい稜線を描いていた。
 唯一開かれている筈の一方は、底が見えない程に深い渓谷がぱっくりと口を開けている。
 山麓に長い間住み慣れた人間であろうとも、到底辿り着けない程の幾つもの難所が、外界からの侵入を完全に遮断していた。
 人間の手垢がついていない所為か、その土地は他とは比ぶべくもない程、豊かな場所だった。
 清浄な空気と、実り豊かな新緑が美しい森林地帯。
 その森の奥から沸き出でて流れる、名もなき名水の川と、なだらかで豊かな平野部。
 その平野の中央には、人間の世界で言う帝の内裏…とまではいかずとも、上流貴族の屋敷の本邸が軽く二つ三つは入りそうな、美しい町―――「鬼の里」があった。
 綺麗に整地された区画に立ち並ぶ建物は、どこか雅な風情を醸し出していた。
 京の町並によく似たようにも見えるが、行き交う人々はどこか人間とは違う不思議な空気を持っている。
 町の中をまるで泳ぐように踊るように雅やかに歩く里の者達の姿は、麓の人間が目の当たりにしたら夢の世界と見間違いかねない程に幻想的な光景だった。
 その町の一番奥で、見下ろすように高い塀に囲まれて建つ、優美な大屋敷。
 この「鬼の里」の長でもあり、西側の鬼を束ねる風間家の本邸である。
 当主の名は、風間千景。
 妻も子もおらず、未だ独り身の為「半人前」と影で囁かれる事もあるが、海千山千の年寄り達を黙らせる程の辣腕で名を轟かせる、若き青年の頭領だった。


『千景様。こちらの文机は、この方角でよろしゅうございますか?』
「ああ、そこで良い。…おい、貴様。そこの化粧台の位置は、鏡と逆だ。直せ」
『も、申し訳ございませんっ…!』
 女官達は、当主からの冷涼な命令に怯えながらも、指示通りに動いた。
 無言で仕事をする女官達は、当主からの刺すような怜悧な視線に耐えながらも、脇目も振らずに目の前の勤めに没頭している。
「ふん…まぁ、良いだろう」
 己の想像通りに、部屋の内装が夏のものから秋のものへと変わっていく様を、彼は満足そうに眺めた。
 涼しげな赤き瞳の奥には、この場にはいないが部屋の主となる者の幻でも見えているのだろう…視線が緩やかに左右に動いている。
 その視線は、他の者には決して注がれない…彼のものとは思えない程に柔らかなものだった。
「よぅ、風間」
 当主の名を気軽に呼んだその声は、さっきまでの淡い空気を針で紙風船でも割るかのように一気に突き破った。
 気分を害された彼は首だけを振り返えらせると、己の背後から声をかけてきた相手に「ふん…貴様達か」と、冷たく返事をした。
 浅黒い褐色の肌に、つり上がり気味の切れ長の瞳。
 細身ではあってもしなやかな筋肉のついた身体には、高く結い上げた波のように緩やかな髪がふわりと揺れている。 男の名は、不知火匡。
 長州に組する、西の鬼の一人である。
「申し訳ありません、風間。止めたのですが…」
 不知火の隣にいた顎鬚を生やした濃い茶色の髪の男は、小さく頭を下げた。
 天霧九寿。
 風間と同じ薩摩に組する、不知火と同じく西の鬼の一人である。
「…貴様等には、部屋で待つように言った筈だが。おい、そこの貴様。よもや、俺様の言伝を忘れたのではあるまいな?」
 じろりと二人を睨みつけた直後、彼は視界の端に映りこんだ女官へと冷たい視線を向けて詰問した。
 女官は小さく肩をびくつかせると、「いえ、そのような事は決して…!」と、恐れ慄いた表情で首を二度三度横に振った。
「おいおい風間、女官を苛めてんじゃねぇよ。部屋でじっとしているなんざ、俺ぁ性に合わねぇんだ。酒を飲んで待つのにも飽きたからよ、お前が何をしているのか、ちょっと様子を見に来てみたんだよ」
 不知火は辟易した顔で彼を咎めると、部屋の中にどかどかと入り込んできょろきょろと眺め回した。
「へぇ…あの女鬼を迎える為の準備か。」
「季節も、そろそろ秋に変わり始める頃だからな。こういう事は、早めにやっておくべきものだ」
 不知火の態度にも慣れているのか、彼は不知火の方へちらりと一瞥だけすると、すぐに女官達に向かって「さっさと仕事に戻れ」と指示を出した。
 女官達は「はい」と小さく返事をすると、また仕事へと戻っていく。
「…彼女は「美しい」というよりも、「可憐」という言葉が似合う女性ですからな。この部屋の色合いは、実によく似合いそうです」
「ふん…お前もそう思うか、天霧?」
「ええ」
 己の見立てた部屋の内装を褒められ、彼は気分良く天霧の言葉に答えた。
 天霧も、この部屋の主となる予定の相手とは、幾分かは見知った仲である。
 おべっかではなく、純然たる感想だった。


『千景様。それでは、失礼致します』
 仕事を終えた女官達は彼の足元に侍ってお辞儀をすると、衣擦れの音をさせながらそそくさと部屋を出て行った。
 紅葉の葉が描かれた襖に、銀杏の葉の色をした几帳(きちょう)。
 綺麗に張り替えられた真っ白な障子戸に、細やかな細工が施された美しい調度品の数々。
 張り替えられたばかりの畳は瑞々しさを残す青さがあり、仄かにいぐさの香りが残っている。女官達が「部屋の主の為に」と気遣って焚いた香は、部屋の中の空気をふんわりと甘く色取らせていた。
「…天霧、不知火。半刻後、新選組の屯所へ向かう。折角、部屋の装いも新しくしたのだ…今宵は、我が妻を迎えに行く」
「はっ」
 にやりと口の端を歪めて笑う彼に、天霧が小さく頭を垂れて応えた。
 その隣にいた不知火は、射抜くような視線でじっと彼を見つめて黙っている。
「…なんだ、不知火。俺様のやる事に、文句でもあるのか?」
 己の視界に入っている男の不服そうな表情に、彼は赤い瞳を細めて詰問した。
 不知火は視線をゆっくりと視線を動かすと、眉を顰めながら口を開いた。
「なぁ…風間。一つ、聞いても良いか?」
「…何だ」
 彼は面倒臭そうな顔をしながらも、腕を組み替えて不知火に「早く言え」と促した。
 天霧は、黙って二人のやり取りを見守っている。
 口を挟むべきではない―――そう察しての行動だった。
「俺ぁ別に、お前がどの女鬼を娶ろうが、一向に構わねぇ。俺と違ってお前は風間家の当主であり、西の鬼の頭領様でもあるんだからな。地位がある分、娶る女に関して色々注意しなくちゃいけねぇってのも、分からなくもねぇよ。だがな、何であの、雪村家の女鬼を付け狙う必要があるんだ?雪村家は、人間の世界に移り住んで久しかった一族で、もう縁者も殆ど絶えちまっているじゃねぇか。あの女鬼よりも、八瀬の鬼姫の方がよっぽどお前の眼鏡に適っているんじゃねぇのか?鈴鹿御前の末裔っていう、由緒正しきお家柄なんだしよ」
 不知火の疑問に、天霧ははっと目を見張ってちらりと視線を移すと、彼は表情の読めない顔のまま無言だった。
 
 確かに、不知火が疑問に思うのも不思議ではない。
 雪村千鶴が唯一の後継となっている雪村家は、由緒正しき東の鬼の頭領の一族だが、人間達の手によって鬼の里もろとも滅ぼされてしまっている。
 跡継ぎとして許される直系の生き残りは、千鶴のみなのだ。
 千鶴と唯一血を分けた双子の兄・薫は、今も生存して五体満足ではあるが、南雲家に養子縁組みをさせられている。
 お家再興の為に雪村家へ戻る事など、到底許される筈もない。
 今の雪村家には、南雲家を黙らせられる力など、砂の一粒程もありはしないからである。
 雪村の直系以外の生き残りも確かに生存はしているが、他家に吸収されて何とか難を逃れていた者達である。
 今までの生活をかなぐり捨ててまで、雪村家再興の手助けをしてくれる筈もない。
 それでなくとも、薫と同様に庇護している他家の鬼達が、それを許さないであろう事は容易に推察出来た。
 東の鬼の頭領亡き後、力の在る家同士が互いを牽制しながら生き残りをかけているこの状況下で、雪村家再興の後押しをしてくれる後見人など、見つかる筈がない。
 逆に「嫁」として降嫁させられ、他家の権力争いの手駒の一つとして利用されるのが関の山である。
 あの非力で無力な鬼の娘は、血筋のみが高貴なだけの、いわば「はぐれ鬼」同然の鬼姫なのだ。
 それに比べ、由緒正しき鈴鹿御前の末裔という高貴な血統であり、生まれながらに「八瀬の鬼姫」として厳しく育てられ、鬼の家としての財力、知力、教養、全てにおいて申し分のない千姫。
 年こそは千鶴とほぼ同年だが、彼女の背後にあるものは雲泥の差だった。
 西の頭領という立場を考えれば、妻として娶る相手は雪村家の娘ではなく八瀬の鬼姫だと、誰もが即時に判断する問題である。
 それでなくとも千鶴は、彼と想い合った恋仲という間柄でもなければ、彼からの申し入れを何度も袖にしているのだ。
 それなのに、何故彼はあの小さな鬼の娘に執着を燃やすのか―――?
 口には一切出さないが、彼を知る者は皆疑問に思っていた。

 彼は小さく息をつくと、赤い瞳を細めながら漸く口を開いた。 
「…確かに、八瀬の娘は申し分ない。器量も品も良く、古き鬼の末裔としての自負もあり、教養も高い。妻として娶るには最良かもしれぬな」
「だろ?なのに、何でまた―――」
「風間!では、何故雪村の娘を妻に選ぶのです!?」
 不知火の「我意を得たり」という言葉よりも早く、天霧は彼の前に歩み出て問い詰めた。
 天霧家は、八瀬とは昵懇の間柄である。
 その所為か、常に冷静な筈も天霧の表情にも、困惑と焦りの入り混じったものがあった。
 彼は天霧の表情を珍しい物でも見たかのように眺めると、小さく笑みを零した。

「簡単な理由だ。俺様の嫁には相応しくない。」

「…はぁ?」
「相応しくない…とは?風間。きちんと、説明をして頂きたい」
 その言葉には納得しかねると言わんばかりの天霧と、意味が分からないと言わんばかりの不知火は、満足そうに笑っている彼に思い思いの言葉を投げつける。
 彼は、そんな二人からの無遠慮な視線さえも楽しんでいるかのように笑うと、「良いだろう」と小さく頷いた。
「確かに、あの鬼姫を妻にする事は、家同士の縁組としても申し分ないものだろう。あの…気位が高く頭の良い娘が、だんだんと俺に手懐られて俺の物になっていく様を眺めるのは、さぞや楽しいものだろうな。だが、古き鬼の末裔であれば当然、頭の切れる手下も多くいる筈だ。妻となる女の実家の顔色を伺う生活など、俺様には似合わん」
「…」
「…確かに、想像出来ねぇよな」
 不知火は、思わず隣にいた天霧にこそこそと耳打ちする。
 天霧も、苦渋に満ちた表情をしながらも無言で小さく頷いた。
「…それに、だ。今は何の後ろ盾もないが、過去に東の鬼の頭領だった雪村家の娘を娶り子を成せば、それのみで東の鬼を手に入れた事になるではないか。実情は違えど、この出来事は我等鬼の歴史としては象徴的なものになろう。そうともなれば、風間家の名も俺様の代で更に高くなるというものだ」
 にやりと口元の端を歪めた後、彼はくぐもった声で不敵に笑った。
 新しく装いを変えた部屋は、もう芳しい香の匂いが消えようとしている。
 日暮れ時の橙色の陽射しが、ゆるりと部屋の中へと差して始めていた。
「でもよ、風間?何だかんだ言いながらも、こうやって季節が変わる度に、わざわざ部屋の模様替えまで出迎えの準備までしてよ。結局は、あの女鬼に尽くしている事になるんじゃねぇのか?」
「…何を見当違いな事を言っている。いつでも妻を迎え入れられるよう準備をしておくのは、頭領としての当然の務めであろう。俺が務めを怠っているという噂話を、影で囁かれぬようにする為のものだ。他意などない」
「いや、そりゃ建前はそうだろうけどよ。でも―――」
 彼の言葉に、不知火が眉を顰めた時だった。
『お話中、ご無礼致します。千景様。そろそろ、ご出立の準備を。お部屋にて、女官達がお召し物を用意しております』
「む…もうそんな刻限か。貴様達、何をぼんやりしている。今宵こそ、我が妻を手中に収めるぞ。さっさと準備しておけ」
 彼は、二人に向かって傍若無人な言葉をさも当然のように投げつけると、呼びに来た女官の前を歩いて上機嫌で自室へと去っていった。
「おいおい…あの女鬼をひっ捕らえに行く為に、わざわざ着替えまでするのかよ」
「いくら納得のいく説明をされても、あの姿を目の当たりにしては、承服する気も起こりませんな」
「ったく…素直に「あの女鬼に惚れちまった」じゃ、駄目なのかねぇ?」
「風間の持つ、里を守る山々よりも高い自尊心が、それを許さないでしょう。…周りからは、一目瞭然ですが」
「……面倒くせぇ奴……」


 何度模様替えをしても、部屋の主が一向に現れる事のない、雅やかな部屋の中。
 男二人は黙って顔を見合わせると、小さくため息をつきあった。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、「ちー様って、どうしてあんなに千鶴ちゃんに執着するの?」という疑問に、自分なりに答えを出してみたくて作ったお話です。捏造です!w

ちー様は、立場もそうですが性格上、本当に本心を見せようともしないでしょうし、自らの優しさを素直に出す人ではないと思ったんですね。なので、「チラリと見える彼の本心とは?」という書き方をしました。
おかげで、格好良くもなければ鬼畜でもない、ちょっと可愛らしい皮肉屋さんなちー様になってしまったような気がします;
鬼側のお話は初めてなのですが、意外と楽しく書けたのでもっと増やしていければいいなと思っています。

タイトルの「心の奥に宿りしもの」は、「ちー様の見えない本心に、そっと隠れ住んでいる存在」という意味です。
サブタイトルの「It's too obsessed」ですが、「執着しすぎている」「とらわれている」という意訳なんだとか。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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薬研&光忠(刀剣乱舞)

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