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2015/08/29

SNOW-届かぬ温もり-

凾館時代。土千。蝦夷地にて、土方さんが物思いにふけるお話。


「お疲れ様です!」
奉行所の入口の門番が、寒さで悴む手を擦るのを止めて、俺に向かってびしっと背筋を伸ばし、くっと腰を折って礼をしてきた。
「…あぁ。寒いのに、ご苦労だな。」
「いえっ!」
予想以上に覇気がこもらなかったてめぇの声に内心驚いたが、兵士は特に何も思わなかったらしい。「では、失礼します」と言って、馬鹿丁寧にお辞儀をしてからてめぇの仕事に戻っていった。小さく左右に揺れる瞳には、若さ故かぎらぎらと力強い光が宿っている。
 俺は、兵士の仕事の邪魔はしねぇでおこうと思い、そのまま奥庭へと通じる小さな道を歩いた。
歩く度に、きゅ、きゅ…と新雪を踏む音が聞こえる。夜もかなり更けている所為か、物音はほとんど聞こえねぇ。
急に、びゅうっと木枯らしが吹いた。近くに生えていた松の木が、降り積もって圧し掛かられた雪の重さに耐えかねて、枝から雪の塊をどさりと振り落とす。何度も繰り返されている事なのか、松の根の近くは雪で出来た小さな丘が幾つも作られていた。
 奥庭は、今日は誰も足を踏み入れてねぇのか、それとも雪が足跡を隠しちまったのか―――まるで布が敷かれたように真っ白だった。足跡といえば、俺の後ろにあるてめぇのものだけだ。
誰が作ったのか、小さな雪達磨が身体を少し雪に埋もれさせながらも、松の木の隣で地蔵みてぇに佇んでいる。目に見立てた二つの石が、こっちを見据えているような気がした。

 『なーなー、土方さんもやろうぜ!雪合戦!陣は、オレと千鶴の方で!一緒に、左之さんと新八っつぁんを倒そうぜ!』

 『あれぇ?土方さんも参戦するんですか?じゃあ僕、敵陣に参加しようかな。』

京にいた頃、あいつ等が楽しそうに雪合戦をしている姿を目の当たりにした事を思い出した。雪なんて特に珍しくも何でもねぇのに、屯所の庭で雪達磨を作ったり、雪合戦したり。
がきみてぇにむきになって雪玉をぶつけあっている奴等の姿を、近藤さんと一緒に呆れながら眺めていたような気がする。

 あの頃―――多少の焦燥感はあっても、これ以上ねぇっていう位の充足感があった。
今のような状況なんて、誰も予想出来やしなかった。勿論…この俺も。
だからといって、志半ばで倒れていった仲間の思いや、背中に背負わされた物を全部置いて逃げ出すような不義理な真似は出来ねぇ。まぁ…そんな気もねぇがな。
冷たくなった俺の唇から零れたため息は、目の前を白く煙っては木枯らしに吹かれて流れていく。
天から降ってくる小さな粉雪が、俺の頬や鼻に当たっては俺の体温を奪いながら溶けて小さな滴となった。

 私の幸せはっ…貴方の傍にいる事ですっ……!

でっけぇ瞳から零れる涙を拭いもせずに、まっすぐに俺を見据えて叫んだ声が、今でも耳から離れねぇ。
「幸せなんか要らねぇ」と言った、江戸の気質を持った頑固な女。本土に置いてきた事を、今更ながら後悔しているあたり…俺も、焼きが回ったもんだ。
「幸せでも不幸せでも、傍にいたい―――か。がきの癖に、殺し文句を吐きやがって。」
ただのがきにしか思えなかったあいつが、だんだんと大人びて女の空気を纏うようになって―――真っ直ぐに見つめてくる視線の奥に孕む熱を、俺はずっと…気付かないふりをしてきた。

 『お炊き合わせ…ですよね。頑張りますっ!』
両肩を小さく上げて、力強く頷いて笑った顔。

 『ちゃんと、お休みして下さいっ…お薬は、飲まれましたか?』
細い眉を下げて、心配そうな顔で俺を覗き込む顔。

 『私の血を…飲んで下さい。私なら、大丈夫です。傷も…すぐに、治ってしまいますから。』
てめぇの体質に顔を歪めながらも、俺の為に―――てめぇの身を削ろうと、小太刀を抜いて切なそうに笑った顔。

俺達に関わっちまった所為で、何年もの間…無理矢理男装をさせて巻き込んだ。勿論あいつの事情もあったが、あいつの親父さんがああなった以上…もう自由になってもいい頃合だと思った。
 これ以上、俺の所為で、あいつの行く末を狂わせられる訳がねぇ。
がっくりと肩を落としながら、顔を上げて瞳を閉じ、冷たくぶつかってくる雪の粒の感触に身を任せていると。

「…土方君。」
廊下にいた小柄の男から、柔らかい声音で声をかけられた。
頭をふるふると振りながら雪を退けて、「何だよ、大鳥さん?」と返事をすると、大鳥さんは眉を下げながら小さく笑った。
「それは、こっちの台詞だよ。そのままだと、君が雪に埋もれて死んでしまいそうだったからね。声をかけたまでの事さ。」
「…俺が死ぬのは、戦場でだけだ。畳の上で死ねるとは思っちゃいねぇし、そもそもこんな雪位ぇで死にゃしねぇよ。」
大鳥さんは「そうかい?」と諦めたような声でそう言うと、俺に向かって黒い何かをぽいっと投げつけてきた。反射的に手で受け取ると、それは小さな黒い毛布だった。
「僕としては、司令官殿に風邪をひかれてもらっては困るんだ。本土に置いてきた大事な忘れ物が気になって、物思いに耽りたくなる気持ちは…分からなくもないけれどね。」
「…何の話か、分からねぇな。」
眼光を鋭くして睨み付けた俺の視線には意も介さねぇという顔で、大鳥さんは「まぁ良いけど」と小さく微笑むと。
「自分の事を虐めるのも、程々にしておきたまえよ。」
そう言って、軽い足取りで廊下を歩いていった。
悔しいが、大鳥さんの言う通り俺の身体は冷え切っていた。ふと見ると、俺の手は完全に白く生気を失っちまっている。
 ったく…あの人には敵わねぇな。
ため息をつきながら、俺は黒い起毛の毛布を肩にかけた。その瞬間。

 『そのお仕事が終わったら、ちゃんとお休みして下さいね。』

宇都宮で負傷した時―――床についたままで仕事をしていて、後ろから千鶴に「冷やさないように」と着物をかけられた時の事を思い出した。
 くそっ……!
肩にかかっていた毛布を強引に剥ぎ取り、俺は苦々しく舌打ちをした。
庭の地面に白く降り積もっている雪の上に、毛布がばさりと覆い被さる。毛布で出来た小さな風に吹かれて、敷き詰められていた粉雪がふわりと小さく舞った。
胸の奥でじくりと滲むような痛みが、深く刻み込んでいる眉間を更に歪めさせる。
顔を上げると、黒々とした闇は星一つなく、小さな雪の粒だけが舞い降りてくるだけだった。上空で吹き荒んでいる風は、まだ止みそうもない。この深い夜の闇も。ちりちりと痛みを覚えるような冷たい、この雪も。
 このまま、冷やして凍える事が出来たら良いんだがな。
降り積もる雪で、この雪深い地のように、全てが白く埋もれちまえば良い。
あいつを手放した事の、後悔の念も。
もう一度出会えたらと…叶う筈のねぇ、この馬鹿な願いも。
今にも抱きしめて、離したくねぇと想う位の…この、愚かな熱情も―――。

 「 千 鶴 」

寒さで凍えて乾いた俺の唇は、熱を孕んだ声を含んで…愛しい女の名を呼ぶ為に、小さく形を変える。
だがその声は、粉雪と共に冷たい突風に攫われ―――誰の耳に届く事もなく…張り詰めた空気の中にかき消えていった。


-了-

――― あとがき ―――
蝦夷地で一人きりで耐える土方さんは、私の中ではかなりオイシイ設定です。
「格好付けの土方さん」や「ツンデレな土方さん」、「鬼副長な土方さん」よりも、私は「一人の男性として悩める男・土方氏」や、「周りから困らせられてヘタレている土方さん」が好きなんですよ(マニアック?w)。
そんな訳で、「蝦夷地という極寒の地で思い悩む土方さん」は、結構なツボだったりしますw

土方さんが浸っている時に大鳥さんを出したのは、わざとです。
当時の土方さんに茶々を入れられるのは、彼くらいなんじゃないかと思いまして。
度重なる戦で色々と疲弊してますし、千鶴ちゃんは傍にいないしで、土方さんは物凄く荒んでいたんじゃないかなぁと。そうなると、一般兵士や島田さんは、おいそれと声をかける事すら憚れたんじゃないかと思ったんですね。
大鳥さんは、函館奉行所の中で唯一土方さんにはっきりと意見を言う爽やか策士さん(だと勝手に解釈してますw)な立ち位置なので、わざとあんな風に意地悪さんな物言いをさせてみました。
「自分を虐めるのも程々にしたまえよ」は、私がどうしても言わせたかった言葉です。

そして回想シーンでは、本編にあった場面を思い出せるだけ散りばめてみました。
土方さんが静かに耐える苦しさや切なさを出したかったので、仲間と袂を分かつシーンや死に別れるシーンは、わざと出していません。
「今思えば、あれはとても幸福な事だったのか…」と、彼が懐かしさを思い起こしたり、後悔の念で苦しんでいる姿を書きたかったからです。

 タイトルの「SNOW」ですが、このお話を書くきっかけになった曲のタイトルです。B'zの「SNOW」というバラード曲です。とても素敵な曲です。
サブタイトルの「届かぬ温もり」は、彼が愛しさを込めて呼んだ声の熱(温もり)は、彼女の元には届かない…という事を表しています。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

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※現在、WEB拍手は3作品です。
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