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2015/08/29

至高の花- It's just what you said -

幕末設定。土千風。風間と対峙する土方さんのお話。



皆が既に寝静まったであろう、夜も更けて久しくなった頃。
外がやけに明るいと感じてふと顔を上げると、目の前にあった障子戸の隙間から零れる月明かりが、いつのまにか文机の上に細い線を描いていた。障子戸をすらっと開けると、真っ暗な闇の中で丸い月がぽっかりと高く浮かんでいる。
 ―――あぁ、今夜は満月か。
筆を置いて、ふぅっとため息を付きながら首を左右に曲げると、あちこちでごきり、ぐきり、と鈍い音が鳴った。
昼餉の後からずっとここで働きづめだったからな…ちぃとばかし、肩が凝っちまったようだ。文机の上にある湯飲みを手に取ると、底にあった数滴の水分の端っこが乾き始めている。休みもとらずにどれ位の間仕事に没頭していたのか、てめぇでも窺い知る事が出来る程の有様だ。
 …茶でも淹れに行くか。
座布団から腰を上げると、正座していた俺の身体の跡がくっきりと残っていた。冷え切っている湯飲みを片手に、俺は勝手場へと向かった。

 屯所の中は静まりきっていて、冴えた月明かりだけが柔らかく照らしていた。冷たい木枯らしが、境内の大銀杏の木を大きくざわつかせている。
出来る事なら茶と茶請けを手に一句…といきてぇところだが、朝までに仕上げたい書状がいくつかある。他にも片付けておかねぇといけねぇ仕事がわんさと溜まっちまっているし、茶を飲んで一息ついたらまた仕事へ逆戻りだ。まずは、山崎から出された報告書を確認して、それから―――あぁ、やっぱり今夜は明け方前まで床には入れそうにもねぇな、と思わず苦笑した。
この分だと、俺が落ち着いて発句に励めるようになるのは、まだまだ先の事になるに違いねぇ…そう思うと、何だか複雑な気持ちになった。嬉しいとも思うし、少し悔しいとも思っちまう。
それでも、てめぇ等で出来る事を模索して前を向いていられるだけ、幾分かはましな方だと思った。浪士組の時に比べれば、今の生活の方がずっと充実しているといっても過言じゃねぇ。
いつの日か、近藤さんが胸を張って「武士」を名乗れるようになって、あの人柄と武勲が認められるようになる日がきっと来る。それまでは、俺が―――ん?
屯所の庭先で、音もなく佇む人影が目の端に入った。原田や新八の上背に近い、すらりとした長身。人の気配を感じさせずに緩やかに凛と立つその風情には、確かに見覚えがあった。俺は大刀の柄に手を添えながら、静かに口を開いた。
「おい。新選組の屯所に単身で乗り込んでくるたぁ、良い度胸じゃねぇか。」
「…む。貴様か。」
くるりと優雅に振り向いた顔は、赤い瞳を宿した鬼と名乗る者―――風間千景だった。


 風間は構える様子もなく、口の端だけを歪めて見下した顔で笑っている。
余裕のある面しやがって…腹の立つ野郎だ。「壬生狼」と呼ばれるこの新選組の屯所に乗り込んできた姿を、「鬼副長」と呼ばれるこの俺に見つかったんだぞ?身を強張らせる素振り位、見せても良いってぇのによ。
「また、あいつを拐しに来たのか?悪いが、あいつは新選組預りの身だ。無理強いするようなら…」
「…ふん。あの女を連れて行くのに、はなから貴様等の了承を得るつもりはない。あれは、俺の妻になる女だ。俺の気分次第で、いつでも迎えに来れる。今宵は、貴様達が我が妻に無礼を働いていないか、様子を見に来ただけだ。」
「何だと…?」
確かにここは男所帯で、あいつは平隊士に隠してはいるが女の身だ。幹部達が常に守っているとはいえ、間違いがあっちゃならねぇと思い、それなりの配慮はしている。
だが、てめぇの事を鬼と呼ぶこいつに獣呼ばわりされる程、俺達新選組の奴等は腐っちまっているとは思いたくねぇ。何より、こいつにそんな扱いを受ける謂れもねぇしな。
「…俺ぁな、女の趣味についてどういう言う程、野暮なつもりはねぇよ。だがな、あいつはまだ大して成長もしてねぇがきじゃねぇか。それとも何か?鬼ってぇのは、幼い女を無理やり拐して娶るのを常識にしてんのか?…はっ、人間を下等扱いしてる割には、そこいらの狼藉者と対して変わらねぇじゃねぇか。文字通り、鬼畜だな。」
俺の嘲りの言葉と視線に腹を立てた様子もなく、風間はくっくっく、と低く笑ったかと思うと「分かっていないようだな」とも言わんばかりの瞳で軽くため息を吐いた。
「やはり貴様達人間は、見る目もないようだな。まぁ下等な生物だからな。是非もないが。」
「…どういう意味だ。」
こいつの嘲り方は以前と変わらねぇが、今の言葉は同じ「男」として嘲られたような気がする。がきを拐すような奴に蔑まれるのは心外だ。
俺が視線を一層厳しく刺すと、風間は袂に手を入れて腕組みをしながら、さも愉快そうに低く笑った。
「貴様達には縁がないのだから、知らんのだろうがな。元来、女鬼というものは見目麗しい容姿を持つ。それこそ、見た者全てを惑わせる程の―――な。人間でも、運が良い奴なら目にする事位はあるだろうが…その後の行く末は地獄だ。ただの人間は、心を翻弄され、自我を壊され…己の身すら投げ出すほどに恋狂う。「至高の花」というものは、所詮人間のような下賤な生き物には過ぎた代物、という訳だ。」
歌うように賞賛の言葉を紡ぐ風間の言葉に、俺は思わず息を飲んだ。
鬼―――確かに、夢物語とかに出てくる女の姿をした鬼は、美しいと称される事が多い。風間の容貌を見ても、高貴な血脈の一族は恵まれた容姿を持つのかもしれねぇ―――…が。

 「土方さん…あの、夕餉をお持ちしました。こちらに置いておきますから、召し上がって下さいね。」

身を硬くして居住まいを正しながら、握り飯を乗せた皿と茶を乗せた盆を遠慮がちに置いて、儚げに笑うあいつの姿を思い出した。
 …言っちゃあ悪いが、想像もつかねぇな。
「千鶴が、心を翻弄するような至高の花だと…?あいつを子孫繁栄の為の道具として見ている割には、意外にも褒めちぎりやがるんだな。鬼のお前が、あんながきに恋狂ってるって訳か。」
風間は形の良い眉根を少しだけ歪めた後、口の端を歪めてにやりと笑った。
「物を知らぬというのは、愚かな事だな。あの女は、人間達にまみれて暮らしていたせいで多少鄙びてはいるが、卑しくも由緒正しき雪村家の末裔だ。あと数年のうちに、一際目を引く容姿に変わるだろう。尤も、それを見る事が出来るのは貴様達ではなく、この俺様だがな。咲き誇った花を無残に散らされる前に、我が妻に迎える。」
風間の言葉がそう言った瞬間、一迅の風が吹き荒れる。思わず顔を背けて、腕で風を受け流しながら過ぎ去るのを待った。風が去った後にはいつもの静寂が戻っていて、鬼の姿はもうどこにもなかった。
「…あいつは、一体何しに来やがったんだ?」
 千鶴を攫うのなら、俺がここへ来る前にいつでも出来た筈だ。まさか―――本当に、様子を見に来ただけだっていうのか?
思わず、ぷっと噴き出した。
鬼とやらも、惚れた女には弱いって事か。あの傍若無人な野郎にも、可愛いところがあるじゃねぇか。
あんながきでも、女だって事は変わらねぇって事か…ある意味、鬼よりも怖ぇ生き物だ。
まぁ…あいつがどんな容姿に変わろうと、俺達新選組が守る事に変わりはねぇ。そうだ、たとえどんな花になろうとも―――だ。
いつの間にか廊下の床に転がっていた湯飲みを拾い上げて、俺は勝手場へと続く廊下を歩いていった。


「―――さん。起きて下さい。」
まどろむ意識の中、優しい女の声と、遠慮がちに肩を揺する小さな手の温もりが俺を呼びかけてくる。
重たい瞼をゆっくり開けると、艶やかな髪を後ろに束ねて結んだあの頃よりもずっと大人びた美しい女が、あの頃と同じ心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた。
「こんなところで居眠りしていたら、風邪をひいてしまいますよ。」
どうやら、てめぇの部屋で横になってごろごろしていているうちに、居眠りをしちまったらしい。ゆっくりと身体を起こすと、さんさんとした太陽が外を照らしていた。寝起きの目には少々眩しくて、俺は頭を振ってから何度も瞬きを繰り返す。
「…すまねぇな。居眠りをしちまってたようだ。」
「眠っていたのは、ほんの少しでしたよ。今日は暖かいですし、いいお天気ですから。あ、お茶でも淹れて…きゃっ!?」
俺から離れていこうとする細い身体を、強引に腕の中に引き入れて抱き寄せる。後ろから抱き締めて首元に顔を寄せると、ふわりと花に似た香りがした。
「とっ、歳三…さん?」
頬を赤く染めて、困ったような怒ったような顔で俺に顔を向けてくる。面差しは随分大人びたが、俺を見つめてくる凛とした瞳は全く変わらねぇ。
美しく、清廉で。しなやかで、強かで。一度その姿を目にしたら、心を翻弄される―――「至高の花」。
「…あの野郎が言ってた事も、まんざら嘘でもなかったって訳だな。」
「え?」
俺がぼそっと呟いた言葉に、腕の中で恥ずかしげに困っていた顔が、きょとんとした不思議そうな顔に変わる。
「…何でもねぇよ。千鶴。明日は、花見にでも行くか。そろそろ、桜が見頃だろうからな。」
「はい。」
大きな瞳を細めて、嬉しそうに微笑む千鶴は、まるで花が綻ぶようで。
誰にも渡すつもりのねぇこの美しい花を、俺は腕の中で強く抱き締めた。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、「高貴な鬼の一族なら、容姿も優れているんじゃ?」と思ったのがきっかけでした。
千鶴は色々な意味で超無自覚さんですし、傷がすぐ治るという秘密を抱えて生活していた訳ですから、「箱入りさん」な部分もありそうだな、と。
人間が作り上げた町で人間として住んでいた訳ですし、鬼が醸し出す「美」は多少埋もれていても不思議じゃないかな?と思いまして。
それなら、鬼の一族であるちー様は分かっていても、人間である他の隊士は分かっていないかもしれない!
そう思ってあの展開となりました。

そして、「ちー様と対峙するなら、やはり土方さんかな!」という訳で、対峙する相手として彼が選ばれたのでした。
対峙相手を平助君にしようかとも思ったのですが、「至高の花」というある意味ロマンチストな言い回しを恥ずかしげもなくするっと受け止めるのは、やはり土方さんかな…と(平助君なら、その言葉に若干照れが入りそう)。

ちなみに、サブタイトルである「It's just what you said.」は、「君の言うとおりだった」という意味です。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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