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2015/08/29

微笑みの理由 -Happiness is by your side-

斎藤ED後。斎千。上機嫌の千鶴ちゃんと天然一さんのお話。


「…今、帰った。」
 帰宅した俺が家の戸板をがらりと開けると、奥の部屋で人の動く気配がした。
 顔など見ずとも、その人物が誰なのかは分かりきっている。この建物の家主は俺で、共に暮らしているのはただ一人―――。

「すみません、ちょっと手が離せませんでしたっ…!」
 少し焦ったような声が聞こえて、部屋の奥からとたとたと軽い足音が近づいてきたかと思うと、小さな人影が姿を現した。
 在りし日の俺がしていたように、右側に流して一つにまとめられた、長い黒髪。
 薄い鶯色の着物を来た女子姿の千鶴―――俺の妻は、俺の前でそっと膝を折ると、軽く頭を垂れてにこりと微笑みを浮かべた。
「お帰りなさいませ、一さん。」
「ああ。ただ今、千鶴。」
 洋物の「ぶーつ」という履き物は、草履とはかなり勝手が違う。多少履き慣れているとはいえ、家に上がる時はいつも手間がかかるのは致し方ない。
 履き物を脱ぐ為に、俺は腰に差していた愛刀を「すまん」と言って千鶴に渡した。
「はい。」
 いつも如く千鶴は、恭しく両手で俺の刀を受け取ると、大事そうに抱えた。その姿は、花嫁修行をしたばかりの若妻のように見える。…実際、間違いではないのだが、何やら照れ臭いものがあった。
「今日は、いつもより少しお早いお帰りですね。」
 上がり框に腰を下ろしながら履き物を脱いでいると、背中にそんな言葉が投げかけられた。
 …そういえばそうだな。
 窓の端から見える外の暗がりと、家の中の明るさを見比べると、少しだけだが明るいように思えた。
 秋口に比べると、日の落ち具合もかなり早くなった。俺が夕暮れ時に帰れるという事も、今ではかなり稀なものだと思う。
「ああ。今日の仕事は、書物の整理整頓だった。それ程手間を取られるものでもなく、早めに終わる事が出来た故、上役が「今日は早めに切り上げよう」と言ってくれたのだ。」
「そうですか。一さん、お疲れでしょう?お食事の前に、先にお風呂に入られてはいかがですか?」
 …風呂か。
 今日の仕事場は、長年物置として使われていた場所だった為、少々埃っぽかった。
俺自身も、今着ているものも、少し埃の匂いがする。
 明日は、着物で勤めに出るか…。
 この洋装も、俺が今でも敬愛する新選組副長…土方副長から賜ったもの故、大切に扱わなくてはいけない。
 その為、手入れについては町の店などには出さず、俺と千鶴が常に細心の注意をもって行っていた。
 着物と同じように、洋装にも夏物があるらしいのだが、いかんせん少々特殊な着物の為、仕立て代が馬鹿にならない。後で聞いた事なのだが、俺も含め新選組の幹部達が着ていたこの洋装は、なかなかに高価な物なのだそうだ。
 今の生活は、決して裕福なものではない。実際、命があるだけでも有難い身の上だ。
二年間の投獄の末、やっと外に出られて…生きるか死ぬかわからないままの俺を、ずっと待っていてくれた千鶴。その千鶴を傍に置き、やっと…やっと、娶る事が出来た。
 それだけでも幸せだというのに、更に食い詰めてまでして、己の着る物を新調したいとは思わぬ。俺が、身体に異常をきたさぬよう心がけていればいいだけの話だ。
「…一さん?」
「ああ、少々…考え事をしていた。そうだな。先に、風呂に入らせてもらおう。だが、支度は―――」
「大丈夫です。一さんがお帰りになる前に、湯をはっておいたんです。今頃なら、少しぬるいだけだと思いますよ。温め直しますね。」
「そうか。すまない。」
 履物を脱ぎ終えた俺が礼を言って立ち上がると、千鶴は「いえ」と笑いながらするりと立ち上がった。

 風呂場の窓から、夕暮れの空の景色が見える。
 それと共に、風呂の湯加減の番をしてくれている千鶴の、楽しそうな小さな鼻歌が聞こえた。
 …何やら、いつもより機嫌が良いようだな。
 千鶴の機嫌が良くなる事…何だろうか。
思い当たる事と言えば、いつもより洗い物が綺麗になり、良く乾いたとか。
それとも、買い物の時に安くて良い物が買えたとか。
掃除をしている際、なくしたと思っていた物が見つかったとか。
 …些細な事ばかり、だな。
 己の想像の乏しさに小さく自嘲すると、俺は両手ですくった湯でぱしゃりと顔を洗った。
確かに、酷く些細な事ではある。だが、千鶴はそれさえも心から嬉しそうに笑っては、楽しそうに俺に話してくれるのだ。
 俺が口下手な故、千鶴の話について上手く返せた事はほぼない。
左之や平助、新八…総司だったら、上手く話を盛り上げて千鶴を楽しませる事が出来たのだろうが、生憎俺はそのような事は不得手だ。
 それでも千鶴は、「一さんが聞いてくださるだけで、嬉しいんです」と笑ってくれる。

 「俺は、そのままで良いのだ」、と。

 在りし日の仲間達が、「個」の俺を良しとしてくれていたように…千鶴もまた、ありのままの俺を受け入れてくれるのだ。
 今の幸せを、大事にせねばな。
 俺は、外で楽しそうに鼻歌を歌っている千鶴に、風呂から上がる事をそっと告げた。

 風呂から上がり、長着に着替え終わって居間へと戻ってくると、千鶴が「どうぞ」と言って茶を出してくれた。
 いつも座っている場所に、いつもの座布団。
 千鶴が俺の為に出してくれた茶は、風呂上がりで喉が渇いていた俺の身体に、溶けるようにじんわりと染み渡っていく。
 こくこくと茶を飲んでいる俺を見る千鶴は、やはり嬉しそうに頬を緩ませてにこにこと笑っていた。
 …一体、どうしたのだろうか。
「一さん。今日は、夕餉の前にご一献召し上がりますか?それとも、後になさいますか?」
「…あぁ、では、後にする。」
「分かりました。では…」
「それより、千鶴。今日は、何か良い事でもあったのか?」
 俺が、既に空になった湯飲みを千鶴に渡しながらそう問いかけると、千鶴はこてり、と小首を傾げながら「えっ?」と聞き返してきた。
 どうやら、上機嫌でいたという自覚はなかったらしい。
「そのようにずっとにこにこと笑っていれば、何か良い事でもあったのだろう。」
「えっ…私、そんなに笑ってましたか?」
「あぁ。」
 俺がこくりと頷くと、千鶴は大きな瞳をぱちぱちと瞬かせながら、「そうですね、ありました」とはにかんだ。
 何だ…?
 こんな風に、千鶴の機嫌を良くさせた物が一体何なのか―――俺は、気になって仕方がなかった。
 女房の機嫌が良い…勿論、機嫌が悪いよりは良い事なのは間違いない。
 事実、そのまま素直に「そうか」と納得すればいいだけの事だ。己の予想が、ただ確信に変わっただけ。
 それなのに、どうにも俺は千鶴の事となると、独占欲というものが顔を出してしまうらしい。
 千鶴が上機嫌になる事…どんな事だ?
 風呂場でも考えていたが、俺は改めて己で思いつく限りの想像をしてみた。
 …どれもしっくりこない。
 俺が黙って考え込んでいると、千鶴はにこにこと笑っている。
「…どうした?」
「一さんがいます。」
「はっ?」
 俺が間の抜けた言葉で聞き返すと、頬を薄い桃色に染めた千鶴が、緩やかな声で言った。
「一さんが、いらっしゃるからですよ。」
 …何?
 俺がその場でぴしり、と固まっていると、千鶴は俺が「分かっていない」と悟ったらしい。軽く正座していた己の体勢を少し整えてから、「機嫌が良い理由です」と笑いながら口にした。
「今日は、いつもより早く一さんのお顔が見れましたから。それが、すごく嬉しいんです。一さん、今日も元気に帰ってきて下さいました。しかも、いつもより少し早めに。それが、とても嬉しくて……。」
「…!」
「元気なお姿で、帰ってきてくださる事が…嬉しいんです。」
 そう微笑んだ千鶴の瞳には、情けない顔をした俺の顔が映っていた。
 嬉しそうな、泣きそうな、笑いそうな…どう説明したら良いのかわからない。今の、自分の心持ちも。
 投獄の間も…千鶴は、ずっと俺の事を待っていてくれた。
 そして、俺と添い遂げた今も、こうして―――…。
「…千鶴。」
 俺は、そっと千鶴の手をとった。この手に触れられる位置にいる事こそが、幸福な事なのだと…改めてそう感じた。
「今後は…出来るだけ、早く帰るように努める。」
「い、いえっ…!あ、あの、責めている訳ではありませんからっ。一さんに、ご無理をして頂きたい訳でもなくてっ…!」
「分かっている。俺が、そうしたいのだ。これ以上、お前を…待たせたくないのでな。」
「一さん…。」
 千鶴は大きな瞳をすっと細めてにこりと笑うと、「はい」と小さく頷いた。
 俺も小さく笑って頷くと、千鶴は今度はまるで子供のような無邪気な笑みを浮かべた。
「それでは、私もお待たせしないように頑張りますね!」
「?」
「夕餉です。一さん、おなかすいてらっしゃいますよね。」
 千鶴の声で紡がれた「夕餉」の言葉に、俺の腹が「ぐぅ」と返事をする。思わず二人の視線が、俺の腹に集中した。
 情けない…。
 俺が恥ずかしさでぷいっと顔を背けると、千鶴は「一さんは、いつでも正直ですね」と、くすくす笑った。
「それでは、すぐに支度をしますね。私も、一さんをお待たせしたくないので。」
「…ああ。お願いする。女房殿。」
 そう言いながら、すっと立ち上がった千鶴に俺が静かな声音でそう言うと、何故か千鶴はかぁっと真っ赤な顔をして、ぱたぱたと足早に土間へと向かってしまった。
 …何か、おかしな物言いをしたのだろうか?
 まぁ…後で聞けばいいだろう。
 ここで、朝も夜も共にいるのだからな。
 俺は小さく笑って胡坐を組み替えると、すっと肩を力を抜いた。

 幸福という、空気の中で。



-了-

――― あとがき ―――
このお話は「ほのぼの天然夫婦の、ほんのり幸せな風景」をテーマにして書きました。
一さんルートの千鶴ちゃんは、一さんが投降した後はひたすら待ちに待っていた…という事があったので、「早く帰ってきてくれた」事に、すごく喜ぶのではないかと思って、上機嫌にしてみました。

実際、大好きな人が大好きな人のところへ帰って、「ただいま」「おかえりなさい」って言えるのは、とてもとても幸せなことですしね。
この二人なら、こういう事で幸せを感じてもアリなのではないかな、と思って書きました。

タイトルの「微笑みの理由」ですが、そのまんまですねーw
一さんは、千鶴ちゃんが自分からバラさない限りは分からないんじゃないかと思ったりw
悩む男が好きなので、私が書く一さんは大抵思い悩みますw超くだらない事でもwww

サブタイトルの「Happiness is by your side」は、「幸福は君の傍にある」という意味なんだとか。
いつも二人で、思い合って寄り添いあって行く事が幸せなのかな、と。そんなニュアンスで選びましたw

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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