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2015/08/29

まことの瞳 - Believe -

幕末設定。斎千。御陵衛士として屯所を離れる、一さんのお話。


『一つ―――頼まれちゃくれねぇか、斎藤』

夜の巡察の報告時、副長の部屋で秘密裏に命じられた…誰にも知られてはならぬ務めを耳にした時。
昼間とはうってかわって闇と静寂が満ちている所為か、仄かに漂っている梅の香が瞬時に強くなったような気がした。

『他でもねぇ。頼みってのは―――』

整った薄い唇から搾り出すかのように紡がれた低い声音は、推し量らずとも「不本意なもの」だという事を告げている。
形の良い眉根を歪めながらも俺をじっと見据える二つ菫色の瞳は、今にも鯉口を切って斬りかからんばかりの強い光を帯びていた。

 俺が腕に覚えのあるものといえば、剣技のみだ。
さりとて、何処かで仕官するには必要不可欠となる世渡りの術は、不出来としか言いようがなく。更に俺は、剣の道では「異端」とされる左利きを善しとしている。
このような不器用な俺を、「個」として認めてくれる場はないものかと探して渡り歩き…活きる術と生きる道に惑って、己というものをすり減らしながら生きてきた。
 その俺を導き、身の置き所を与え、心を砕いてくれた仲間達。これまでの恩を鑑みれば、己の身など…惜しくはない。
たとえ、皆の目に映る俺の姿が「離反した裏切り者」に見えたとしても。
新選組の為…己が信ずるものの為に、務めを担う事が出来るのならば―――。
「…副長。」
俺は膝元に両手をそっと付くと、ゆるりとした動作で頭を垂れた。
「…俺で役に立てるのであれば、謹んでお受けします。」
お辞儀をした瞬間、横に無造作にまとめていた髪の先がさらりと畳を掠めた。

『嫌われ者の役目を押し付けて、すまねぇな』

小さく息を呑む音と共に、副長の声が微かに震えていたような気がした。
瞠目しながら身体を起こすと、副長はいつのまにか俺から文机へと身体を向き直して書状を広げていた。端正な横顔は表情一つ変わっておらず、副長は普段通りの口調で「それで、日取りの事だが」と、話を進め始めた。


「一君、用意出来た?」
俺がまとめた荷駄を荷車の上へと積んでいると、平助が声をかけてきた。平助の中には、やはり割り切れぬ思いがあるらしい。張りのある声が、心なしか普段よりも弱いものに感じられた。
「…ああ。あとは、この荷物を乗せれば仕舞いだ。」
「そ…っか。」
平助は、居心地の悪そうに眉を下げて無理に笑みを作った。どうやら、左之や新八と顔を合わせたらしい。試衛館時代から常につるんでいたからこそ、気まずく居た堪れない心持ちなのだろう。
「一君は…さ。何で―――」
平助はそこまで問いかけると、俺の顔を見つめたまま、暫く無言になり。
「やっぱ…いいや。何でもない。ごめんな、邪魔して。」
「…いや。」

『何で、皆と離れる事にしたんだ?』

おそらく、そう聞きたかったに違いない。
伊東参謀を新選組へと誘った自分ならいざ知らず、試衛館の皆を裏切ってまで己の思想が変わってしまったのか―――そう問いかけたかったのだろう。
もしかしたら、俺の返答で己の蟠りを振り払いたかったのやもしれぬと思った。
「では、斎藤組長。」
俺に一礼して、仲間と称するべき筈の者達がゆるりと荷車を動かし始めた。それと共に、俺も屯所の建物から一歩…また一歩と、足を進める。

「斎藤さん…!」

梅の香を含む冷たい風が、微かな声を俺の耳に運んできた気がした。
足元の土をじゃりっと音を立て、その場に立ち竦む。荷車は立ち止まっている俺を残し、「衛士」達と共にどんどんと大門へ近づいていく。
「斎藤さんっ……!」
もう一度俺の背中へと呼びかける、涙の含んだ高い声。
 …振り向くな。
己の信ずる道を歩む為に、俺は命じられた務めを果たす。ただそれだけの事だ。
それが―――たとえ、仲間と信ずる者達から「裏切り者」の烙印を押されたとしても。
俺は留めていた足をゆっくりと進めると、日に照らされて作られた屯所の影を踏みしめて大門を潜り抜けた。俺が通り過ぎていくと共に、隊士からの突き刺さるような冷たい視線も同じ速度で移動していく。
おそらく、当分の間このような視線は内外から無遠慮に投げつけられる事だろう。だがそれも、この務めを担うには仕方のない事だ―――。

「斎藤さん!雪兎です!」

 あのように、柔らかな声で呼びかけられる事は……もう二度と訪れないのかもしれぬ。
花が綻ぶような、可憐な笑顔で微笑まれる事は…もう―――。

つきり、と小さく痛んだ胸の内を隠すように、俺は春先の風で乱れた襟巻きをそっとかけ直した。


-了-

――― あとがき ―――
久しぶりに本編の合間にあったであろうと想像される(?)、本編つながりのお話です。
御陵衛士として隊が分離する事は、皆それぞれ思うところがあったんじゃないかと思い、一番辛くも健気に務めを全うしようとする一さんを書きました。

土方さんは、こんな感じで一さんに仕事を命じたんじゃないかなと思って、「二人だけの密談」にさせて頂きました。
まぁ土方さんは戦略を練る方なので、「斎藤は間者として使える人材だし、伊東さんに誘われてもいたから打ってつけだろう」という、冷静な判断をしたんじゃないかとは思いますが。
それでも、「間者」という「心を砕いている皆に本当の事を話せない立場」を命じるのは、それなりの罪悪感を持っていそうなので謝るような台詞も入れてみました。

お話の中に出てくる平助君ですが、やはり彼は惑いながらも自分で答えを見つけようとする人だと思ったので、一さんに問いかけようとしたけど途中でやめる…という展開にしました。

タイトルですが、「まこと」はわざとひらがなにしました。「新選組の誠」、「まことの武士のまこと」、「真実の真」をかけている為です。
サブタイトルの「Believe」は、「己を信ずる」、「仲間を信じる」という一さんの思い。そして、本当は一さんも心の中では「離れていても、仲間だと思っている彼等には真の自分を信じていてもらいたい」と思っていたんじゃないかなと思って、このタイトルにしました。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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