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2015/08/29

夢幻泡影 - treasure in the moment -

転生設定。沖千。流血表現有り。シリアス。



―――目の前に見えるものは、真っ暗な…闇だった。
漆でも塗りたくったみたいに、四方は真っ黒な暗闇が広がるばかり。そこに僕は、ぽつん…と独りで立っていた。
 此処は…何処だろう?
人より夜目がきく僕でも、辺りに広がる風景の輪郭すら捉える事が出来ない。朔月の夜でも、ここまでの暗さは見た事がなかったと思う。
周りの空気の流れ具合からみて、此処がやけに広い場所だという事は分かった。
耳を澄ませてみたけれど、近くに生き物のいる気配は全くしない。
何かの建物があれば、風に吹かれて物音がする筈だ。木々があれば、枝を揺らして木の葉が擦れ合う音だって―――それなのに、周りからは何も聞こえない。
僕は不審に思いながら、もう一度辺りを見回してみた。…やっぱり、何にもない。ただの真っ暗闇だ。
どうやら、此所にいるのは…僕だけのようだった。

 ん…?
ふと、右側に重量を感じたような気がして、そっと視線を向けると。僕の右手には、抜き身のままの刀が握られていた。
何年も使いこんできた、まるで身体の一部みたいに手に馴染む刀。
ちゃんと見えなくても、握り具合や感触で分かる。僕が、いつも腰に差している大刀だ。
 …この臭いは……。
握っている刀からは、微かに鉄の混じった生臭い臭いがした。左手の人差し指で、そっと刀の背に触れると、ぬるりと粘り気を含んだ液体がついている。間違いない…血だ。
 …さすがにこれは、僕でもちょっと…ね。
小さくため息をつきながら、僕が片手で刀を勢い良くぶんっと振り下ろすと、地面にびしゃり、と液体が落ちる音がした。
どんな経緯でこんな場所に突っ立っているのか全く分からないし、誰かを斬った記憶もない。それでも、誰のものかも分からない血で、自分の刀を汚したままにはしていたくなかった。
 やれやれ…一体何なのか、さっぱり分からないんだけど。
僕が、刀についていた残り血を懐紙で拭き取って、くしゃりと丸めた紙を後ろ手にぽいっと捨て去りながら刀を鞘へと戻した時だった。

 ―――!?
どく、ん…と。
何かを予兆させるみたいに、胸の奥の動悸が大きく跳ねた。
この症状には、覚えがある。間違いない…あれが、くる。
 嫌だ。くるな。くるな…!
僕の拒否も虚しく、それはいきなり襲ってきた。
突然ぐっと息が詰まったかと思うと、心の臓をぎゅうっと鷲掴みにされたみたいな激痛が走る。
どくん、どくん…と、身体の奥で跳ねる鼓動は、段々と速さを増していって。それと一緒に、僕の呼吸は平静さをなくしていって、ぜぇぜぇと肩で息をする程荒いものへと変わっていった。
 心の臓の鼓動が、耳障りな位に煩い。
喉が乾いて、ひりひりと焼けつくように痛む。
両手で誰かに頭を捕まれて、上下左右に激しく揺さぶられているような、激しい眩暈がする。
更に呼吸が上手く出来なくなってきて、僕は思わずその場に片膝をついた。
足りない、足りない…と、悲鳴をあげるような激痛が身体のあちこちに走って、僕の中に起きている苛立ちと焦燥感を、より一層煽らせる。
僕が、足りないと感じているもの。僕が、欲しがっているもの―――。

 『―――』

 さっきまで無音だった筈なのに、ふと聞き覚えのある誰かの声が聞こえたような気がした。
その声に反応して、僕が振り返ろうとした瞬間。ぐらりと視界が揺れたような気がして、暗闇の視界がぼやけるのと同時に、右側を中心に全身に痛みと衝撃がどすん、と走った。どうやら僕は、その場に倒れ込んだようだ。
 僕が、欲しがっているもの。求めている…もの。

  ―――沖田さん。

高く結い上げた髪を揺らして、僕に向かって遠慮がちに笑う華奢な姿が思い浮かんだ。
皆の前では、屈託なく笑う顔。
でも…僕の前だけでは、眉を下げて困ったように笑う…あの子。

 『千鶴、ちゃ…』

あの子の名前をちゃんと呼び終わる前に、ひゅう、と僕の喉が乾いた音を立てる。
倒れこんだ事と冷たい空気が身体に入りこんだ所為か、激しい咳が何度も何度も起こる。一際大きく咳き込んだ瞬間、僕は喉の奥から込み上げてきたものを地面に吐き出した。
 僕の喉の奥で聞こえる、ひゅう、ひゅう、という気味の悪い音。
頬に当たる、冷たい砂利の感触。
目の前にある、僕が吐き出した…小さな血溜まりの臭い。
いつのまにか例の症状は、痛みから酷い倦怠感へと変わっていた。まるで誰かに圧し掛かられているように重苦しさを感じるけれど、さっきの症状で気力を使い果たしてしまったのか…僕はその場から動けずにいた。

 相変わらず、何もない…真っ暗な闇。
生き物もいない。建物もない。此処にあるのは、暗闇の世界と…独りきりの僕だけ。
やっと呼吸が元通りに近いものになってきて、僕はごろりと仰向けに寝転んだ。四方の風景と同じように、天も真っ暗な闇が広がっている。淡い月の光や、小さく煌く星の粒さえも見えなかった。
 こんな…何処かも分からない場所で、独りで死んじゃうのかな。
労咳が進行した所為で、新選組一番隊組長として役に立てなくなって。
あのまま…役立たずになんて、なりたくなくて。
変若水に手を出しても、身体の動きが良くなっただけで病を追い出す事は出来なかった。それどころか、血を欲するという厄介な禁断症状の発作が追加されただけだ。
 …皆は、どうしているかな?
近藤さん。一君。平助。左之さん。新八さん。源さん。島田君。山崎君。あんまり思い出したくないけど、ついでだから…土方さん。
僕の頭の中に、仲間の顔が浮かんではゆっくりと消えていく。
 …僕は、もう何も出来ないのかな―――…?
目を開けていても閉じていても、変わらない真っ暗な暗闇。光が全く見えない漆黒の視界は、僕の道そのもののように思えた。
 何にも出来ない、役立たずの僕。
新選組のお荷物になる位なら…何処なのかも分からない此処で、このまま独りで朽ち果てていった方が良いのかもしれない。
こんな、弱い僕なんて…人斬りとして働けなくなった僕なんて、新選組には…必要ないんだから。
 ただ…あの子に、もう二度と会えないのは…ちょっと、寂しいけどね。

 「千鶴ちゃん。」
さっき呼べなかったあの子の名前は、思ったよりもするりと自然に僕の唇から零れて。何故かとても満足が得られた気になって、僕はゆっくりと息をついて瞳を閉じた。さっきまで石みたいに強張っていた身体の力が、何の抵抗もなくゆるゆると抜けていく。それが、とても心地良いものに思えた。
全身の力が抜け切ると、まるで僕の身体は地面と一体になったように感じられた。
そのまま、僕の意識が遥か遠くへと消えていこうとする中…何か強い感情をこめて、僕の名前を呼ぶ誰かの声が……微かに聞こえたような気がした。















「―――あのっ…起きて下さいっ!」
 いきなり耳に飛び込んできた、高めの声。
僕が肩をびくつかせて、ばちっと目を開けると。
目の前には、必死の表情で僕を見つめてくる女の子の顔があった。
「…あ……え?」
琥珀色の、大きな瞳。白くて柔らかそうな頬。綺麗な長い黒髪は、横にゆるく結わえてまとめられている。
僕の目の前にいる女の子は、大きな瞳をしきりにパチパチと瞬きさせながら、「大丈夫ですか?」と心配そうに聞いてきた。
白いシャツに、赤いリボンタイ。オフホワイトのニットに、目の覚めるような青いブレザー姿。格好は、まるで似ていない―――それなのに。


  『沖田さん !』
  「沖田先輩?」


目の前にいる女の子の面影は、さっき暗闇の中で思い浮かべていたあの子の面影とぴったりと重なった。
「君、千鶴…ちゃん?」
「はい?」
僕がそう呼びかけると、細い眉毛を少し下げて、小さく首を傾げながら「どうかされましたか?」と聞いてくる。間違いない、千鶴ちゃんだ。
僕は彼女の細い手首を掴むと、ぐいっと引いて抱き寄せた。
「きゃっ…!?」
「…良かった、また…会えて……。」
彼女の華奢な身体から伝わる温もりと、ふんわりとした柔らかい抱き心地。
やっと暗闇から現実へと還ってきた事が分かって、僕が安堵の溜め息を漏らしながら小さく呟いた時だった。
「てめぇは、何不埒な事をしていやがんだっ!!」
聞き覚えのある怒鳴り声と一緒に、後頭部を何かで叩かれたような痛みが走った。
殴られた痛みに「痛いなぁ」とぼやきながら、僕が声がした方へちらりと睨むと。苦虫を噛み潰したような表情で僕を睨みつける、あの人の忌々しい顔がそこにあった。
 ちょっと…よりによって、何で千鶴ちゃんの次に、この人の顔を見なくちゃいけない訳?
「総司。目が覚めたんなら、さっさと降りろ。雪村も、こいつを甘やかしてんじゃねぇ。残っているのは、お前等だけなんだからな。とっとと支度をして、斎藤達と荷物を運びやがれ。」
僕の中で完全に【小姑】と認定されているその人は、無駄に端正な顔を不機嫌そうに歪めながらそう言い放つと、僕達の横を通り過ぎて去っていった。

 辺りを見回すと、そこは小さなバスの中だった。
僕達が座っているのは、車内の左側に並ぶ座席の一番前だ。
右斜め前には運転手席、左側にははめ込み式の窓。その窓の向こうには、大きくて立派な体育館がどん、と建っていて、その周りには制服を着た生徒や私服姿の学生らしき人達が、バラバラと散らばっている。
僕達が乗っているバスのすぐの近くで、きっちりとネクタイを締めてきびきびと対応している一君の姿と、荷物を必死で運んでいる平助、軽々と荷物を運ぶ左之さんや新八さんがいた。
 あぁ…そうか。
今日は、剣道の試合だ。
三ヶ月毎に開催される、近隣の道場から集まって行われる他流試合。僕達は試衛館の門下生として、皆でレンタルバスに乗って会場まで来たんだっけ。
僕は、大きく息を吸い込んでゆっくりと深呼吸をした。痛みなんて、勿論ある筈がなかった。だって…この現世の僕は、労咳なんて患っていない。至って普通の、健康そのものの男子高校生なんだから。

 さっきのは、夢。
前の記憶が混じった、ただの…夢だ。
暗闇の中、独りきりだった事も。
労咳の発作と、変若水の禁断症状に苦しんでいた事も。
皆に会えないまま、役立たずの自分を呪わしく思った事も。
千鶴ちゃんに会えない事を…辛く感じた事も―――。
「…ねぇ、千鶴ちゃん。」
僕は、席から立ち上がってスカートの皺を直している千鶴ちゃんに、にこやかに声をかけた。
「はい、何でしょうか?」
屈託のない無邪気な顔で、千鶴ちゃんは僕に笑いかけてくれた。【昔の僕】には、決して向けられる事のなかった表情。【今の僕】に、向けられる顔だ。
「今日の試合に全部勝ったらさ…僕に、ご褒美をくれない?」
「ご褒美…ですか?」
「うん。あのね…」
【昔】も【今】も変わらず、人からは「酷い」と言われる位の悪戯心を持った僕は、千鶴ちゃんの小さな耳元にそっと内緒のお願い事を告げた。
僕からお願い事を聞いた千鶴ちゃんは、真っ赤になって口をぱくぱくと動かしながら声を出せないでいる。恥ずかしがり屋さんのこの子なら、当然の反応かもね。
「…約束だよ?さぁ、お許しをもらえた事だし!今日の試合は、ちょっと頑張ろうかな。」
僕が、満足気に笑いながら伸びをして椅子から立ち上がると、「許してなんかいませんっ」と子犬が吠えるような千鶴ちゃんの文句が背後から投げつけられた。それを無視しながら、僕は上機嫌でバスのタラップを降りていく。
幸せな【今】の時間を、十分満喫する為に。
暗闇の夢で考えたような…諦めと投げやりに満ちた、あんな辛い後悔なんて…二度とする事がないように―――。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、「たまにはシリアスな沖田さんのお話も書きたいなぁ」と思って書き始めたお話です。
真っ暗な闇の中で、絶望視する沖田さんですが、病で心身を削られていく彼の心境を書いてみたくて、あのような書き方になりました。
どうしても、彼の黒い部分といいますか…色々と後悔をしながら諦めながらも孤独でいっぱいな気持ちを現したかったからです。

…とはいえ、あのままでは本当に救いがなくて厳しい感じがしたので、結局は「夢オチ」にしてしまいましたw;
私は沖田さんが最萌えキャラなので、どうしても甘やかしてしまいます;;;
彼の【今】の人生が、幸せで優しいものに感じられるように、少し甘めな終わり方にしてみました。

タイトルの「夢幻泡影」ですが、仏教用語で「人生が儚いことのたとえ」なんだそうです。
サブタイトルの「treasure in the moment」ですが、「宝物の瞬間」「時を大切にしろ」という意味なんだそうです。前の世の記憶を持ち、病魔に蝕まれて人生の儚さを知っている沖田さん。今を生きる時の大切さを、彼は幸せに感じながら過ごすんじゃないか…そう思って、このタイトルにしました。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

となみかや

となみかや/1073kaya Admin
薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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薬研&光忠(刀剣乱舞)

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