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2015/08/29

もう少しだけ。-acquisitive mind-

幕末設定。沖千。「緑華祭・弐」の「翻弄しないでくれる?」の番外編のお話。



 強めの日の光が、春の終わりを感じさせる…五月のある日。
 はぁ…退屈。
するりと撫でるようなそよ風を頬に感じながら、僕は小間物屋さんの軒下で、ふぁ…と小さく欠伸をした。
京の市中は、相変わらず賑やかだ。
花見の時期が過ぎても、京には色々な催し事があるから人の出入りは耐えない。日中の人の多さは江戸の町と変わらないけれど、土地柄の所為か歩いている人の足の速度は、江戸の人達に比べると少し緩やかだと思う。
店の柱に寄りかかりながら僕がぼんやりと町中を眺めていると、近づいてくる気配と一緒に聞き慣れた高めの声が聞こえた。
「沖田さん、お待たせしました。」
ゆっくりと視線を向けると、黒い風呂敷包みを両手で大事そうに抱えた小柄な子が、僕に向かってにこりと微笑んでいる。心なしかその表情は…屯所でいつも見ている顔よりも、ずっと明るいものに見えた。


 この子の名は、千鶴ちゃん。雪村千鶴ちゃん。
ちょっとした事情で、新選組の屯所で身柄を預かっている「居候」だ。色々な面倒が起きないようにって事で、「女の子」という事を隠して男装しながら「土方さんの小姓」という名目で生活している。
たまたま非番だった僕は、土方さんから「千鶴ちゃんのお守りするように」って、この子を無理矢理押し付けられてしまった。
 まったく…あの人って、本当に人使いが荒いよね。
訳知り顔でにやりと不敵に笑う、あの嫌味な位に端整な顔を思い出して、僕はきゅっと眉を顰めた。
千鶴ちゃんは、僕が「待ちくたびれた所為で不機嫌になっている」と思い込んだらしい。細い眉を下げながら、申し訳なさそうに「すみません」と謝ってきた。
 まぁ…結構待たされたのも本当だから、誤解させたままでも良いかな。
「遅かったね。僕、待ちくたびれちゃったよ。すごく退屈だったし。…それで、買い物は終わったの?ちゃんと良い物は選べた?」
「はい!お店の方が、薦めて下さって…」
千鶴ちゃんは、申し訳なさそうな顔をぱっと笑顔に変えると、嬉しそうに風呂敷包みの結び目を解こうとする。自分でもかなり納得のいく物だったのか、千鶴ちゃんは珍しく自信たっぷりで満足そうだった。
「良いよ、別に見せなくても。後で、屯所に戻ってから見れば良いんだし。」
「あ…そうですね。」
自分の浮かれ具合が恥ずかしかったのか、赤い顔で慌てて風呂敷包みを抱え直す姿が、ちょっと可愛くて。
くるくると表情が変わるこの子の顔を、もっと見ていたいと思った。
もっと、いろんな顔が見てみたい。誰も見た事のない、勿論僕も…もしかしたら、この子自身でも予想すら出来ないような、この子にとって「特別な人」にならないと見る事が出来ないような…「秘密」の顔も。
 本当、僕って…この子に対してだけは欲張りになっちゃうよね。
 まぁ…いいか。
「で、次は?どこへ行かなくちゃいけないんだっけ。」
「えっと…損料屋さんです。「よく使っているお店だから、沖田さんに聞けば分かる」と、土方さんが……。」
「あぁ、ふくし屋ね。僕は、あまり使った事ないけど。店の場所なら知ってるよ。ここからは―――」
千鶴ちゃんから「近い場所なんですか?」と質問されて、僕は反射的に口を噤んだ。

確かに、損料屋の「ふくし屋」はここから近い。
二つ目の角を右に曲がって、三つ目の十字路を左へ曲がった三軒目のところにある。何か話でもしながら歩けば、すぐに着く距離だ。
ちらりと千鶴ちゃんの方を見ると、大きな瞳でじっと僕の顔を見つめている。僕の口から出てくる答えを、ちゃんと待っているようだった。
 …ちょっと、惜しい気がするんだよね。
このまま真っ直ぐ損料屋へ行けば、土方さんから頼まれた用事は終わってしまう。用事がなくなれば、もう市中にいる必要もないから、さっさと屯所へ戻らないといけない。この子は真面目な子だから、僕が「寄り道をしよう」って誘っても、遠慮するか諌めてくるかのどっちかだと思う。時々、融通が利かない位に真面目なんだよね。まるで、どこかの不器用な三番隊の組長さんみたいだ。
 難癖をつけて言い包めるのも、面倒臭いしなぁ……そうだ。
僕は千鶴ちゃんに向かってにこりと笑うと、ふるりと首を横に振った。
「うーん、ちょっとだけ遠いかな。千鶴ちゃん、大丈夫?疲れてるなら、どこかで少し休むけど。」
「いえ、大丈夫です!日が暮れる前に、ご用事を済ませた方が良いでしょうし。」
僕の予想通り、生真面目な千鶴ちゃんはふるふると首を横に振った。
 …ほらね。
僕は、くすりと小さく笑って「じゃあ行こうか」と千鶴ちゃんに告げると、店がある方向とは真反対の方へと歩き出した。千鶴ちゃんは「はい」と言って、笑顔で僕の後についてくる。
「この道が正しい」って完全に信じ切っているらしい。ちょこちょことした足取りで、僕の後ろに控えているその姿は、まるで迷子にならないように親鳥の後をついてくる雛みたいだと思った。
 後で、わざと遠回りをしたって言ったら、どんな顔をするかな?
 怒るかな?困った顔をするかな?
 いっぱい見せてよ。
 君の顔、もっと見ていたいんだ。


僕が上機嫌で歩いていると、背後から千鶴ちゃんに「沖田さん、待って下さい」と、困ったような声でお願いをされた。
 ちょっと意地悪してみようかな…拗ねられそうだけど。
「君の足が遅いだけなんじゃない?君、どんくさいから。」
いつも通り、僕が笑いながらそう言って振り向くと…僕が予想した通り、千鶴ちゃんは白い頬をぷうっと膨らませて上目遣いで僕を睨んでいる。
そんな顔で怒られても、全然怖くも何ともないし。むしろ、もっと揶揄いたくなっちゃうから困る。
 本当に、期待を裏切らない子だよね。
予想が当たった事が嬉しくて、僕はぷっと吹き出すと、そのまま声を上げて笑った。
町の人が驚いた顔でこっちを見てきたけど、僕は不思議と…気にならなかった。


-了-

――― あとがき ―――
このお話は、WEB企画「緑華祭・弐」に参加させて頂いた際に公開した「翻弄しないでくれる?-Dazzligly-」の番外編のお話です。
このお話のエピソードは、最初「翻弄しないでくれる?」に収録する筈だったのですが、ちょっとメリハリのきかないお話になりそうだったので、土千の時と同様に削ったものでした。
とはいえ、やはりこのエピソードもとても気に入っていたので、「よし、番外編でいこう」と分ける事となりましたw

 タイトルの「もう少しだけ。」ですが、屯所にいる以上、「完全に二人きり」という事は殆どなさそうな二人なので、「もうちょっとだけなら、いいよね?」という沖田さんが千鶴ちゃんに「もう少しだけ傍にいてよ」と思っている…といういう意味を込めました。
サブタイトルの「acquisitive mind」は、「欲張りな心」という意味です。沖田さんは気まぐれさんで欲張りな部分がありそうなので、このサブタイトルにしました。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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