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2015/08/29

独占欲 - monopolistic desires -

幕末設定。沖千斎。独占欲が強い総司さんのお話です。


 土方さんの部屋で、巡察の報告を終えた帰り。
いつも通り、自室へ戻る前に退屈しのぎに揶揄ってやろうと思って、あの子の部屋へと足を進めると。
「千鶴。大きい物は俺が干す。あんたは、羽織や手拭を干してくれ。」
「はい!斎藤さん、ありがとうございます!」
中庭で洗濯物を干す千鶴ちゃんと、それを手伝う一君の姿があった。
さんさんと太陽の光が照りつける中庭。
初夏とはいえ、雲ひとつない晴天にこの暑さだ。江戸育ちのあの子に、京の厳しい暑さは堪えるだろう。額に浮かぶ汗を拭いながら、白く折れそうな細い手でせっせと洗濯物を干している。その隣で、一君がてきぱきと大物の洗濯物を干していた。

 千鶴ちゃんは、新選組預かりの身だ。捕虜。客人。どんな言い方でも別にいいけど、はっきり言えば新選組の隊士でも何でもない。ただの居候だ。
居候は居候らしく大人しくしていればいいのに、「少しでも皆さんのお役に立ちたいんです」とか何とか言っては、ああやって掃除や洗濯、食事の手伝いなんかしている。
本当に、変な子だよね。わざわざそんな面倒臭い事を、自ら買って出るなんてさ。自分の部屋で、大人しくしていれば良いのに。
仕事をもらったらもらったで、どんなものでも手を抜かずに健気に頑張ったりするから、その姿は嫌でも目に付いて。
あんな風にちょっとでも困っているような姿を見かけると、一君や平助、左之さん達はすかさず手を貸してやったりなんかする。
…そうすると、決まって。
「斎藤さん、ありがとうございます。隊士の方がどんどん増えてきましたし、洗濯物も以前よりずっと増えましたよね。」
あんな風に…花が綻ぶような笑顔を、相手に無防備に振りまくんだ。
―――それは、僕には滅多に見せてくれない笑顔。
顔を付き合わせる度に揶揄って苛めていれば、それは当然の事なのかもしれないけどね。それでも、面白くないものは面白くない。
それに、あの子は自分の笑顔の破壊力が分かってない。全然、分かってない。全くの無防備で無自覚だから、性質が悪い事この上ない。罪深いにも程があるよ。
「そ、そうだな。ただでさえ多いのに、この季節だからより洗濯物も増えるだろう。少しでも手に余るようなら、すぐに言え。俺から、他の隊士にも言っておく。」
「はい。大変だなと思ったら、お手伝いをお願いするかもしれません。」
「あんたは頑張りすぎるところがある。遠慮せず、無理はするな。」
「はい。」
 あぁ…ほらね。いつも無表情な一君でさえ、あれだし。一君のあんな顔、僕達では滅多に見る事が出来ない表情なんだけど。そこのところを、あの子は全然分かってないんだから。
…まぁ僕からしたら、気付かれても厄介なだけなんだけど。

 日向の中庭で暢気に笑いながら、洗濯物を干す二人。日のあたらない廊下で、馬鹿みたいに立っている僕。別々の世界にいるような気がして、だんだん昏い気持ちになる。
まるで筆先から零れ落ちた墨の滴のように、黒く重たい色が胸の奥に染み込んでいくような気がした。
胸の中の苛立ちをどうする事も出来なくて、それでもその場を離れられずにいると。
びゅうっと、強い風が吹いた。
強風に煽られる洗濯物を慌てて抑えるあの子の前髪に、風に乗って流れてきた小さな花びらが一つ二つ、ふわりと落ちてくる。
 !
幼い容貌と男装姿のせいか、普段は年齢よりもずっと子供のように見えるのに。艶のある黒髪が赤と白の花びらで彩られた瞬間、年相応の女の空気を纏った。
そうだ…いつもは幼さで隠れていて見えないけれど、あの子はれっきとした女の子。
父親が行方不明になどならなければ。夜の京で、見てはいけないものなど見たりしなければ。普通の町娘と同じく、女物の着物を着て、髪を結い上げて、簪を挿し、紅を引く。れっきとした、年頃の女の子だ―――。
「ちづ―――」
「一君。土方さんがさっき、君を探してたみたいだけど。」
花びらを取ろうと伸ばしかけた一君の手が、僕の声でぴたりと宙に止まった。
「…総司。」
「沖田さん。」
僕を認識した途端、千鶴ちゃんはぴきりと表情を固まらせる。さっきまでの穏やかな優しい笑顔はもうどこにもなく、小さな肩を縮めて少し怯えた瞳で僕の機嫌を伺う顔をしていた。その事実に、また昏い気持ちが蘇ってくる。
「今日の午前の巡察は、一番隊でしたよね。暑い中、お疲れ様です。」
表情を固まらせながらも僕に向かってぺこりとお辞儀をした瞬間、あの子の髪を彩っていた花びらはひらひらと踊るように地面へ落ちていった。また…元通り。いつものあの子だ。
「ありがとう。千鶴ちゃんも、お手伝いお疲れ様。暑いのに大変だね。」
「いっ、いえ!皆さんには、いつもお世話になってばかりですから…。」
やり場のない手を残念そうに下ろす一君を目の端で捕らえながら、僕は上機嫌で労いの言葉をかけた。揶揄う事は多くても、滅多に褒めない僕からの労いの言葉に、千鶴ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめて嬉しそうに微笑んだ。そんな千鶴ちゃんの横顔を見つめたまま、一君は何も言わずに下ろした手をぎゅっと握っている。
「…ところでさ、一君。土方さん、結構急ぎの用だったみたいだけど。こんなところで、いつまでも油売ってていいの?」
「斎藤さん。お手伝いして頂いて、どうもありがとうございました。後片付けは、私がやりますので。」
「…そうだな。それでは、行かせてもらう。」
「さてと。僕も部屋に戻ろうかな。じゃあね、千鶴ちゃん。暇だったら、また遊んであげるからね。」
「あ、はい。お疲れ様でした。」
『また』という言葉に小さく首を傾げながらもお辞儀をする彼女を中庭に置いて、僕達は幹部の部屋がある方向へ歩き出した。

「総司。さっき…わざと声をかけただろう。一体何を考えている。」
いつもより少し棘のある言葉で、一君が僕の背中をちくりと刺してきた。まったく…色恋沙汰には疎い癖に、妙に勘だけは鋭いんだから。一君って、やっぱりちょっと変わってるよね。
「んー別に?僕は君に声をかけただけだよ。それとも、伝えない方が良かった?土方さんが探してたって事。」
「…いや。すまない。助かった。」
腑に落ちないとでも言いたげな間を置いた後、一君は律儀にも僕にお礼を言って土方さんの部屋へ続く廊下を歩いていく。
僕はといえば、口角の上がる口元を手で抑えながら一君の背中を見送って自室がある廊下を歩き始めた。作戦が思いの外上手くいった事が嬉しくて、いつもより少しだけ足取りが軽くなった気がした。

……だってさ?

さっきの花びらを一君に取らせちゃったら。

まるで、女の子になった千鶴ちゃんを、一君が摘み取っちゃうみたいじゃない?

そんな楽しそうな事させないよ。

僕以外には。

絶対に―――ね?


-了-



――― あとがき ―――
このお話は、恋仲設定というよりは「沖田さんが勝手に千鶴ちゃんに片想いをしている」という設定にしています。
一さんも、内心は千鶴ちゃんの事を憎からず思っているので、三角関係になりますね。

「いつもは幼い彼女の「女性らしさ」を突然目の当たりにする事があったら、沖田さんや一さんはどう思うのかな?」と思ったのがきっかけです。
着物を着たり、お化粧したり…は本編で既にあるネタだったので、「髪にふわりとかかった花びらが、花簪のように見えた」という展開にしました。
本編の斎藤さんルートで「髪についた花びらを取る」というシーンがあるのですが、このお話は「沖田×千鶴」なので「そんな事はさせないぜ!」と沖田さんにわざと邪魔をしてもらい、「斎藤ルートのフラグ」をバキッと折っていただきました。
「沖田さんならやりかねないなぁ」と思ったのも、理由の一つですw

サブタイトルの「monopolistic desires」は、そのまま「独占欲」です。
実際は「a desire for exclusive possession」というそうですが、「monopolistic(独占的な)」「desire(欲求)」という方が彼らしいかな、と思ったので「monopolistic desires」を使いました。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

となみかや

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薄桜鬼・うたプリ・刀剣乱舞に、
重篤レベルで嵌り中。
千鶴受/春歌受/女審神者受

Twitter: @to7mikaya_3na10
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※現在、WEB拍手は3作品です。
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